波紋

一人の人間をめぐって様々な人間関係が引き起こす波紋の様子を描いている

   オショロコマのように生きた男  第23回

2011-08-27 17:25:32 | Weblog
少しも変わっていない池田を見て宏は正直ほっとしていた。優しい眼をして穏やかな雰囲気をいつも漂わせている太目の
池田をしみじみと見ながら「お前ちっとも変わってないなあ」と声を掛けた。
隅の囲いの席に座ると二人は落ち着いた。池田はいつものように最初にビールでのどを潤すといつものようにチューハイを頼んで美味しそうに飲み始めた。そんな彼を見ながら宏はウーロン茶をちびちびやりながら適当につまみの魚を食べていた。
長い間会っていなかったはずだが、いつも一緒に居たように二人の間には違和感はなかった。
「会社のほうはどうなんだ。上手くいっているのか」関係はないのだが、自分の居た会社のことが気にかかっていた。
「社長は相変わらずで、何も言わないし、説明もないから良く分からないけど、暇なんですよ。仕事がなくて、何もすることがないんですよ。」「だって、あれほど忙しくてお客に追いかけられていたじゃあないか。」「それが、社長からお客が決められてから、あちこち他のお客へ売ることが出来なくなっちゃって」それを聞いて、宏はなんとなく分かるような気がした。
木梨はあの約束を守って、特定のユーザー中心に仕事をしているらしい。
余剰はリスクを避けることを目的に台湾への輸出に当てたことで、それほどの生産規模のない工場は手一杯になっているらしい。通訳にと契約した小姐の黄姐とはすっかり関係が出来ているらしく、時間が出来ると二人は出かけているらしい。
しかし、池田はそんなことには関心がないらしく、「仕事が暇で時間が余るのもよしあしですね。あまり忙しいのもつらいけど暇なのもつらいですよ」と言いながら、グラスを持つ手は止まらず、お代わりをしている。もう5杯や6杯は飲んだと思うが
まったく酔った感じはなく、かえって元気になったように見えていた。
「しょうがないから、図書館へ行ったり、家電屋さんへ寄ることもありますよ。ところで野間さんはうちをやめてから、どうしてたんですか。」彼には隠すことは何もなかった。今までのM社へ就職した経緯から社長とのやり取り、現在の自分の仕事を詳しく説明してから「時期も見て、君にも話をしようと思っていたんだ。そしてよかったらこの会社へ君も呼ぼうかとも思っていたんだ。この会社は悪くないし、君に向いているんじゃあないかと思ってね。最もここへ来ても俺と一緒に仕事をすると言うことにはならないけどね。社長にはいつか君のことも話しておくよ。」

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