安倍政権の経済政策 検証③ 税も財政も悪循環繰り返す
「骨太の方針」は、「経済再生と財政健全化の二兎(にと)を得る」とうたい、「経済・財政再生計画」を打ち出しました。経済再生が「財政健全化」を促し、「財政健全化」の進展が経済再生に寄与するという「好循環」を描きます。
しかし、この計画は「とらぬタヌキの皮算用になる可能性が高い」と、大阪経済大学の梅原英治教授は指摘します。
安倍政権が掲げる「財政健全化」目標は、借入金を除いた「基礎的財政収支」を2020年度までに黒字にするというもの。実質2%以上、名目3%以上の成長率を達成して税収が増える「経済再生ケース」をめざしますが、それでも20年度には9兆4000億円の赤字が残ると試算します。今回、18年度までに赤字を国内総生産(GDP)の1%程度にすることを中間目標としました。それには、6兆円程度の赤字の追加圧縮が必要です。
社会保障を削減
歳出削減の矛先が真っ先に向けられるのは社会保障費です。「骨太の方針」は、「社会保障は歳出改革の重点分野である」と強調。16~18年度の3年間を通じて、高齢化や医療の高度化で当然増える社会保障費(自然増分)を1兆5000億円に抑える姿勢を示しました。20年度までの5年間を通じても、自然増分を「高齢化による増加分」(1年当たり5000億円)に「おさめることを目指す」と明記しました。
本来見込まれる社会保障費の自然増は年8000億~1兆円です。つまり「骨太の方針」が示したのは、年3000億~5000億円、3年間で9000億~1兆5000億円、5年間で1兆5000億~2兆5000億円もの自然増分を削減するという姿勢にほかなりません。
「社会保障費の縮減は国民の可処分所得を減らし、生活不安を喚起して消費を抑制する」と、梅原氏は強調します。そのうえ17年4月には10%への消費税増税を予定しており、経済の落ち込みは避けられません。「安倍政権の『成長戦略』は国民生活の向上に根ざした内需主導型の安定成長を実現するものではない。世界企業化した大企業の資本蓄積を促進するものなのです」
実際、「骨太の方針」と新成長戦略は15年度を起点とする法人税減税計画を加速する方針を示しました。現在の計画でも16年度には1兆6000億円の減税になるのに、「税率引き下げ幅のさらなる上乗せ」を図るといいます。

社会保障の充実を求めてデモ行進する第86回中央メーデーの参加者=5月1日、東京都渋谷区
論理的に破たん
梅原氏はいいます。「6兆円程度の赤字の追加圧縮は歳出削減だけでは難しいので、税収の見込みを高めに設定して帳尻を合わせました。法人税率のいっそうの引き下げとは両立せず、論理的に破たんしています」
政府の経済財政諮問会議でこうした政策を主張したのは、経団連の榊原定征(さかきばら・さだゆき)会長です。5月26日には社会保障の「改革項目」をあげ、「全てをやり切っていただきたい」と迫りました。安倍政権が財界の主張に付き従っていることは、甘利明経済財政担当相の発言からも明白です。
「(民間議員がいうには)諮問会議で議論した歳出改革のメニューがほとんど盛り込まれているのも初めてのことではないか」「(社会保障の改革項目に)掲げてあるものは全部やっていく」(6月30日の記者会見)大企業の高収益のために国民生活を犠牲にして日本経済を衰弱させ、国民にいっそうの犠牲を強いるという、これまでの悪循環を繰り返す政策体系です。
(つづく)
【基礎的財政収支】
新たな借入金(国債の発行など)を除く収入と、過去の借入金の返済(国債の元利払いなど)を除く支出との収支。基礎的財政収支が均衡していれば、毎年の政策的な経費が税収などの毎年の収入でまかなわれていることになります。
「しんぶん赤旗」日刊紙 2015年7月7日付掲載
財政収支を改善するって言って、支出である社会保障を削減。
でも、それによって社会不安が増して、消費支出が減り、経済規模が縮小。税収も減ってしまう。
まさに「貧すれば鈍する」で、「二兎(にと)を得る」どころか「とらぬタヌキの皮算用」だ。
「骨太の方針」は、「経済再生と財政健全化の二兎(にと)を得る」とうたい、「経済・財政再生計画」を打ち出しました。経済再生が「財政健全化」を促し、「財政健全化」の進展が経済再生に寄与するという「好循環」を描きます。
しかし、この計画は「とらぬタヌキの皮算用になる可能性が高い」と、大阪経済大学の梅原英治教授は指摘します。
安倍政権が掲げる「財政健全化」目標は、借入金を除いた「基礎的財政収支」を2020年度までに黒字にするというもの。実質2%以上、名目3%以上の成長率を達成して税収が増える「経済再生ケース」をめざしますが、それでも20年度には9兆4000億円の赤字が残ると試算します。今回、18年度までに赤字を国内総生産(GDP)の1%程度にすることを中間目標としました。それには、6兆円程度の赤字の追加圧縮が必要です。
社会保障を削減
歳出削減の矛先が真っ先に向けられるのは社会保障費です。「骨太の方針」は、「社会保障は歳出改革の重点分野である」と強調。16~18年度の3年間を通じて、高齢化や医療の高度化で当然増える社会保障費(自然増分)を1兆5000億円に抑える姿勢を示しました。20年度までの5年間を通じても、自然増分を「高齢化による増加分」(1年当たり5000億円)に「おさめることを目指す」と明記しました。
本来見込まれる社会保障費の自然増は年8000億~1兆円です。つまり「骨太の方針」が示したのは、年3000億~5000億円、3年間で9000億~1兆5000億円、5年間で1兆5000億~2兆5000億円もの自然増分を削減するという姿勢にほかなりません。
「社会保障費の縮減は国民の可処分所得を減らし、生活不安を喚起して消費を抑制する」と、梅原氏は強調します。そのうえ17年4月には10%への消費税増税を予定しており、経済の落ち込みは避けられません。「安倍政権の『成長戦略』は国民生活の向上に根ざした内需主導型の安定成長を実現するものではない。世界企業化した大企業の資本蓄積を促進するものなのです」
実際、「骨太の方針」と新成長戦略は15年度を起点とする法人税減税計画を加速する方針を示しました。現在の計画でも16年度には1兆6000億円の減税になるのに、「税率引き下げ幅のさらなる上乗せ」を図るといいます。

社会保障の充実を求めてデモ行進する第86回中央メーデーの参加者=5月1日、東京都渋谷区
論理的に破たん
梅原氏はいいます。「6兆円程度の赤字の追加圧縮は歳出削減だけでは難しいので、税収の見込みを高めに設定して帳尻を合わせました。法人税率のいっそうの引き下げとは両立せず、論理的に破たんしています」
政府の経済財政諮問会議でこうした政策を主張したのは、経団連の榊原定征(さかきばら・さだゆき)会長です。5月26日には社会保障の「改革項目」をあげ、「全てをやり切っていただきたい」と迫りました。安倍政権が財界の主張に付き従っていることは、甘利明経済財政担当相の発言からも明白です。
「(民間議員がいうには)諮問会議で議論した歳出改革のメニューがほとんど盛り込まれているのも初めてのことではないか」「(社会保障の改革項目に)掲げてあるものは全部やっていく」(6月30日の記者会見)大企業の高収益のために国民生活を犠牲にして日本経済を衰弱させ、国民にいっそうの犠牲を強いるという、これまでの悪循環を繰り返す政策体系です。
(つづく)
【基礎的財政収支】
新たな借入金(国債の発行など)を除く収入と、過去の借入金の返済(国債の元利払いなど)を除く支出との収支。基礎的財政収支が均衡していれば、毎年の政策的な経費が税収などの毎年の収入でまかなわれていることになります。
「しんぶん赤旗」日刊紙 2015年7月7日付掲載
財政収支を改善するって言って、支出である社会保障を削減。
でも、それによって社会不安が増して、消費支出が減り、経済規模が縮小。税収も減ってしまう。
まさに「貧すれば鈍する」で、「二兎(にと)を得る」どころか「とらぬタヌキの皮算用」だ。