尾形修一の紫陽花(あじさい)通信

教員免許更新制に反対して2011年3月、都立高教員を退職。教育や政治、映画や本を中心に思うことを発信していきます。

「ふるさと納税」のテレビCMって何だろう?

2020年12月09日 22時38分30秒 | 政治
 ここ数年は年末になるとテレビに「ふるさと納税」のコマーシャルが流れる。今年もずいぶんやっている。「ふるさと納税」そのものはいつでも出来るけど、「翌年の住民税減税」につなげるには「年末締め」ということだ。このテレビCMをどう考えるべきなんだろうか国税庁が「確定申告の時期ですよ」と公共広告を出しているわけではないのだ。
(「ふるなび」)
 2018年に「根本がおかしい「ふるさと納税」」(2018.10.10)を書いた。つまり僕は「ふるさと納税」そのものをおかしな制度だと思っている。簡単に言えば、「ふるさと振興」ではなく「官製通販」になっていて、地元自治体を支えるべき財源が流出している。都市富裕層が「合法的脱税」をする仕組みになっていて、都市部の教育・福祉などに大きな悪影響を及ぼしていると思う。

 そういうふうに制度設計そのものに問題があるのだが、もう一つ「菅首相をどう考えるか」問題でも「ふるさと納税」から判ることがある。かつて菅総務相が発案した「ふるさと納税」で、問題点を指摘した官僚が飛ばされた。今の菅内閣では、「Go Toキャンペーンをいったん停止するべきではないか」と言われながら、何の説明もなく続いている。また「学術会議会員任命拒否」問題でも、いくら批判されても「丁寧に説明した」と言い張り人々が忘れるのを待っている。つまり菅首相という人は、「批判を受け入れることが出来ない政治家」なのである。
(「さとふる」)
 さて、CMをいっぱい流している「ふるなび」も「さとふる」も私営企業のはずだ。「ふるさと納税」は「寄付金」になるのだが、その分住民税を控除できるので「事実上の税金」である。「税金を納めましょう」というCMを私企業が流す。その原資はどこからでているのか

 調べてみると、「さとふる」はソフトバンクグループのSBプレイヤーズという会社が運営している。「ふるなび」は「アイモバイル」というIT企業(「アイ・モバイル」「Y!mobile」とは違う)、日本最大のふるさと納税総合サイトと言われる「ふるさとチョイス」は「トラストバンク」というIT企業である。ふるさと納税サイトは10以上あるということで、他にも「楽天ふるさと納税」「ふるぽ」などの他、元からあった通販サイトで「ふるさと納税」も出来るようになっているのもあるようだ。
(楽天ふるさと納税)
 もちろんCMの原資はこれら私企業が出しているわけだ。しかし、もっとさかのぼると、「ふるさと納税」を受けた自治体が出している。つまり旅行サイトやグルメサイトに登録するには手数料が必要なのと同じように、ふるさと納税サイトに載せるにも手数料が必要なのである。その手数料は10%から11%ぐらいらしい。小さなお店が「ぐるなび」などの登録することができなくて、「Go To イート」キャンペーンの恩恵を得られないと言われている。自治体の場合は税金から支出するから、登録自体は出来るだろう。でも同じような返礼品であっても、最初の方で紹介される方が寄付が多くなるはずだ。その有利な場所を「買う」ためには、さらに多額の手数料がいるらしい。

 結局は「寄付金」の中から「返礼品」「サイト手数料」に加えて、送料や事務経費も引くと半額ぐらいになってしまう。それでも「返礼品」を目当てに寄付するんだから、それでいいのだと考えるか。それとも「寄付した意味が薄れる」と考えるか。「ふるさと納税」と言っても、どこにいくらでも出来る。多額の住民税を払っている人ほど、多くした方が有利である。では自分に関係する自治体を検索して寄付金を送るか。それは面倒だという人が多いだろう。「ふるさと納税サイト」がなかったら、選ぶのが大変だ。これらのサイトあってこその「ふるさと納税」なのである。

 テレビに「ふるさと納税」を利用して食費を節約しているという家族が出ていた。子育て世代で「ありがたい制度」だと言っていた。この一家は恐らく地元自治体の子育て支援、医療、福祉、教育などのサービスの恩恵を受けているだろう。自ら負担するべき分を負担しないで、サービスだけ受けることでいいのか。そう思うけれど、個々の家庭からしてみれば「ふるさと納税」を利用すれば明らかに有利になる。有利なものを利用するなとも言えない。典型的な「合成の誤謬」ではないか。個人が有利に動くことで、全体のバランスが崩れる。

 どう考えても僕は制度がおかしいと思う。単なる寄付金でいいし、寄付金をした人に各自治体が通販の案内をすればいいではないか。それに国策として推進するんだったら、自治体どうしを競わせるのではなく「所得税」(国税)を減税すればいい。だけど、当面は変わらないんだろう。それは「有利な仕組み」を作って「得するからいいだろう」が菅内閣だからだ。「Go To」も「携帯電話料金」も「マイナポイント」も全部同じ。「得することはやらないと損」という意識の人なら、直接には自分の損得に関係なさそうな学術会議問題なんかどうでもいいだろう。本当は「本質的問題」をじっくり考えない政治では困るはずだが。
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