波紋

一人の人間をめぐって様々な人間関係が引き起こす波紋の様子を描いている

白百合を愛した男   第30回

2010-10-01 10:15:51 | Weblog
野田氏は美継の話を聞くと、がっかりしたように肩を落とした。商売を好きでやってきたとは思えない人柄は、話していても分り美継は同情した。「私もこれからのことを考えると、この山を処分しないと計画が立たないのです。困りました。」「事情は分りました。もう一度、他を当って話してみましょう。もう少し時間を下さい。」自分のことではない話であったが、美継は自分のことのように真剣になっていた。しかし、大根や菜っ葉を売るというものではない。簡単にまとまる話ではなかった。といってこの話を誰かに相談することも出来なかった。社長に話すわけにはいかないし、大金が必要なことだけに誰にでも相談して、進めることも出来なかった。断ってしまえば済む話ではあるがそれも出来なかった。何故か、
野田氏の真剣な目と態度に接しているうちに「何とかしてあげたい」という気持ちが強くなり、その責任にとらわれていた。そしてある日の夜、仕事が片付いた後、妻に、「ちょっと話があるんだが、」と胸につかえていた話をした。話を聞くと妻はあっさりと「お父さん、それならあなたが買って上げなさいよ。そうすれば片付くじゃない。」といった。全く考えてもいなかったことを急にあっさりといわれて美継は驚いた。「えーつ。私が」と言ってその次の言葉が出ない。「だって、しょうがないじゃないの。誰も買ってくれる人がいないんでしょう。」「それはそうだけど」全く考えていないことをいとも簡単に言われて、改めて静かに考えてみた。第一に資金の問題がある。そしてこの会社をどう経営していくのか、自分はサラリーマンであり会社を辞めない限り出来ない。しかしいま自分はこの仕事を辞めるつもりは無い。ではこの会社をどうするのか。買うのは良いとしても、それをどうするのか、問題は次から次へと片付かないままに浮かんでくる。眠れない夜が続いた。
そして又、野田氏がやって来た。「何か良い話はあったでしょうか。」「残念ですが、ありません。」「それではどうしてもダメでしょうか。」そんなやり取りの中で、美継は「どうでしょう。私がこの山を預かる形で、譲っていただきましょう。」「本当ですか。あなたが
買って下さるのですか。ありがとうございます。」「いや、あなたの話を聞いているうちに何とかしたいと言う強い気持ちになったのですが、力不足でどうすることも出来ません。出来るとすれば私が、それを引き継ぐと言うことくらいかと思ったのです。」

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