尾形修一の紫陽花(あじさい)通信

教員免許更新制に反対して2011年3月、都立高教員を退職。教育や政治、映画や本を中心に思うことを発信していきます。

映画「アンダードッグ」、森山未來、北村匠海のボクシング映画

2020年12月22日 22時31分56秒 | 映画 (新作日本映画)
 「ホテル・ローヤル」を見たばかりの武正晴監督「アンダードッグ」前後編が上映されている。前編131分、後編145分と合わせて4時間半超の巨編である。しかし、本当はこれで終わりではなく、1月から配信されて続くらしい。森山未來北村匠海のダブル主演で、壮絶なボクシングシーンが見どころだ。2017年の「あゝ、荒野」の菅田将暉も凄かったが、これも負けていない。

 今まで前後編に分かれた作品は別々に公開されることが多かった。しかし、「アンダードッグ」は同時上映である。続けて見ようと思うと、「朝早くから」か「夜遅くまで」になって見るのも大変だ。しかし、じっくり時間表を見たら、丸の内TOEIでお昼過ぎに前編を見て、別の日に渋谷のシネクイントホワイトでお昼過ぎから後編を見るという手があった。どっちもガラガラだったが、長いからでもコロナだからでもないと思う。内容的に暗すぎるのかなと思った。

 「アンダードッグ」というのは、闘犬用語で「かませ犬」。強い犬に自信をつけさせるため、噛ませるためにあてがわれる弱い犬のことだ。末永晃森山未來)は一度はライト級1位となり、海藤との伝説のチャンピオン戦でも優勢に進めていたが、最後にノックダウンされた。以後は浮かび上がれず、妻(水川あさみ)は長男太郎と出ていき、引退する決心も付かない。今はデリヘルの運転手で、事情ありそうな子連れの明美瀧内公美)などを送り迎えをしている。

 前編ではそんな末永に持ち込まれたお笑い芸人・宮木瞬勝地涼)とのエキシビションマッチ。大物タレントの2世で、何不自由なく暮らしてきたが芸人として鳴かず飛ばずの宮木。芸人がボクサーを目指すという企画で、プロテストを受けて合格する。宮木はプロをなめるなと言われながら、自己証明のためにトレーニングを続ける。末永は勝って当然だが、手心を加えるように「演出」が持ち込まれる。果たしてどんな試合になるのだろうか。

 後編では、前編から何故かウロウロしていた新進ボクサー、木村龍太北村匠海)との因縁が物語の中心となる。生育の事情を抱えた龍太は、ある事情から末永を意識して生きてきた。だから前編から、末永のジムに夜中に現れたりする。龍太はデビュー戦以後、破竹の勢いで勝ち続けチャンピオン戦も間近と言われるまでになる。しかし、いつも明美を呼んでいた男と因縁があった。ボクサーを止めざるを得なくなった龍太は、最後の一戦としてよりによって引退を決意していた末永との試合を希望する。再び壮絶な闘いが始まるが…。

 脚本足立紳、監督武正晴、撮影西村博光、音楽海田庄吾というのは、「百円の恋」のスタッフと同じ。あの映画も出色のボクシング映画だったが、「アンダードッグ」はもっと大きなスケールで人間模様を描く。都会の下積みの世界ばかりが描かれ、虐待、暴力に囚われて「愛」を失いつつある人々。ボクシングに命をかけたが「かませ犬」に落ちてしまった末永は浮かび上がれるのか。

 森山未來はやり過ぎなぐらいにトレーニングを積み、プロテストを受けてみたというぐらいだ。今までのボクシング映画は、「ロッキー」が典型だがチャンピオン戦が山場になることが多い。それに対して「アンダードッグ」ではチャンピオン戦は過去の伝説で、「その後のくすぶった日々」を描く。出てくる試合は壮絶だが、それはエキシビションマッチに過ぎない。勝とうが負けようが、所詮は前座だ。こういうボクシング映画は今までにないと思う。

 数年前にフランス映画「負け犬の美学」という45歳のボクサーの映画があった。森山未來はもちろんもっと若いけれど、下層ぶりはもっとすごい。何しろ昔の知り合いの性風俗店で働いてるぐらいだ。そんな中で「明美」とその娘をめぐる忘れがたいエピソードも出てくる。盛りだくさんすぎて大変だが、「貧困」をめぐる映画でもあった。脇役が充実していて一気に見られるが、どうも暗いなあとも思う。末永も喫煙している時点で、どうかと思う。(龍太にも言われてる。)後編のラストの試合シーンは、後楽園ホールを借り切って2020年2月17日、18日に行われたという。ちょっと遅れていたら、コロナ禍に引っ掛かっていた奇跡の撮影だった。
コメント
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする