尾形修一の紫陽花(あじさい)通信

教員免許更新制に反対して2011年3月、都立高教員を退職。教育や政治、映画や本を中心に思うことを発信していきます。

映画「私をくいとめて」と「佐々木、ィン、マイマイン」

2020年12月30日 22時13分43秒 | 映画 (新作日本映画)
 年末に見た面白い日本映画2本の紹介。大九明子監督「私をくいとめて」は綿矢りさ原作をのん主演で映画化した作品で、面白く見られる青春映画。大九(おおく)監督は、同じく綿矢りさ原作の「勝手にふるえてろ」が抜群に面白かった。その後、「美人が婚活してみたら」「甘いお酒でうがい」(どっちも未見)など最近コンスタントに映画を作っている女性監督である。

 「勝手にふるえてろ」では主演の松岡茉優が脳内で自分と対話していたが、「私をくいとめて」ではのんの脳内に「A」という「アンサー」を返す別人格が住み着いている。それも男声で、最終盤に「実体」として現れるからビックリ。松岡茉優は脳内で「イチ」と名付けた同級生に片思いを続けていたが、今回のん演じる「黒田みつ子」は「31歳おひとりさま生活」をそれなりにエンジョイしている。冒頭では河童橋で食品サンプル作り体験に参加して海老天を作ってるけど…。

 ところがある日、地元で営業マンの多田林遣都)と出会って、一人暮らしで食事も作れないという多田くんが時々おかずを持って行くようになる。だんだん恋心を感じるが、告白もできないし。年末には結婚してローマに住む皐月橋本愛)に会いにイタリアへ。極度の飛行機嫌いのみつ子は、何とか帰ってきた。親友の皐月は一歩踏み出し、もうすぐ母になる。みつ子も果たして一歩を踏み出せるか。東京タワーの外周階段を上るイベントに同僚と参加することになって。
(のんと林遣都)
 2時間を超える映画だが、軽快なリズムで飽きさせない。「勝手にふるえてろ」はほぼ松岡茉優の脳内独り相撲で、それがイタいほどにおかしかった。今回はのんとA(実体=前野朋哉、声=中村倫也)の掛け合いなので、のんの「声優」的な才能が生き生きと輝く。似たような感じは否めないし、どっちが良い悪いもない出来だが、見ていて歯がゆいから応援したくなる。若き世代の東京生活を面白く描いていて、見応えがあった。のんがやはり素晴らしい。テーマ曲として使われる大滝詠一君は天然色」も良かった。

 1992年生まれの内山拓也監督が作った「佐々木、ィン、マイマイン」は見逃さなくて良かった。大体題名がよく判らないけれど、「マイマイン」は「my mind」である。「わが心の佐々木」。佐々木は高校の同級生で、みんなが「佐々木、佐々木、佐々木」とはやし立てると、教室内で服を脱いでしまって真っ裸になってしまう。そんなとんでもないヤツだが、親がいつもいない佐々木の家でたむろっていた仲間だった。佐々木が俳優になったらというから、山梨から上京して今も芝居を続けている石井悠二、27歳。ずっと佐々木のことも忘れていたけれど。

 私生活もうまく行ってない悠二だが、バイト先で同級生に会って久しぶりに佐々木を思い出す。卒業後一回だけ会った佐々木は、学校も行かずにパチンコで暮らしていた。映画は悠二の生活と佐々木をを時間をずらせて交互に描くが、この映画もほぼ2時間あるが全然退屈しない。それは佐々木の設定がぶっ飛んでいることもあるが、悠二が「別れた相手とまだ一緒に住んでいる」という状況にあることも大きい。佐々木には彼なりの家庭事情があったが、ここまで外れてると生きづらいだろう。実際に幸せではない人生を歩んでいく。
(悠二と彼女)
 「佐々木、青春に似た男」というのがキャッチコピーだが、これは何だか心の奥に響く。誰しもが「青春」と呼ばれる時代を遠く離れて、いつのまにか若き日の友人とも疎遠になっていく。そんな「日常」に突き刺さるのが、心の中の「佐々木」である。そう言えば誰しもの心に「佐々木」がいるんじゃないだろうか。佐々木を演じた細川岳と監督の内山拓也が共同で脚本にクレジットされている。技法としての「省略」が生かされている脚本だ。しかし、僕の周りにはここまでの「バカ者」はいなかったなあ。いろいろ思い出してしまう映画だった。
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