波紋

一人の人間をめぐって様々な人間関係が引き起こす波紋の様子を描いている

 オショロコマのように生きた男  第79回

2012-03-09 11:04:21 | Weblog
帰りの電車に乗ってからぼんやりと新しい工場のことを考えていた。先行投資としてどのくらいの資金が必要だったのだろうか。そしてその償却はどのように計算されているのだろう。彼のことだからかなり綿密な計画が出来ているのだろうが果たして
計算どおり運ぶことが出来るのだろうか。自分のことではないのに、同じような気持ちになってやはり他人事には思えない気がしていた。余計なことだと思いつつも加藤の管理職としての処遇の面も安くはないだろう。彼は実家が東京で家族はおいて
千葉へは単身赴任と聞いている。何処かのアパートで普段は仕事をして週末に東京へ帰っているが、その経費も馬鹿にはならないだろう。そしてもう一つ気がかりなことがあった。それは事務所で挨拶をした女性のことだった。
何となく男好きのする中年でそのしぐさと物腰に一般のパートの女性と異なる雰囲気も持っていたし、野間に対してもなれなれしい感じで落ち着いていた。その動作の一つ一つに直感的に何か異質なものを感じたが、その時そう思っただけで忘れるともなく忘れていたが不図思い出していた。野間も千葉と群馬の二つの工場を管理することは、いくら仕事が順調とはいえ、大変だと思うし、まして群馬は始まったばかりである。いくら順調とはいえそんなに手放しで入られないはずだ。そんな事をあれこれと考えているうちに温泉の暖かさがまだ身体に残っているようでうとうとと居眠りをしているうちに終点の浅草に着き夢から覚めた感じで会社へ帰った。
それから野間とのことは暫く忘れていたが、週一回東京へ帰ってくる加藤は時間を割いて村田のところへ立ち寄ることが多かった。営業活動をしている事にして時間をつぶすこともあるし家の都合もあるだろう。又紹介者である村田には野間には話せない相談事もあった。いろいろな事情があることを承知で村田も黙って付き合っていた。
だから野間と直接話すことはなくなったが、その様子は大体わかっていたし、業容の変化も感じることが出来た。
そんな経緯の中で二年の月日が過ぎていた。その頃から加藤の話から何となく二人の間に不満のようなものがあるのを感じるようになったが、村田はそのことには触れないようにして口を挟まなかった。ました自分のことではないし、意見を言える立場でもないからだった。まして責任を伴うとすればなおさらだった。
業界は状況が同じようで同じではない。深く潜行するように少しづつ動いていたし変わっているのだが、毎日の業務に追われていると気がつかないままで過ぎていることが多い。

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