波紋

一人の人間をめぐって様々な人間関係が引き起こす波紋の様子を描いている

 パンドラ事務所  第三話  その6

2013-10-03 09:43:27 | Weblog
結局これと言う話も聞くことが出来なかったことに失望し、これでは報告にもならないと思い何か方法はないかと考えてみた。確かあの時彼の上司であった内山がまだ会社にいるかもしれない。年齢的にも私よりは10年以上若いからひょっとして在籍していたら話が何か聞けるかも祖思ったのである。早速調べてみると現在は岡山の責任者として仕事をしていることが分かった。岡山まで行くことに少しの逡巡があったが、久しぶりに岡山を訪ねるのも一興かと思い直し行くことにした。簡単な日帰り旅行も悪くないと思いつつ、
不図小学校時代のことが頭に浮かんだ。青山は東京で小学校を過ごしていたが、戦災に会い(昭和20年3月10日)父の勤務先であった岡山へ一家で引き上げたのである。
そこで同じ「疎開っ子」と言われながら田舎の学校へ通った一人の女の子のことを思い出していた。「万里子ちゃん」と呼んでいたその女の子は色白で面長だったが奇妙に品がよく、美しい子だった。同じ東京からの疎開っこと言うこともあって言葉を交わすこともあったが中学を卒業してから、忘れるともなく忘れていた。一度中学の同窓会で顔を合わせて記憶もあるが、確か岡山で仕事して住んでいるとその時聞いた気がした。
「もういいおばあちゃんになっているだろうけど、もし会えたら嬉しいなあ」そんな愚にもつかないことを考えて、名簿を開いて電話をすると当人が出てくれた。
事情を話すと岡山駅の改札で待っててくれるという。青山は予想外の期待感で急に元気が出てきた。何となく若返ったような華やいだ気持ちになることが出来たのである。
やがてその日が来た。あいにくのどんよりとした天気で今にも雨が降りそうな天気であったが、気持ちは晴れやかだった。
本当は内山に会い、話を聞くことなのにいつの間にかそれは二の次になっていた。
「のぞみ」は予定通り4時間で岡へ到着。改札には昔の面影を残したままの彼女が迎えてくれた。その瞬間二人の間には昔がよみがえり小学生時代にタイムスリップしていたのだ。特別な話で弾んだわけもない。ただ、お互いの健康のこと身の回りの日常のことをさりげなく話しただけであったが、それで充分であった。
別れてから「玉手箱」を開けた時の気持ちはこんなものだったのかと一人苦笑いをしながら彼女の年相応の白髪が美しく染められ昔ながらの気品のある美しさを確認できたことに満足したのである。「良かった。」ただそれだけである。この時間を大事にしまっておこう。

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