尾形修一の紫陽花(あじさい)通信

教員免許更新制に反対して2011年3月、都立高教員を退職。教育や政治、映画や本を中心に思うことを発信していきます。

「Go To」キャンペーンのおかしな仕組み

2020年12月12日 23時34分00秒 |  〃 (新型コロナウイルス問題)
 「Go To」キャンペーンに関して、一端停止すべきだという提言を受けても菅首相は基本的には継続するつもりらしい。「経済を止めない」も大切だが、何にしてもきちんと説明して欲しい。何も説明しないで、聞かれると「丁寧に説明してきた」と言い張る学術会議方式はいい加減にして欲しい。さすがに支持率は低下傾向にあるが、これではコロナ対応を任せられるか心配になる。

 ここで書いておきたいのは、「Go To」キャンペーンの仕組みのおかしさである。新型コロナウイルス感染拡大に、「Go To」(以下、「Go To」は省略する)がどの程度関わっているのかは、今の段階でははっきりしたことは言えない。「トラベル」ばかり取り上げられるが、むしろ問題は「イート」ではないかと思う。7月末に「トラベル」が開始されて、その後夏に「第二波」があった。10月に「イート」が開始されて以後、10月末から11月に掛けて「第三波」という状況が現れてきた。

 そういう風に見れば、ある程度影響もあったようにも見えるが、はっきりはしない。今の段階でキャンペーンが感染に結びついた確証があるケースはそれほど多くはないようだ。もっとも「リスクゼロ」はあり得ないのであって、ウイルスが完全に終息するまで「ステイホーム」してしまったら、多くの飲食店旅館・ホテル劇場・映画館などがつぶれてしまう。一度無くなったら復活させるのは大変だ。だから感染対策を行いながら、経済活動も行っていくこと自体は正しいと思う。

 しかし、そのために行われている「Go To」の仕組みは問題が多い。そもそも「英語としておかしい」という人もある。僕もそう思うけれど(大体「命令形」になってるじゃないか)、それは置いといて、ここでは仕組みだけを考える。基本的に言えば、「トラベル」だったら「観光業界を支援する」のが本来の目的である。そのためには「客が行きやすくする」も確かに一方法だけど、実際は「旅行に行きたい人の支援」になっている。「お得だから使った方がいいよ」というやり方だ。
 (「トラベル」の広告と仕組み)
 上記画像は某旅行者の広告だと思うが、まさに「お得!」をウリにしている。その結果、秋の観光シーズンに有名観光地が「」になる状況が生まれた。お土産などに使えるクーポン券も多すぎて使い切れないという声があるらしい。それは「定率補助」にしているからだ。「宿泊代の35%割引」「15%のクーポン」だったら、高いプランの方が絶対お得である。旅館によっては、あえてキャンペーン向けの高額プランを作ったらしい。

 旅行のパンフを見ればすぐ判るが、旅館は大体5段階ぐらいの料金プランになっている。年末年始が一番高く、土曜日や連休前、夏休み、秋の観光シーズンなどが次に高い。秋冬の平日などは安くなっている。それを「定率」で補助すれば、もともと高い土曜日に行った方がいいことになる。たまたま手元にあるパンフを見ると、ある有名旅館の11月平日は1万9400円、土曜は2万6800円になっている。(一室2名の一人分、四万温泉の「四万たむら」)割引を適用すれば、平日が1万2610円、土曜が1万7420円になる。差額が7600円から4810円に縮まっている。もともと高い宿だが、例年なら土曜に行けない人でも、これなら平日に休暇を取らず土曜に行くだろう。

 「密を避ける」という「政策的誘導」がどこにも感じられない。もともと僕が言ってるように「定額補助」(5千円、6千円程度を補助。クーポンも一律に2千円程度)なら、宿泊プランの差は変わらない。あるいは「連休や土曜日などは割引率を下げる」ことも考えられる。「働き方改革」の意味も含めて、平日に行った方がお得にするわけである。(これは「密を避ける」ために旅館や観光地の客を平準化するためという意味で書いている。)

 「イート」はもっと問題が多い。そもそも食事はあまり予約などしないものだ。宴会とかクリスマスのデートなんかは別だろう。あるいは子ども連れで回転寿司や焼き肉に行くときも予約するのかもしれないが、僕には判らない。でも旅行やコンサートなどには行かない、行けない人でも食事はする。だから本来なら「イート」はもっと全員が利用しやすい仕組みにするべきだ。スマホ、パソコンがない人、使えない人はどうすればいいんだろう。
(「ぐるなび」の広告」
 高齢者、障害者などには使えない制度なのだ。それなのに一部の人は何度も使って「お得」に利用できたようだ。そういう仕組みになっているんだから、お得に使える人が使っても非難は出来ない。しかし、税金の使い方としてそれでいいのか。生活保護世帯、ひとり親世帯、困窮学生などに「デリバリーで利用できるイート券」を配布するなどという方がいいんじゃないだろうか。それと「イート」はマスクを外さないと成立しないんだから、一番感染リスクが高い。それを考えると「アルコール提供分は補助しない」程度は必要なんじゃないだろうか。
(「イベント」広告)
 もう一つ、「トラベル」「イート」とともに「イベント」もあるはずだが、どうなっているんだろうか。実はもう始まっているらしいが、あまり宣伝していない。しかも、「トラベル」が35+15%、「イート」が25%に対して、「イベント」は20%と一番割引率が低い。いかにも「文化軽視」の象徴みたいだ。「イベント」はコンサート演劇映画美術館・博物館スポーツ観戦遊園地などの料金を割引するというものだ。これは自分も利用出来るかと思っていた。

 実はUSJの料金を割引で売ってたり、チケットぴあで対象のチケット販売が始まっている。しかし、映画館でもやるというのに全く気配がないのは、「鬼滅の刃」大ヒットで潤ってるから必要ないということか。どう考えても「トラベル」「イート」に比べれば、感染リスクは「イベント」が一番低い。それにコンサートやスポーツのチケットは、もうずいぶん前からネットのチケットサイトで購入するのが一般的になっている。「イベント」が最初になってもおかしくない。多分役所や企業規模が違って、文化支援の機運が低かったのだろう。

 「ミニシアター・エイド」というのがあった。個性的な小さな映画館を守ろうという支援運動だった。そういう風に、大切なことは「利用者」の支援ではなく、旅行や外食、アートなどの「文化装置」を守っていくことだ。それなのに政府の政策は「得になる仕組みを作ったから、みんな損しないように行動しろ」である。その結果、「密」になる場面を作って感染リスクを高めていると思う。また「利用できない人」(高齢者や低所得者、障害者など)の存在を置き去りにしている。

 だが、それ以上に問題なのは、「損得で行動する国民」を育ててしまうことだと思う。「損得を超える価値観」を忘れた社会は危ない。すでにそうなっているんだろうけど、「Go Toキャンペーン」は「ふるさと納税」や「マイナポイント」などと同様に、その傾向を助長してしまう。安倍・菅内閣の基本政策だから、自民党の基本的な方向性なんだろう。「Go To」も単に「停止」するのではなく、仕組みの練り直しが必要だと考える。
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