く~にゃん雑記帳

音楽やスポーツの感動、愉快なお話などを綴ります。旅や花の写真、お祭り、ピーターラビットの「く~にゃん物語」などもあるよ。

<BOOK> 中公新書「スキマの植物図鑑」

2014年05月24日 | BOOK

【塚谷裕一著、中央公論新社発行】

 タイトルの「スキマ」は隙間。文字通り、アスファルトの割れ目や電柱の根元、石垣やブロック塀の小さな穴などを指す。本書は都会の真ん中でこういった隙間から顔を出して力強く生きる身近な植物たち約110種類を、春・初夏・夏・秋・冬と季節ごとにカラー写真で紹介。それぞれの植物の特徴や似た植物との見分け方などの解説も添えている。

    

 著者塚谷氏は1964年鎌倉市生まれで、現在、東京大学大学院教授。専門は植物学で、葉の発生を司る遺伝子経路の解明を主なテーマにしている。その傍ら、趣味として長年、スキマ植物の探索・撮影に取り組んできた。著書に『植物の<見かけ>はどう決まる』『植物のこころ』『変わる植物学 広がる植物学』など。

 スキマ植物から思い起こされるのが10年近く前、話題を集めた〝ど根性大根〟。アスファルトの隙間から生えた大根が大きく成長し、植物のど根性ブームの先駆けとなった。だが、著者は「つい何でも私たちヒトになぞらえて擬人化して見てしまう習性」に疑問を投げ掛けながら、こう指摘する。

 「一見、窮屈で居心地の悪い場所に思えるが、こうしたスキマは実は植物たちの『楽園』なのだ」「隙間に入り込むことに成功した瞬間、その植物はそのあたり一帯の陽光を独り占めできる利権を確保したことになる。これほど楽なことはない」「隙間に生えるということは、過酷な環境への忍耐などではなく、むしろ天国のような環境の独り占めなのだ」――。

 「隙間を好む花の代表」として本書で詳細に紹介しているのがスミレの仲間たち。タチツボスミレやヒゴスミレなど10種類を写真とともに取り上げている。タネに付着する「エライオソーム」という脂質分はアリの大好物。アリは巣に持ち帰って、その部分を餌にした後タネを放棄する結果、アリが掘った隙間の中から芽吹くというわけだ。カタバミやタツナミソウのタネも同様にアリによって運ばれる。

 日本在来のゲンノショウコに似た北米原産の帰化植物、アメリカフウロはなんと放置されたトラックの荷台の隙間から生えていた。実が熟してはじけたタネがたまたま荷台の上に着地したのだろう。民家の雨樋の水が流れ込む集水器からは青々とした立派なクロマツが生えていた。背後には大きな松の木。そこからタネがくるくる舞って雨樋に落ち、枯葉などがたまった集水器の所で芽を出したに違いない。

 他にコンクリートの割れ目やブロック塀、石積みの間などから顔を出すオダマキ、ノースポール、ユキヤナギ、ヒメヒオウギ、キンギョソウ、ヤグルマギク、ドクダミ、オオムラサキツユクサ、ペチュニア、ヒガンバナ、タマスダレなどの草花も紹介している。

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