「中央区を、子育て日本一の区へ」こども元気クリニック・病児保育室  小児科医 小坂和輝のblog

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子どもアドボカシー(意見表明支援)って何ですか。

2023-07-02 19:53:35 | 小児虐待
子どもアドボカシー(意見表明支援)について


 この4月にこども基本法が施行、また、こども家庭庁も発足しました。最も大切な柱の一つとして、子どもアドボカシー(意見表明支援)が謳われています。すなわち、子どもの声を、その子自身の処遇や進路等を決める際にも、子ども施策を作っていく上でも、聴いていくことが進められることとなります(同法第11条)。
 小児科医師としても、ぜひとも進んでいってほしいと考える施策です。
 今回、これから広がるべき大切な施策、「子どもアドボカシー」について、特に、虐待などを受け児童相談所で保護された社会的養護を必要とする子ども達のアドボカシーにフォーカスを当ててお伝えさせて下さい。

1,「子どもアドボカシー」とは、何か。

 皆様も、子どもの頃、自分の気持ちや考えを無視•軽視されたと思う経験があると思います。その根底にあるのは十分に思いを聴いてもらえなかったことではないでしょうか。子どもアドボカシーは、児童養護施設に入所した子が自分に関する事柄についてどうあってほしいかいうことができず、ただ諦めて受け入れるしかなかったことの反省から、英国やカナダで始まりました。
 子ども自身の考えを一人で言えるように支援し、一人で言えないなら付き添ったり、代わりに言ったりする支援を行います。一言でいうと子どもの声の「マイクになること」です。
 子どもは保健福祉サービス等の「受動的な受益者」として大人から守られればよいとする(アダルティズム)のではなく、「権利の主体」として位置付け(児童福祉法第1条)、意見を述べる「能動的な参加者」とする発想の転換が今求められている中で、子どもアドボカシーが、政策の柱として位置づけられました。

2,子どもの声を聴くことの背景にあるもの

 コロナ禍、虐待件数が過去最高になったといいます。
 また、「ヤングケアラー」なる用語も、時々耳にするようになりました。法令上の定義はありませんが、一般に、本来大人が担うと想定されている家事や家族の世話などを日常的に行っている子どもをいいます。例えば、がん、難病、精神疾患など病気のある家族のケアをしたり、アルコール・薬物・ギャンブル問題を抱える家族に対応する子どものことです。令和2年度3年度の厚労省による全国実態調査では、中学2年生の約17人に1人の割合で「世話をしている家族がいる」結果となっています。
 そのような子ども時代に経験するトラウマ(心の傷)となりうる出来事を、小児期逆境体験(ACE、Adverse Childhood Experiences)と言います。1890年代から米国で始まった研究では、成人になって及ぼす影響が多大であるとする研究成果が出されています。それによると、①身体的虐待、②心理的虐待、③性的虐待、④身体的ネグレクト、⑤心理的ネグレクト、⑥親との別離、⑦近親者間暴力、⑧家族のアルコール依存・薬物乱用、⑨家族の精神疾患・自殺、⑩家族の服役の10の質問項目で経験した数の合計をACEスコア(0~10)とします。 ACEスコアと成人後の心身の疾患や問題行動に明らかな関連があるとスコアが4以上の人はゼロの人と比べ、がんになるリスクは1.9倍、脳卒中は2.4倍、アルコール依存は7.4倍、自殺未遂は12.2倍高いという結果が出ています。 また、失業や貧困、社会的孤立や子育ての困難も高率に来たします。 発症のメカニズムは、ストレス反応の変化、脳そのものの変化、遺伝子発現の抑制などと考えられます。
 小児期にACEによって受傷しながらも、その子どもが地域で信頼できる他者と関りをもつこと等で、その傷とうまく折り合いをつけて強く生きていくことが可能です。 トラウマへのケアもなされます。
 虐待を受けた子ども、ヤングケアラー、ACEサバイバーらの子ども達の声を、まずは、丁寧に聴いていかねばならないと考えるところです。
 
3,子どもの声を聴くうえで大切なこと

 虐待やヤングケアラーの子どもが、児童相談所を通じて、一時保護所や里親、児童養護施設などで保護されることとなります。いったん保護されている一時保護所から、家庭に戻りたいのか、施設に入るのか、里親制度を用いるのかその進路をどのように選択するのかや、社会的養護を受ける施設や里親の生活における困りごとがないかどうかについて、その保護された子どもの声を聴く者を、アドボケイト(意見表明等支援員)と言います。
 アドボケイトが子どもの意見を聞く場合に大切なことについて述べます。
 そもそも、それら子どもを支援する際は、子どもが、声を上げるのが難しい状況にあります。言ったことで自分がどのように評価されるかの不安、言ったことでの影響、言ったとしても何も変わらない、変わらなかったことによる無気力などが要因しています。
 しかし、感情や思考が抑圧された経験は、自分の人生なのに自分で決められないということであり、これからの人生でも孤立感・孤独感を抱き、助けてが言えないままとなるかもしれません。  
 あらゆる子どもにも通じる傾聴のありかたを以下、10のポイントとして述べます。

①安全をつくること :まずは、安全をつくること。笑顔で聞いてあげて、安心感を与えてあげる。気持ちを和らげてあげる。
②目を見て聴く:聞いてもらえたという実感を与えられるように努力する。そのことは、本人にしかわからないとしても。目を見て話すことも重要。
③さえぎらないこと :一つ一つ丁寧に、時間をかけて聴く。時間をかける中では、子どもが言ったことが、考えが変わることもあるかもしれないので、それが変わったとしても大丈夫であることも伝えてあげる。さえぎらずにに最後まで聴き切る。最後まで聞いてもらったと言えるように聴く。
④言葉だけでなく、声、表情を受け止める:本人が言ったことばをそのまま受け取るのではなく、声、表情なども入れ、総合的に判断する必要がある。恥ずかしくて言えていないこともある。
⑤言いたくないことは言わなくて良い、言ったことも撤回できる :言いたくないことは言わなくてよいこと、途中でやめてもよい、言ったことを撤回してもよいことを伝える。言いたくないことや表情が固くなることなどもあり、その場合は、体が固くなって苦しそうにみえるよなどナレーションを入れて対応する。間を大切にしながら聴く。その子の発したマイナスの感情もとても重要で、待つことも大事。
⑥遊びの場なども活用 :遊びをしながら、ぽろっということも非常に重要な意味を持つことがある。心の傷の体験などもごっこ遊びででることもある。
⑦大人としてではなく対等な立場で聴く、専門性の帽子を脱ぐ :大人の経験や専門性はまず横に置いておいて、アドバイスは途中でせず、聴き切る。誘導はしない。思い込みで聴く側も判断しない。アドバイスを求めているかなども判断してから、行う。
⑧子どもには力がある :子どもには、力があることを信じて聴く。その子なりの経験や考えがあり、敬意をもってきく。
⑨トラウマインフォームドケアのスキル:トラウマインフォームドケアについても学びながら傾聴のスキルを上げていくことが重要。
⑩学校連携 :学校などの他機関との連携を行う。

 社会的養護を必要とする子ども達を中心に、子どもアドボカシーについて述べました。今後、社会的養護の分野における子どもアドボケイトを東京都は、新しく養成を始めることとなります。本年1月に都の児童福祉審議会で『児童相談所が関わる子供の意見表明を支援する仕組み(子供アドボケイト)の在り方について』として提言が出されたばかりの大変新しい施策として実施されていくこととなります。
 ご関心のあるかたは、どうか、「アドボケイト養成講座」にご参加され、子どもの意見表明をご支援いただけますようにお願いします。
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