波紋

一人の人間をめぐって様々な人間関係が引き起こす波紋の様子を描いている

  オショロコマのように生きた男  第65回

2012-01-21 09:44:56 | Weblog
めんどくさいなと思いながらも相手の生真面目さにいい加減なこともいえずに答えた。彼は近所のK社に勤務していた。ひょんなことことから付き合いが始まり、そのうち和子とも一緒に食事をするようになった。
始めは年上の和子にそっけないそぶりだったが、そのうちその性格の優しさに影響を受けて愛想良くなっている。そんな二人を宏は興味深く見守っていた。彼女のほうも小山(青年)の気持ちが少しづつ分かってきたようで、少し年下の弟を見るように面倒を見るようになっていた。そして何時の間にか宏の知らない間に二人はデートを重ねるようになっていた。
ある日、和子がその日の弁当を配った後、宏のところへ来て「ちょっとお話したいことがあるんですけど」と告げた。食後の休憩時間に「小山さんと一緒に暮らすことになったの」と唐突に言う。「そうそれは良かったね。」「野間さんに紹介されたので、報告しておかなければと思って」「いや、二人で決めたことだから、良いんだよ。上手く仲良くね。」何と言っていいか良く分からなかった。また、子供もいる女と一緒になることも、何となく気になったが、男女の中はそんな理屈では割り切れないものがあることはよく分かっていた。「その内、家で食事を招待するので野間さんも来て下さい。」「分かった。何かお祝いしなけやあね。」宏は何故かほっとした思いであった。
松山との人間関係にはいささか疲れを覚えながら仕事を続けていたが、どうにも自分自身で納得がいかなくなっていた。
元々初めからそんなに乗り気ではなかったこともあり、他に仕事も見つからず取り合えずという軽い気持ちであったこともあった。ある日、自社の設備でどうしても処理できない工作の仕事が入り、取引先の大手D社へその設備を使用させてもらうために
出掛けることにした。そこは以前に行った事もあり知人も出来ていた。研究室へ案内されてゆくと、顔見知りの志賀がいた。
「やあ、暫くだね元気でしたか」と懐かしく声をかけられ「お陰さまで何とかやっています。」すると「いつもの元気がないじゃあないか。何か悩みでもあるの」と鋭く突っ込まれた。つられて愚痴っぽく近況をしゃべってしまった。
「何だ。そうだったのか。良かったら相談にのるよ。今うちのほうは人手が足りなくてね。本社へ応援を頼んでいるんだが、中々回してもらえなくて、臨時でも良かったら頼むよ。君みたいなエキスパートを探していたところだ」
宏はぐっと胸が熱くなるのを覚えていた。

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