「中央区を、子育て日本一の区へ」こども元気クリニック・病児保育室  小児科医 小坂和輝のblog

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夫婦の一方は、相手方の財産を、日常家事の範囲内の代理権を用いて、勝手に処分することができるか。

2013-06-05 12:40:28 | シチズンシップ教育
妻Aが、夫Bの土地を無断でCさんに売却した事例を考えます。(夫が妻の土地を売却の想定でも話は同じです。)


****旧司法試験*****

 平成2年度第1問

 Aは、夫であるBの事業が不振で家計にも窮するようになったため、Bに無断で、Bから預かっていたBの実印等を利用し、Bの代理人としてB所有の土地をCに売り渡した。

1⑴ Cは、Bに対し、その土地の所有権移転登記手続をするよう請求することができるか。
 ⑵ Cは、Aに対し、どのような請求をすることができるか。Cの請求に対するAの反論についても含めて説明せよ。

2 Cが請求をしないでいる間にBが死亡した。A、B間には子Dがいたが、Dは、相続を放棄した。この場合に、Cは、Aに対し、どのような請求をすることができるか。Dが相続を放棄しなかった場合には、どうか。


****************************


問1(1)


1)夫Bは、妻Aに対し、その土地を売却する代理権(任意代理権)を授与していない。

   ↓

 AC間の土地売買契約の効果は、本人である夫Bに帰属しない。


2)妻Aは、夫B代理人Aとして、その土地を売却するための法定代理権を有しているか。

   ↓

 民法761条=日常家事債務について夫婦は連帯責任を負う。

   ↓
 民法761条から日常家事に属する法律行為について夫婦相互間の代理権(法定代理権)を導くことができるのか。

 判例(昭和44年)・大多数説=肯定


 その場合、「日常家事」とは客観的に決める。
 すなわち、夫婦の社会的地位、職業、資産、収入及び地域の慣行によって異なるが、他方で夫婦の内部的事情や行為の個別的な目的を重視しして判断すべきではなく、客観的に判断しなければならない。


3)民法761条から導かれる日常家事に属する法律行為に関する夫婦相互間の代理権(法定代理権)を基本代理権として民法110条を適用ないし類推適用することはできないか。


 判例
 1)日常家事に関する夫婦相互間の代理権を基本代理権として広く民法110条を適用することは許されない

   なぜなら、夫婦の財産的独立が侵害されるから。

 2)民法110条の趣旨を類推して、相手方に「日常家事の範囲内と信ずるにつき正当の理由」が認められれば相手方は保護される。


 〇多数説
 相手方に
 1)代理権ありと信ずることについての正当事由
 2)日常家事の範囲内と信ずることについての正当事由があれば
 民法110条を類推適用することが許される。

 〇少数説
 客観的にみれば、日常家事の範囲外の行為であっても、相手方の立場からみれば、日常家事の範囲内と見える行為もありうる。
 相手方の立場からみて、日常家事の範囲内と判断されるについて、客観的にみて合理的な理由(「日常家事の範囲内と信ずるにつき正当の理由」)があるのならば、民法110条の趣旨を類推し、本人への効果帰属を認めてもよいのではないか。





4)上記問題の1(1)

 1、夫Bは、妻Aに本件土地売却のための代理権を授与していない
  よって、AC間の本件土地売買契約は、無権代理行為であって、夫Bにその効果を帰属させない。
  ということは、Cは、夫Bに対し、本件土地の所有権移転登記を求めることができない。

 2、妻Aに本件土地売却の代理権ありと信じたCの立場を保護する法律構成を考える。
  本件土地売却を民法761条にいう「日常家事」の範囲内の行為と考え、かつ、民法761条により妻Aは日常家事の範囲内で夫Bの代理権(法定代理権)を付与されているということを検討。
  土地の売却は、日常家事の範囲内の行為とは言えない

 3、民法761条に基づく日常家事に関する代理権を基本代理権として民法110条の類推適用を考える。
  本件では、
  1)「Bから預かっていたBの実印等を利用し」ているから、代理権ありと信ずることについての正当事由はある。
  2)しかし、土地の売却は、日常家事の範囲内に属すると信ずべき正当事由は認められない。
  ゆえに、民法110条の類推適用もできない

 4、従って、Cは、夫Bに対し、その土地の所有権移転登記手続をするよう請求することはできない。



******************

 引き続きの検討

5)問題1の(2)CのA(妻)に対する請求

 1、無権代理の責任(民法117条1項)に基づき、Aに対し、履行又は損害賠償を求める(履行は事実上不可能だから損害賠償を求めることになる)。

 2、妻Aの反論
 ア、無権代理人の責任(民117条1項)は、相手方が本人に対し表見代理の主張ができない場合に相手方を救済すべく認められた補充的な規定だから、相手方Cは、まず、本人Aに対し、表見代理の主張をすべきである。
   
   そのAの反論に対しては、
      ↓
   表見代理は、無権代理行為のうち、本人側に一定の帰責事由が認められる場合に例外的に本人に対し、効果帰属を主張する途を認めた制度である。
   したがって、表見代理の規定の適用がある場合は、相手方は、無権代理人に対する責任追及(117条1項)の方法を選択してもよいし、本人に対し表見代理を主張する方法を選択してもよい


 イ、CのBに対する表見代理の主張が、「Cに日常家事の範囲内と信じるにつき正当事由がないこと」を理由に否定されている以上、CのAに対する無権代理の責任追及についてもCに過失があり、CはAに対して、無権代理の責任追及ができない。

   そのAの反論に対しては、
      ↓
    しかしながら、本問においては、相手方Cは、「日常家事の範囲内と信ずるにつき正当の事由が存在しないこと」を理由に、民法110条類推適用が排斥されたのであって、「代理権ありと信ずるにつき正当事由が存在しないこと」を理由に民法110条の類推適用が排斥されたわけではない。
    従って、本件では、相手方Cに代理権ありと信ずべき正当の理由があるならば、相手方Cには、民法117条2項にいう「過失」はなく、相手方Cは、妻Aに対し、無権代理人の責任(民法117条1項)を追及することが可能。
    そして、本件では、Bから預かり中のBの実印を使用しており、「代理権ありと信ずべき正当の理由」が肯定される余地がある。



6)B(夫)死亡後の法律関係

 Aの立場 = A固有の責任(無権代理人として、損害賠償義務を負う)+夫Bから相続により承継した地位(無権代理人における本人として追認または追認拒絶権を有する。)


 ア、相続人が妻Aのみ
   Aは自らB代理人と称して、本件土地売買契約を締結している以上、Aに代理権がなかったことを理由に追認拒絶権を行使することは信義則に反する。

 イ、相続人が妻AとD(Dは、本人としての追認権または追認拒絶権を有する。)

   Dが追認拒絶している→Aの追認拒絶は信義則に反しない。(土地を共有している、その共有物の性質上)

   Dが追認している→Aが追認拒絶することは信義則に反する。

以上
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