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取消判決や無効確認判決なしでも行政処分の違法を理由として直接国家賠償請求ができる例。

2012-04-30 02:25:29 | シチズンシップ教育
 行政処分には、公定力があります。
 公定力とは、「特定の機関が特定の手続によって取り消す場合を除き、いっさいのものは、一度なされた行政行為に拘束される。」ということです。

 別のいいかたをすれば、「違法な行政行為も取り消されるまでは原則として有効である。」ということです。

 行政行為は、民法上の法律行為とちがって、それ自体がまず抗告訴訟などの手続によって取り消されて、はじめて、民事裁判を起こすことが可能になり、二重の手間がかかることになるのが、一般的です。

 ところが、以下の行政訴訟では、違法な行政処分を理由として、直接国家賠償ができることを示しています。



【事件の概要】
名古屋市長は、昭和55年度以降、法人Xの所有する倉庫が一般用倉庫に該当する物と評価してその登録価格を決定し、同市港区長は、同62年度から平成13年度まで、これに基づいて、本件倉庫に対する固定資産税及び都市計画税の賦課決定を行った。

Xは、賦課決定通り税額を納付。

ところが、同区長は、平成18年に至って、本件倉庫がより評価額の低い冷凍倉庫等に該当すると評価を改めたうえ、同14年度から18年度までの登録価格を修正した旨をXに通知し、これら各年度に係る固定資産税等の減額更正を行った。

Xは、平成14年度から同17年度までの固定資産税等について、納付済み税額と更正後税額の差額として389万9000円を還付された。

地方税法によれば,固定資産税の納税者は,その納付すべき当該年度の固定資産税に係る固定資産について固定資産課税台帳に登録された価格について不服がある場合においては,原則として価格の公示の日から納税通知書の交付を受けた日後60日までの間(ただし,平成11年法律第15号による改正前においては原則として毎年3月1日から同月30日までの間,平成14年法律第17号による改正前においては原則として毎年3月1日から納税通知書の交付を受けた日後30日までの間)において,固定資産評価審査委員会に審査の申出をすることができ(432条1項本文),同委員会の決定に不服があるときは,その取消しの訴えを提起することができる(434条1項)。同委員会に審査を申し出ることができる事項について不服がある固定資産税の納税者は,同委員会に対する審査の申出及びその決定に対する取消しの訴えによってのみ争うことができる(同条2項)。都市計画税の賦課徴収に関する不服申立て及び出訴についても,固定資産税の例による。



【参照法令】
地方税法410条1項固定資産税の価格決定:市町村長は、前条第四項に規定する評価調書を受理した場合においては、これに基づいて固定資産の価格等を毎年三月三十一日までに決定しなければならない。

→411条課税台帳登録:市町村長は、前条第一項の規定によつて固定資産の価格等を決定した場合においては、直ちに当該固定資産の価格等を固定資産課税台帳に登録しなければならない。

432条1項登録価格の不服申し立て:固定資産税の納税者は、その納付すべき当該年度の固定資産税に係る固定資産について固定資産課税台帳に登録された価格(第三百八十九条第一項、第四百十七条第二項又は第七百四十三条第一項若しくは第二項の規定によつて道府県知事又は総務大臣が決定し、又は修正し市町村長に通知したものを除く。)について不服がある場合においては、第四百十一条第二項の規定による公示の日から納税通知書の交付を受けた日後六十日まで若しくは第四百十九条第三項の規定による公示の日から同日後六十日(第四百二十条の更正に基づく納税通知書の交付を受けた者にあつては、当該納税通知書の交付を受けた日後六十日)までの間において、又は第四百十七条第一項の通知を受けた日から六十日以内に、文書をもつて、固定資産評価審査委員会に審査の申出をすることができる。ただし、当該固定資産のうち第四百十一条第三項の規定によつて土地課税台帳等又は家屋課税台帳等に登録されたものとみなされる土地又は家屋の価格については、当該土地又は家屋について第三百四十九条第二項第一号に掲げる事情があるため同条同項ただし書、第三項ただし書又は第五項ただし書の規定の適用を受けるべきものであることを申し立てる場合を除いては、審査の申出をすることができない。

→434条2項審査決定取消訴訟:行政不服審査法第十条 から第十三条 まで、第十四条第一項ただし書、第二項及び第四項並びに第二十一条の規定は、前項の審査の申出の手続について準用する。

17条の5 2項5年経過後は取り消し変更できず過納金還付もできない。: 地方税の課税標準若しくは税額を減少させる更正若しくは賦課決定又は加算金の額を減少させる加算金の決定は、前項の規定にかかわらず、法定納期限の翌日から起算して五年を経過する日まですることができる。

18条の3還付請求事項5年(固定資産税台帳保存期間は10年。):地方団体の徴収金の過誤納により生ずる地方団体に対する請求権及びこの法律の規定による還付金に係る地方団体に対する請求権(以下第二十条の九において「還付金に係る債権」という。)は、その請求をすることができる日から五年を経過したときは、時効により消滅する。


【訴訟選択と争点】
昭和62年~平成13年度の過納金を取り戻すにはどのような救済手続によるべきか。


【選択された訴訟】
国家賠償法に基づいて固定資産税等の過納金相当額を損害とする損害賠償請求


【本判決法廷意見】
5(1)・地方税法435条1項の手続審査申出制度は、価格修正手続で国賠責任を否定する根拠にはならない。
・ 金銭納付を直接の目的とした行政処分の場合、結果的に処分を取り消した場合と同様の経済効果が得られることになっても昭和36年判例法理が及ぶ。
・ 他に国賠を否定する根拠規定はない。

宮川光治補足意見
抗告訴訟と国賠請求とは、行政救済のための別個独立の手段。国賠請求は憲法17条を淵源とする制度であるから、法律上根拠なぢに、金銭給付・徴収処分について早期安定を優先させる理由はない。

金築誠志補足意見
1地方税法434条2項の排他的な短期間の前置手続を「登録価格の修正手続」と限定理解し、国賠請求で不服申立手続をとれなかった者を救済するべき。
2(1)職務行為基準説を採ると違法性判断をことにする。
(2)国賠請求では立証責任は原告にある。


【本判決の位置づけ】
課税処分についても最判36年法理(取消判決や無効確認判決を得ていなくても行政処分の違法を理由として直接国家賠償請求はできる。)が適用される積極説を、最高裁として初めてとった。

【最高(二小)判昭36.4.21】:
「行政処分が違法であることを理由として国家賠償の請求をするについては、あらかじめ右行政処分につき取消又は無効確認の判決を得なければならないものではないから、本訴が被上告人委員会の不法行為による国家賠償を求める目的に出たものであるということだけでは、本件買収計画の取消後においても、なおその無効確認を求めるにつき法律上の利益を有するということの理由とするに足りない。」



********判決文全文*********
 主   文

 原判決を破棄する。
 本件を名古屋高等裁判所に差し戻す。

       理   由

 上告代理人河内尚明ほかの上告受理申立て理由について
 以下に摘示する地方税法及び固定資産評価基準(昭和38年自治省告示第158号。以下「評価基準」という。)の規定ないし定めは,特に断りのない限り現行のものをいう。なお,昭和62年1月1日から平成18年12月31日までの間に施行された地方税法及び評価基準の改正の経緯については,説示に影響しないことから,その記述を省略する。
 1 本件は,第1審判決別紙物件目録記載の倉庫(以下「本件倉庫」という。)を所有し,その固定資産税等を納付してきた上告人が,昭和62年度から平成13年度までの各賦課決定の前提となる価格の決定には本件倉庫の評価を誤った違法があり,上記のような評価の誤りについて過失が認められると主張して,所定の不服申立手続を経ることなく,被上告人を相手に,国家賠償法1条1項に基づき,上記各年度に係る固定資産税等の過納金及び弁護士費用相当額の損害賠償等を求めている事案である。
 2(1) 地方税法によれば,固定資産税の納税者は,その納付すべき当該年度の固定資産税に係る固定資産について固定資産課税台帳に登録された価格について不服がある場合においては,原則として価格の公示の日から納税通知書の交付を受けた日後60日までの間(ただし,平成11年法律第15号による改正前においては原則として毎年3月1日から同月30日までの間,平成14年法律第17号による改正前においては原則として毎年3月1日から納税通知書の交付を受けた日後30日までの間)において,固定資産評価審査委員会に審査の申出をすることができ(432条1項本文),同委員会の決定に不服があるときは,その取消しの訴えを提起することができる(434条1項)。同委員会に審査を申し出ることができる事項について不服がある固定資産税の納税者は,同委員会に対する審査の申出及びその決定に対する取消しの訴えによってのみ争うことができる(同条2項)。なお,都市計画税(平成19年法律第4号による改正前の702条2項によれば,その課税標準である土地又は家屋の価格は,当該土地又は家屋に係る固定資産税の課税標準となるべき価格である。)の賦課徴収に関する不服申立て及び出訴についても,固定資産税の例による(702条の8(平成5年法律第4号による改正前は702条の7)第2項)。
 (2) 市町村長は,原則として,評価基準によって固定資産の価格を決定しなければならないところ(地方税法403条1項,388条1項),評価基準は,木造家屋以外の家屋の損耗の状況による減点補正率を,原則として,非木造家屋経年減点補正率基準表(評価基準別表第13)によって求めるものとしている(第2章第3節五(ただし,平成12年自治省告示第12号による改正前においては同節三))。そして,平成20年総務省告示第680号による改正前の同表の7は,工場,倉庫,発電所,変電所,停車場及び車庫用建物について用途別に区分して経年減点補正率(家屋の構造区分に従い,通常の維持管理を行うものとした場合にその年数の経過に応じて通常生ずる減価を基礎とする減点補正率をいう。)を定めているところ,これを適用すると,一般用の倉庫等は,冷凍倉庫用の建物や塩素その他の著しい腐食性を有する液体又は気体の影響を直接全面的に受ける建物等(以下「冷凍倉庫等」という。)よりも高く評価されることになっている。
 3 原審の確定した事実関係等の概要は,次のとおりである。
 (1) 平成18年度に至るまで,本件倉庫は,一般用の倉庫に該当することを前提にして評価され,昭和62年度から平成13年度までのその価格並びに固定資産税及び都市計画税(以下「固定資産税等」と総称する。)の税額は,第1審判決別表2の「実際の評価額及び税額」欄記載のとおり決定された(以下,これらの決定を併せて「本件各決定」という。)。上告人は,本件各決定に従って固定資産税等を納付してきた。
 (2) 名古屋市長から固定資産税等の賦課徴収に関し権限の委任を受けていた名古屋市港区長は,平成18年5月26日付けで,上告人に対し,本件倉庫が冷凍倉庫等に該当するとして,平成14年度から同18年度までの登録価格を修正した旨を通知した上,上記各年度に係る本件倉庫の固定資産税等の減額更正をした。その後,上告人は,同14年度から同17年度までの固定資産税等につき,納付済み税額と上記更正後税額との差額として389万9000円を還付された。
 (3) 上告人は,本件訴えの提起に至るまで,本件倉庫の登録価格に関し,固定資産評価審査委員会に対する審査の申出を行ったことはない。
 4 原審は,上記事実関係等の下において,次のとおり判断して,上告人の請求を棄却すべきものとした。
 (1) 国家賠償法に基づいて固定資産税等の過納金相当額を損害とする損害賠償請求を許容することは,当該固定資産に係る価格の決定又はこれを前提とする当該固定資産税等の賦課決定に無効事由がある場合は別として,実質的に,課税処分を取り消すことなく過納金の還付を請求することを認めたのと同一の効果を生じ,課税処分や登録価格の不服申立方法及び期間を制限してその早期確定を図った地方税法の趣旨を潜脱するばかりか,課税処分の公定力をも実質的に否定することになって妥当ではない。そして,評価基準別表第13の7の冷凍倉庫等に係る定めが一義的なものではないことなどに照らすと,本件各決定に無効とすべき程度の瑕疵はない。
 (2) なお,評価事務上の物理的,時間的な制約等を考慮すれば,地方税法408条所定の実地調査は,特段の事情のない限り,外観上固定資産の利用状況等を確認し,変化があった場合にこれを認識する程度のもので足りるところ,本件においてそのような特段の事情があったといえるような事実がうかがわれないことなどからすれば,本件各決定が過失に基づいてされたということもできない。

 5 しかしながら,原審の上記判断は是認することができない。その理由は,次のとおりである。

 (1) 国家賠償法1条1項は,「国又は公共団体の公権力の行使に当る公務員が,その職務を行うについて,故意又は過失によって違法に他人に損害を加えたときは,国又は公共団体が,これを賠償する責に任ずる。」と定めており,地方公共団体の公権力の行使に当たる公務員が,個別の国民に対して負担する職務上の法的義務に違背して当該国民に損害を加えたときは,当該地方公共団体がこれを賠償する責任を負う。前記のとおり,地方税法は,固定資産評価審査委員会に審査を申し出ることができる事項について不服がある固定資産税等の納税者は,同委員会に対する審査の申出及びその決定に対する取消しの訴えによってのみ争うことができる旨を規定するが,同規定は,固定資産課税台帳に登録された価格自体の修正を求める手続に関するものであって(435条1項参照),当該価格の決定が公務員の職務上の法的義務に違背してされた場合における国家賠償責任を否定する根拠となるものではない。
 原審は,国家賠償法に基づいて固定資産税等の過納金相当額に係る損害賠償請求を許容することは課税処分の公定力を実質的に否定することになり妥当ではないともいうが,行政処分が違法であることを理由として国家賠償請求をするについては,あらかじめ当該行政処分について取消し又は無効確認の判決を得なければならないものではない(最高裁昭和35年(オ)第248号同36年4月21日第二小法廷判決・民集15巻4号850頁参照)。このことは,当該行政処分が金銭を納付させることを直接の目的としており,その違法を理由とする国家賠償請求を認容したとすれば,結果的に当該行政処分を取り消した場合と同様の経済的効果が得られるという場合であっても異ならないというべきである。
 そして,他に,違法な固定資産の価格の決定等によって損害を受けた納税者が国家賠償請求を行うことを否定する根拠となる規定等は見いだし難い。
 したがって,たとい固定資産の価格の決定及びこれに基づく固定資産税等の賦課決定に無効事由が認められない場合であっても,公務員が納税者に対する職務上の法的義務に違背して当該固定資産の価格ないし固定資産税等の税額を過大に決定したときは,これによって損害を被った当該納税者は,地方税法432条1項本文に基づく審査の申出及び同法434条1項に基づく取消訴訟等の手続を経るまでもなく,国家賠償請求を行い得るものと解すべきである。
 (2) また,記録によれば,本件倉庫の設計図に「冷蔵室(-30℃)」との記載があることや本件倉庫の外観からもクーリングタワー等の特徴的な設備の存在が容易に確認し得ることがうかがわれ,これらの事情に照らすと,原判決が説示するような理由だけでは,本件倉庫を一般用の倉庫等として評価してその価格を決定したことについて名古屋市長に過失が認められないということもできない。

 6 以上と異なる見解の下に,上告人の請求を棄却すべきものとした原審の判断には,判決に影響を及ぼすことが明らかな法令の違反がある。論旨はこの趣旨をいうものとして理由があり,原判決は破棄を免れない。そして,本件各決定に際し本件倉庫を一般用の倉庫として評価したことは名古屋市長が上告人に対する職務上の法的義務に違背した結果といえるか否か,仮に違背していたとする場合における上告人の損害額等の点について更に審理を尽くさせるため,本件を原審に差し戻すのが相当である。

 よって,裁判官全員一致の意見で,主文のとおり判決する。なお,裁判官宮川光治,同金築誠志の各補足意見がある。

 裁判官宮川光治の補足意見は,次のとおりである。
 行政救済制度としては,違法な行政行為の効力を争いその取消し等を求めるものとして行政上の不服申立手続及び抗告訴訟があり,違法な公権力の行使の結果生じた損害をてん補するものとして国家賠償法1条1項による国家賠償請求がある。両者はその目的・要件・効果を異にしており,別個独立の手段として,あいまって行政救済を完全なものとしていると理解することができる。後者は,憲法17条を淵源とする制度であって歴史的意義を有し,被害者を実効的に救済する機能のみならず制裁的機能及び将来の違法行為を抑止するという機能を有している。このように公務員の不法行為について国又は公共団体が損害賠償責任を負うという憲法上の原則及び国家賠償請求が果たすべき機能をも考えると,違法な行政処分により被った損害について国家賠償請求をするに際しては,あらかじめ当該行政処分についての取消し又は無効確認の判決を得なければならないものではないというべきである。この理は,金銭の徴収や給付を目的とする行政処分についても同じであって,これらについてのみ,法律関係を早期に安定させる利益を優先させなければならないという理由はない。原審は,前記のとおり,固定資産税等の賦課決定のような行政処分については,過納金相当額を損害とする国家賠償請求を許容すると,実質的に課税処分の取消訴訟と同一の効果を生じさせることとなって,課税処分等の不服申立方法・期間を制限した趣旨を潜脱することになり,課税処分の公定力をも否定することになる等として,課税処分に無効原因がない場合は,それが適法に取り消されない限り,国家賠償請求をすることは許されないとしている。しかしながら,効果を同じくするのは課税処分が金銭の徴収を目的とする行政処分であるからにすぎず,課税処分の公定力と整合させるために法律上の根拠なくそのように異なった取扱いをすることは,相当でないと思われる。

 裁判官金築誠志の補足意見は,次のとおりである。
 1 行政処分が違法であることを理由とする取消訴訟と,違法な行政処分により損害を受けたことを理由とする国家賠償訴訟とでは,制度の趣旨・目的を異にし,公定力も処分要件の存否までは及ばないから,一般的には,取消判決を経なければ国家賠償訴訟を提起できないとか,取消訴訟の出訴期間を徒過したときはもはや国家賠償請求はできないなどと解すべき理由はない。しかし,課税処分のように,行政目的が専ら金銭の徴収に係り,その違法を理由とする取消訴訟と国家賠償訴訟の勝訴判決の効果が実質的に変わらない行政処分については,取消しを経ないで課税額を損害とする国家賠償請求を認めると,不服申立前置の意義が失われるおそれがあるばかりでなく,国家賠償訴訟を提起することができる間は実質的に取消訴訟を提起することができるのと同様になって,取消訴訟の出訴期間を定めた意味がなくなってしまうのではないかという問題点があることは否定できない。
 このうち不服申立前置との関係については,固定資産の価格評価は,法的な側面,経済的な側面,技術的な側面等,専門的判断を要する部分が多く,専門的・中立的機関によって審査するにふさわしい事柄であり,また,大量の同種処分が行われるものであるから,固定資産評価審査委員会の審査に強い効力を与えて,その早期確定を図ることは合理的と考えられ,国家賠償訴訟によって同委員会の審査が潜脱されてしまうのは不当であるように見える。しかし,こうした問題は,取消訴訟に前置される他の不服申立てに係る審査機関にも多かれ少なかれ共通するものであり,同委員会を特に他の不服申立てに係る審査機関と区別するだけの理由はないし,固定資産課税台帳に登録された価格の修正を求める手続限りの不服申立前置であっても制度的意義を失うものではないから,不服申立てを経ない国家賠償請求を否定する十分な理由になるとはいえない。特に,賦課課税方式を採用する固定資産税等の場合,申告納税方式と異なり,納税者にとってその税額計算の基礎となる登録価格の評価が過大であるか否かは直ちには判明しない場合も多いと考えられるところ,前記のとおり,審査の申出は比較的短期間の間に行わなければならないものとされているため,上記期間の経過後は国家賠償訴訟による損害の回復も求め得ないというのでは,納税者にとっていささか酷というべきである。本件各決定のように,市町村内の他の家屋の登録価格等を参照することができるような手続(地方税法416条1項)が設けられていなかった時期に賦課されたものに関してはなおさらである。
 2 取消しを経ないで課税額を損害とする国家賠償請求を認めると,取消訴訟の出訴期間を延長したのと同様の結果になるかどうかは,取消しと国家賠償との間で,認容される要件に実質的な差異があるかどうかの問題である。
 (1) まず,国家賠償においては,取消しと異なり故意過失が要求され,また,その違法性判断について当裁判所の判例(最高裁平成元年(オ)第930号,第1093号同5年3月11日第一小法廷判決・民集47巻4号2863頁等)はいわゆる職務行為基準説を採っているから,この点でも要件に差異があることになる。もっとも,こうした要件上の差異が,実際上どの程度の結果の違いをもたらし得るかについては,見方の分かれるところかもしれない。しかし,取消しが認められても国家賠償は認められない場合があり得るということだけは,間違いなくいい得る。
 (2) 固定資産税の課税物件は膨大な数に上り,その調査資料を長期にわたって保存しておくことが困難な場合もあるのではないかと思われるので,課税処分から長期間が経過しても国家賠償請求ができるとした場合,立証責任の問題は,より重要かもしれない。
 課税処分の取消訴訟においては,原則的に,課税要件を充足する事実を課税主体側で立証する責任があると解すべきであるから,本件固定資産税についても,一般用倉庫として経年減点補正率を適用して評価課税する以上,本件倉庫が冷凍倉庫用のものではなく,一般用のものであることについて,課税主体である被上告人側に立証責任があることになる。これに対し,国家賠償訴訟においては,違法性を積極的に根拠付ける事実については請求者側に立証責任があるから,本件倉庫が一般用のものではなく,冷凍倉庫用のものであることを請求者である上告人側が立証しなければならないと解される。上告人側が同事実を立証することは,損害額を明らかにするためにも必要である。立証責任について,課税処分一般におおむねこうした分配振りになるとすれば,課税処分から長期間が経過した後に国家賠償訴訟が提起されたとしても,課税主体側が立証上困難な立場に置かれるという事態は生じないと思われる。
 3 以上のとおり,取消しを経ないで課税額を損害とする国家賠償請求を認めたとしても,不服申立前置の意義が失われるものではなく,取消訴訟の出訴期間を定めた意義が没却されてしまうという事態にもならないものと考える。

(裁判長裁判官 宮川光治 裁判官 櫻井龍子 裁判官 金築誠志 裁判官 横田尤孝 裁判官 白木 勇)
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行政処分が重大かつ明白 (松村東)
2015-10-15 09:47:32
厚生省環境衛生局長印環衛第7027号昭和42年2月9日付
理容師、美容師養成施設の指定申請について
昭和41年12月19日41環第1864号をもつて進達のあった表記について
内容審査の結果厚生大臣指定の養成施設として適当と認めがたい。
この却下の公文書には「個人申請したのに却下理由は法人却下となっている」よって行政処分には(重大かつ明白な瑕疵)があるので「無効の行政行為」となり(はじめから無効) 厚生大臣の指定承認も無効虚偽有印公文書作成乃至同行使後日担当者より埼玉県知事と
当時の厚生省担当者らとの偽造文書を作成し却下したものであり「瑕疵が重大かつ明白」はじめから無効


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埼玉県知事の虚偽認可寄付行為認可、設置認可法人の実体がない (松村  東)
2015-12-16 10:16:50
昭和42年4月18日各種学校設置者個人入学式開校以後の学校法人について埼玉県知事栗原浩氏は故意に実体のない事を知りながら昭和42年9月11日付で「虚偽有印公文書作成乃至同行使をした。」事実
瑕疵が重大かつ明白」で、はじめから無効。
なお、埼玉県知事上田清司氏は学校法人がない事を知りながら「助成金等を不正に支出している。」事実がある。
各種学校の設置者と準学校法人との設置者の変更認可と事業承継認可は、もともと不存在変更していない事実。
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行政処分が重大かつ明白な瑕疵 (松 村   東)
2018-09-22 13:37:28
平成30年に埼玉県総務部学事課、学事課文書発送課長
山崎高章氏の説明ですと、前厚生政務次官松山千恵子氏は、厚生省環境衛生局長に赴き個人松村東が申請している理容師、美容師養成施設指定申請書を却下させた。
昭和42年2月20日その書類を同上の松山氏が受け取り改ざんを図り埼玉県知事を経由しないで直接同上の局長に渡し同局長は虚偽、ねつ造である事を知りながら二通の虚偽有印公文書作成乃至同行使した。
前厚生政務次官松山千恵子の肩書を.............................
昭和42年4月14日金曜日官報第12098号
名称 東京高等理容美容専門学校 設置者 松村東
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