波紋

一人の人間をめぐって様々な人間関係が引き起こす波紋の様子を描いている

音楽スタジオウーソーズ   第14回

2014-09-08 09:59:52 | Weblog
春子との出会いから光一の生活も変わって来たようだ。それは具体的に何と言えるほどの
ものでもなかったが、何となく元気そうだったししぐさのひとつひとつに意欲のようなものが感じられていたからである。相変わらずランチタイムの時間と週に一度程度のデートの時間を過ごしていたが、その中で二人には共有するものを生みだしていた。
ある日、二人は休みを取って車で郊外へとドライブに出かけた。今まで女性と出かける経験が殆どなかったので、どこへ行ったらよいのか、何をしたらよいのか見当もつかなかったが、全ては成り行き任せであった。途中でぽつんぽつんと話しかけてくる春子に相槌を打ちながら動いていたのだ。「光一さんは将来何をしたいの」春子の作ってくれた弁当を食べ終わってお茶を飲み始めたとき急に聞かれた。突然予期していなかったことを聞かれて、何も考えていなかった光一は戸惑って固まってしまった。そして沈黙が流れ黙っていると「ごめんなさい急にへんなことを聞いて、私いつか二人で一緒に暮らしていけると思ったものだから」と顔を赤らめながら春子は言った。
「いや、考えていないわけでもないんだが、まだ漠然としていて何をしたら良いかと思っているんだ。何しろ楽器から離れられないから音楽関係の仕事しか思いつかないんだけどね。」「そうなの。私音楽関係のことは良く分からないけど光一さんのお手伝いなら何でもするわ。」「そうか。何か良い仕事が見つかると良いね。そしたら結婚しよう。」
「うれしい」そんなことがあって光一はそれから結婚を前提に真剣に考え始めていた。
しかし、あのうるさい、やかましい親父が何というか、いつもは殆ど口も聞かない仲でもある。
そんな弱気な光一だったが結婚と言う目的が出来て急に強気になってきた。ある日仕事から帰ってきた父親に「俺、好きな人が出来たんだ。」と唐突にいった。
その日はコーラスの練習日で父も何時になく機嫌が良く、普段と違っていた。
光一の話を聞くときょとんとした驚いたように振り返り、「そうか、お前もそんな年になったのか、所帯でも持つか。」と何時になく鷹揚に笑った。よほど嬉しかったのかもしれない。光一はその年の暮れ結婚した。仕事は今までどおりの共働きだった。