日々の泡盛(フランス編)

フランス在住、40代サラリーマンのどうってことない日常。

アロイーズの声

2009-08-05 23:26:13 | アート
集中講義でへとへとになったあと、ワタリウムで開催中の
アロイーズ・コルバス展へ行ってみる。
31才で統合失調症となり、32才から78才でなくなるまでの46年間を
精神病院で過ごした彼女の作品、アールブリュト(英語だと
アウトサイダー・アートと呼ばれる)の代表的作家と言われる
アロイーズ・コルバス。いや彼女は作家なんて呼ばれたくはないだろうな、
ただ好きで、作家なんて肩書きなんかおかまいなしし、ただ魂から
ほとばしるものをキャンバスに描き続けていただけだから。
彼女の描く世界は骨抜きにされた人生の代替、
コミュニケーションや表現の方法ではなくて生きている哲学そのもの、
そんな言葉が壁に書かれている。

真っ赤な絵の世界は飛び散る血しぶきにしか僕には見えなかったが、
そして絵画の中の登場人物の眼はアーモンドのような形の巨大な
ブルーで塗りつくされているけど、アロイーズの声が今にも語りかけて
くるようだった。このエネルギーがアートなんだなあ。

絵が売れるようになって、スイスのヴォー州は作業療法士を彼女につけ
絵画の制作にもっと励めるような環境を作ろうとした。
しかし、そんな「飼いならし」は逆に彼女から自由を奪い、
絵は精気を失い、彼女も身体を壊して一年後には亡くなってしまう。
無理もない。彼女はなんの価値観や規範にとらわれることなく、
好き勝手に絵を描きたかっただけだから。