波紋

一人の人間をめぐって様々な人間関係が引き起こす波紋の様子を描いている

音楽スタジオウーソーズ   第10回

2014-08-11 11:59:09 | Weblog
本社からの指示事項はただ一点「合格率80㌫以上を守ること」と言う項目だった。
それを聞いてそれだけでいいのかと言う安易な思いがあったことは間違いない。しかし
実際に責任者として取り組んでみるとそうでもないことが分かって来た。東京で指導していたときも同じなのだが「聞いて覚える」という動作と反応が割りに早かったのだが、こちらでは一様に「のんびり」しているせいか、悪く言うと鈍いのかもしれない。よく分からないのか、分かっていて出来ないのか、そんな訳で三日で終わる過s程が一週間もかかることもある。すると自然に規定の時間数で合格者を出すことが出来なくなる。規定の時間数で合格者を出せなくなると当然合格率も下がることになる。
それは始まったときにすぐ気づいていたがその対策がすぐに思いつかない。職員や教官を集めて会議を開いて話し合いも何度か開いたが、これと言った決め手がない。
何しろ相手は人間であり、様々な職種の人たちでもある。この人たちを同じマニュアルで教えることは出来なかった。合格率の良いのは学生である。若いと言うことと行動の反応が早く飲み込みも良い。時間がかかるのは女性であり、それも年齢が上がるほど悪くなる。この辺では買い物も簡単ではない。したがって女性も運転が出来ないと不便なのだ。
買い物用として車はあるが、免許がない。今までには無免許で走っていた人も多かったのではと思われるほどだ、彼はそんなこの地方の問題を含めてどうするかを検討した。
そして教官の得意技を利用して男女別、学生向き一般者、高齢者と出来るだけこまかく
区別をして担当を決めた。また、マニュアルもそれぞれ区別して指導させることにした。
これらのことを細かく作り管理するのは彼の得意とするところでもあった。
こうして一年が過ぎるころには、その効果が出て結果として現れてきた。80%ははるかに超えて順調に合格者を出すことが出来た。
本社からは何の苦情もなく過ぎていた。彼の仕事の一番充実していたときだったかもしれない。大宮へ帰宅するのは一ヶ月に一回ぐらいだったが、一週間に一回はゆっくり出来る時間が取れるようになっていた。ただ、妻のいない家に帰っても癒されることもない。
酒の飲めない彼にとってただひとつの慰めは電気器具で交錯する何かを作ることであった。

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