波紋

一人の人間をめぐって様々な人間関係が引き起こす波紋の様子を描いている

音楽スタジオウーソーズ   第16回

2014-09-22 10:51:06 | Weblog
外処は本社へ栄転となった。役員として迎えられる予定であったが、やはり学卒でない彼には社内の学閥抵抗があった。本人は不本意ではあったが日本の古い慣習と不文律は認めざるを得なかった。彼の能力を最も認めていた常務はそっと陰に彼を呼んで慰めの言葉をかけて慰めてくれたがこの慣習を打破することは出来なかった。本社勤務になり、大宮から東京への通勤になり時間とともにその生活になじんできた。
コーラス会にも毎週顔を出すことも出来るようになった。そしてあの印象に残っていた女性とも会うことも出来るようになっていた。そして二人で話が出来る機会を持つことを願うようになっていた。そんな時コーラスグループのリーダーから発表会の知らせがあった。同好会同士の合流である。そして発表終了後別席での会食が用意されるとの事だった。会食はバイキング方式で料理の並んでいるテーブルに立ち並んでいると「お取りしましょうか」と声をかけられた。誰かなと振り向くと件の彼女が微笑んで立っていた。
ぼんやり立っている外処を見つけて、見かねたのであろうか。「ありがとうございます。
慣れないもんでどうしようかと思っていました。」そう言いながら皿を出すと彼女は料理を順序良く盛り付けていく。「こんなものでどうかしら。お口にあえばよいんですけど」
と差し出した。あわてて受け取りながら「御一緒にどうですか」と誘うと彼女も連れがいないのか、「そうですか。では御一緒に」と席に着いた。
「アルコールはお飲みにならないのですか」「いや、嫌いではないんですけど身体が受け付けなくて飲めないんですよ」「それじゃあ他のものを」と飲み物を用意して進めながら
食事をした。やがて楽しい食事も済み帰る時間になった。
外へ出て静かなところで二人だけの時間をと思わないでもなかったが、最初からではと
「私外処といいます。これからもよろしく」と挨拶すると「私、宮下と言います」と
初めて名前を知った。
どこへ帰るのか、家がどこなのか聞くこともはばかれて二人はそこで分かれた。
「又来週お会いしましょう」それが精一杯だった。