尾形修一の紫陽花(あじさい)通信

教員免許更新制に反対して2011年3月、都立高教員を退職。教育や政治、映画や本を中心に思うことを発信していきます。

落語協会100年、雑誌『東京人』3月号「どっぷり落語!」は永久保存版

2024年02月14日 22時15分40秒 | 落語(講談・浪曲)
 今年は落語協会が創立100年になるんだという。3月1日の上野鈴本演芸場を皮切りに特別興行が予定されている。その詳細は「落語協会100年事業」で見ることが出来る。最初は大ネタの「百年目」を前半、後半に分けて二人の噺家が演じるという企画で、すでにチケットぴあでは売り切れている日もある。僕も「人間国宝」五街道雲助と弟子の桃月庵白酒の師弟リレーを狙っていたら、発売直後に売り切れていた。(代わりに初っ端の柳亭市馬林家正蔵の会長、副会長コンビの日を買った。)

 ところで、その落語協会100年を記念して雑誌『東京人』の3月号は「どっぷり落語!」と題した特集で、永久保存版と言いたい充実ぶり。とにかく面白い対談、座談会がいっぱいのうえ、資料的にも落語協会の全真打を流派ごとにまとめたり、「サンキュータツオが選ぶ夢の名人ラインナップ」など貴重なものが多い。落語が好きな人、寄席に行ってる人はもちろんのこと、落語をほとんど知らない人でも入門編として楽しめると思う。税込1051円もするので、僕も最初はためらったんだけど、本当に面白かった。

 まず一番最初が昨秋に「人間国宝」(重要無形文化財保持者)に認定された五街道雲助師匠のインタビュー。「了見だけはアウトローで。」とその意気や良し。そもそも人間国宝は芸能と工芸で認定されるが、芸能関係は歌舞伎や能楽、邦楽関係者に偏っている。落語で認定されたのは上方の桂米朝に、東京の柳家小さん柳家小三治、そして今回の五街道雲助とたった4人しかいない。「昭和の大名人」と今も語り継がれる桂文楽古今亭志ん生などは全く無視されていたのである。今回も柳家小三治死去を受けた認定だと思うが、何も落語界から一人じゃなくて良いはず。(それに舞踊やミュージカルなども認定して良いと思う))
(五街道雲助)
 その次が柳亭市馬(落語協会会長)と春風亭昇太(落語芸術協会会長)という二度と読めない「会長対談」である。「切磋琢磨の良きライバル」とうたっている。歴代の落語協会会長を見ると、年齢も高い大御所がズラリと並んでいる。文楽(8代目)、志ん生(5代目)、三遊亭圓生(6代目)、柳家小さん(5代目)と名人が並び、その後も三遊亭圓歌(3代目)、鈴々舎馬風(5代目)、柳屋小三治(10代目)と続く。市馬は2014年に52歳という歴代最年少で会長に就任した。芸協の昇太会長も2019年に60歳での就任で、前任の桂歌丸より大きく若返った。僕は二人の落語の大ファンだったから、早すぎる会長就任が残念だった。一番充実する時期を会務で取られてしまうのかと寂しかったのである。二人とも「プレイングマネージャー」(野球で「選手兼任監督」のこと)だから正直大変と言っている。全くその通りと同情するが、危機の時代に寄席を守るには若い会長を必要としたと思った。

 一番面白いのは、「楽屋裏の師匠たち。」である。表紙にもなっている林家正蔵柳家喬太郎林家彦いち三人の座談会で、「圓生、小さん、談志、志ん朝、小三治…」と副題があるように、昔の師匠を中心に裏話を語り合う。昔の師匠は本当に怖かった。そして「寄席」という場所の懐の深さも印象的だった。面白エピソード満載だが、これらの噺家が入門したのは圓生一門、談志一門の脱退を見た時代である。正蔵は立川志の輔を「うちの見習い」と紹介されていた。また、すべての対談で古今亭志ん朝が2001年に63歳で亡くなった不在の重さが語られる。存命ならば85歳、間違いなく会長、人間国宝になっていた。

 長くなってるが、まだまだある。「これからの百年、落語はどうなるの?!」という大テーマを語り合うのは、柳家三三古今亭菊之丞春風亭一之輔。「笑点」に出てる一之輔しか知らないなんて人は、是非とも他の人を今のうちから聞いておいてください。そして「マジに挑戦し続けますよ!」と題して蝶花楼桃花林家つる子の対談。これこそ読まずにいられぬ女性落語家から見た落語界である。こんな充実した対談、座談会が幾つもあるんだから、絶対に買って損はない。
(桃花とつる子)
 その間に落語協会百年を支えた噺家たち、落語ファンで知られる南沢奈央東出昌大の寄稿、「色物」と呼ばれる大神楽、物まね、奇術、粋曲、曲技、紙切りなども紹介される。紙切りは急逝した林家正楽師が紹介されていて感慨深い。お囃子や寄席文字など、もう書き切れないほどの情報が一杯詰まっている。初めて寄席に行ったら最初は戸惑うこともあると思うけど、やっぱり寄席を次の時代にも残していきたいなと僕も思う。落語協会ばかりじゃなく、いろいろ見たいんだけど、今年は落語協会のイベントが集中している。見る方も大変だ。

コメント    この記事についてブログを書く
  • Twitterでシェアする
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする
« 最高傑作『浮雲』、映画も原... | トップ | 映画『コット、はじまりの夏... »
最新の画像もっと見る

コメントを投稿

落語(講談・浪曲)」カテゴリの最新記事