波紋

一人の人間をめぐって様々な人間関係が引き起こす波紋の様子を描いている

  オショロコマのように生きた男  第59回

2011-12-31 10:49:14 | Weblog
「電話をするのをすっかり忘れてしまって、ごめん」素直に謝った。池田はいつものように「大丈夫ですよ。色々あったようだから疲れているんだろうと思っていましたよ。どうです、良かったら一度東京まで出てきませんか。気晴らしにもなりますよ。」
それとなく気遣いをする池田の言葉に宏はほっとする思いだった。「ありがとう。いつものところでいいね。じゃあ明日よろしく」二人の話でこじれたことは一度もない。彼にはかけがいのない友人だった。
その日は家で一日のんびり過ごすと、久しぶりの東京の空気を味わうために早めに家を出た。自然に神田へ足が向く。ここには
昔文豪が通って食事をしていたと言われる老舗の蕎麦やがあった。(松や)昔食べたことがあることを思い出していってみた。
ここの「鴨なん蕎麦」を食べる。一味違う深い味を味わい満足することが出来た。
そのまま足を延ばして神保町の本屋街へ、普段はちょっと気づいたことでもう少し調べたいと思っても仕事に追い立てられ中々その内容まで掴むことが出来ない。そんな幾つかのことを調べることが出来た。やはり学習は必要だと思いながら何となく落ち着いた気分になる。本当は購入してじっくり読めばいいのだろうけど、今の状態ではそんな時間がないことを感じていた。
疲れるとコーヒーショップへ立ち寄り、好きなタバコに火をつけて休憩をしながら、通り過ぎる人をぼんやりと眺めるのも好きだった。待ち合わせ場所が東京駅の近くとあって、八重洲口へ向かう。「丸善」があるのを思い出して立ち寄る。
新刊の本を見るのもまた格別である。ここでなければ見ることの出来ない本もいくつかあった。そんな時間を過ごしているうちに約束の時間が近くなっていた。
、時間には遅れたことがなく、いつも自分のほうが遅くなることを思い出して急ぐと、すでに来ていて、にこにこと手を出した。
「暫くでしたね。元気になりましたね。今回はもう少し長く頑張るんじゃあないかと期待していたんですけど」
まだ、外は少し明るさの残っている、まだお客のいない居酒屋へ入るとハイボールを注文し、宏も薄い水割りを少し
口にしながら二人は乾杯をした。
久しぶりと言うこともあって宏は「あれから木梨の会社はどうなったか、何か聞いている」二人にしか通じない話であり、お互いに
僅かの間だが同じ釜の飯を食った仲でもある。「詳しいことは分からないんですけど、木梨社長はもう日本には居ないようですよ。」「えー。何だいそれは。一体何があったの」まったく想像できないことだった。

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