尾形修一の紫陽花(あじさい)通信

教員免許更新制に反対して2011年3月、都立高教員を退職。教育や政治、映画や本を中心に思うことを発信していきます。

日中外相会談と香港情勢ー中国の人権問題と経済関係

2020年12月02日 23時12分04秒 |  〃  (国際問題)
 2020年11月24日から25日にかけて、中国王毅外相(国務委員兼外務部長)が来日して茂木外相日中外相会談を行った。翌日には菅首相とも会見している。コロナ禍でほとんど首脳会談が途絶えている中、アメリカの政権交代を控えた時点で日中双方に「戦略的利点」があったということだろう。また夏期東京五輪冬期北京五輪が東アジアで続くこともあって、信頼関係を築くことも必要だったのだろう。そのような「戦略的」な重要性を僕も理解しないわけではない。
(日中外相会談)
 24日の会談終了後に共同記者会見が行われたが、それには自民党外交部会から批判の声が上がった。「尖閣諸島沖での中国公船の活動を正当化した中国の王毅国務委員兼外相の発言を受け流した」という批判である。もっとも交互に発言する会見の中で、尖閣問題では茂木氏が先に「日本の立場を説明し、中国側の前向きな行動を強く求めるとともに、今後とも意思疎通を行っていくことを確認した」と言っていた。その場ですぐに反論するべきだったというのが批判の趣旨だが、外務省としては「大人の対応」をしたということらしい。

 その問題も重要だが、僕にはもっと知りたいことがある。それは香港やウィグル問題について、日本はどのように対応したのかである。外務省のサイトから「日中外相会談及びワーキング・ディナー」を見てみると、この会談では以下のようなことが話し合われた。
冒頭発言 ②日中関係総論 ③経済・実務協力 ④人的・文化交流 ⑤海洋・安全保障 ⑥国際社会への貢献 ⑦邦人拘束 ⑧国際社会の関心事項 ⑨地域情勢

 一応、日本は⑨の「国際社会の関心事項」において、「(1)香港情勢に関しては、茂木大臣から、立法会議員の資格喪失の件を含む一連の動向への懸念を伝達し、「一国二制度」の下、自由で開かれた香港が繁栄していくことが重要であり、中国側の適切な対応を強く求めた。(2)茂木大臣から、地域・国際社会に共に貢献していく上で、自由、人権の尊重や法の支配といった普遍的価値を重視していると述べた上で、国際社会からの関心が高まっている新疆ウイグル自治区の人権状況について中国政府が透明性を持った説明をすることを働きかけた。」

 何も言ってないわけではなくて、一応触れていることが判る。しかし、それは9番目に「国際社会の問題」として触れているだけである。さらに香港は「対応を求めた」が、ウィグルの人権状況は「透明性を持った説明をする」ことを働きかけただけだ。自民党はこっちの方は批判しないのか。各紙の社説などでも大体同じで、ビジネス関係者の往来再開を歓迎し、アメリカに対して自由貿易の原則をともに確認することを求める。その上で尖閣問題で中国の対応を批判し、最後に香港情勢に簡単に触れる。朝日も読売も大体そんな感じだ。

 まあ日本政府も自民党も「国際的人権問題」には関心が薄い。それは前々から判っていることだし、仮に日本が中国に人権問題を提起しても影響力を発揮できるわけではない。日本政府としては経済に影響を与えることは避けたいのがホンネだろう。触れないわけにもいかず、最後にちょっと触れておく。いかにもそんな感じだ。しかしながら、とりわけ香港情勢は無視するわけにはいかない。特に9月に香港の林鄭月娥行政長官が「香港に三権分立はない」と明言したことは重大だ。明確な「一国二制度」否定であり、香港返還時の国際的約束違反である。
(「香港に三権分立はない」とする行政長官)
 11月15日に、日中韓、ASEAN諸国、オーストラリア、ニュージーランド15ヶ国がRCEP地域的な包括的経済連携)に署名した。これは重要な意義を持つようでもあるが、現在的な課題には必ずしも答えていないといわれる。(浜矩子「看板にいつわりのRCEP」東京新聞11.22。)厄介な農業問題や国境を越えたデータ取引などの協定とりまとめは回避され、モノ取引の関税引き下げが中心だという。それ以上に深刻な問題は、浜氏が紹介する習近平主席の発言である。

 それは2020年4月の中央財経委員会の会合での発言で、「国際的なサプライ・チェーン(部品の調達・供給網)をわが国に依存させ、供給断絶によって相手に報復や威嚇できる能力を身に付けなければならない」と言うのである。あまりにも露骨なホンネ発言だが、今まで日本(尖閣問題)、ノルウェー(ノーベル平和賞)、フィリピン(南シナ海問題)、カナダ(HUAWEI副会長の逮捕問題)など、さらに現在はオーストラリアとの間で政治的な問題が起きるたびに、中国による脅し的な経済的嫌がらせが起こってきた。

 それがまさに中国の国家方針だということが習近平発言で判る。もっとも日本も韓国に対し、似たような「報復措置」をしている。「国家」というものは本質的にそんなものかもしれないが、これでは経済関係を深めることにためらう。香港の民主派に対する弾圧はますます暴圧的になっている。そして香港やウィグルも重要だが、中国そのものの人権状況に関心を持ち続けることも大事だ。自民党は経済と領土問題しか関心がないようだが、世界レベルで考えた場合もっと大きな、いわば文明史的な課題としての「中国の民主化」問題が重要だ。
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