経済を良くするって、どうすれば

経済政策と社会保障を考えるコラム


 *人は死せるがゆえに不合理、これを癒すは連帯の志

歴史に学ぶ資本主義の未来

2017年03月26日 | 経済
 歴史的に金融は悪徳とされてきた。成長なき時代にあっては、利子を払い続けることには無理があり、そうした約束は、身の破滅を呼ぶものだったからだ。乏しさが普通の世界では、分かち合いが倫理であり、強欲は排されねばならない。利益の追求が許されるようになるのは、成長と豊かさが当然になって以降で、近代の割と新しい価値観である。それだけに、成長が失われれば、価値観までが問い直されることになる。

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 FTの名物コラムニストのジョン・ブレンダー著『金融危機はまた起こる 歴史に学ぶ資本主義』を読み進めるうち、オチが見えるような気がした。やはり、結語は、「資本主義は最悪の経済の仕組みだ。ただし、これまで試されてきたすべての経済の仕組を別にすれば」であった。では、資本主義は、どこがマズいのか。自然発生的であるから、絡み合う現実そのものというところもある。これを切り分けねばならない。

 資本主義の原動力は、事業欲である。お客様を喜ばせ、自社も潤い、世の中を豊かにする。「三方良し」であるから、近代に限った話ではなく、単なる金銭欲とは、分けて考えるべきものだ。事業欲に突き動かされ、世の中に存在する資金と労働力を組み合わせ、余さず使い尽くすのだから、合理性ある効率的な営みである。これが資本主義の美点であり、経済学が擁護するゆえんで、問題は、この力が無効になる場合があることだ。

 人は死すべき存在であり、時間による分散には限度があるため、需要リスクにさらされると、投資の期待値がプラスでも、敢えて捨てるという、不合理な行動を取る。これが不況の本質で、現実の経済は、事業欲と、これを上回りもするリスク回避の力のせめぎ合いになっている。それゆえ、現実の経済は複雑性を持ち、「態」の変化も起こる。相反する二つの物理的な力を措定すれば、経済現象の説明はシンブルで済む。

 ブームも同じ理屈で、需要が調子づいていると、合理性を超える多くの投資をしてしまう。それでブームが加速するうちは報われるものの、いずれ限界に至って、調整に見舞われ、大損失を被る。これが景気変動のメカニズムだ。需要の在り様によって、不合理な力が働かないようにし、事業欲を健全なレベルに保つには、どうしても需要管理が必要となる。資本主義には、自由を補完する「政府」という仕組みが欠かせないのだ。

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 資本主義には、もう一つ、金銭欲という困ったものがある。緊縮財政を敷いて物価を抑制し、思い切り金融緩和をすれば、資産価格は高騰し、大儲けができる。また、低額の輸入品を増やし、安い労働力として移民を使い、社会保障負担を免れ、資産課税を軽くし、金融取引などの規制緩和をすることでも、同様の効果が得られる。これらでマネーは膨らんでも、供給力には結びついておらす、世の中が大して豊かになるわけではない。

 こうした金銭欲が、バブルの時はともかく、クラッシュが起こってしまうと、怨嗟の的となるのは、至極、当然であろう。政治的な批判は、バブルに役立ったあらゆるものに向かうが、お金を持つ者は政治力も持っており、処方は、更なる金融緩和と、財政による金融の救済になりがちだ。ここで中央銀行や政府の債務が膨張し、その不安から緊縮財政が導き出されたりすると最悪である。金融の不行状は実体経済や社会に及ぶ。

 バブル崩壊後、企業は、どうしても、人材や技術への長期的投資を怠りがちになる。これを財政が補おうとしないと、少子化や子供の貧困などの深刻な社会問題につながる。人的資本の収奪が起こるのである。日本企業は、かつて「人を大事にする経営」で褒めそやされたが、財政再建最優先の下、名目成長=売上増が失われ、人より収益性を尊ぶようになった。成長なき環境では、長期的利益を犠牲にすることもせざるを得ない。

 バブルによって膨張した債務と財政赤字、これを中央銀行に封じ込め、実体経済に根を持たぬものとして、緩やかにインフレと資産課税で溶かしていく。他方、財政による需要安定を図りつつ、腹を括って、人的投資に必要な社会保障にはカネを出す。これが成長によって正当化される資本主義の未来ということになろう。確かに、資本主義は欲にまみれた仕組みだが、その力学を見極めるなら、まだ改善の余地はある。

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(図)



 日本の需要管理は拙劣だが、足元では、輸出が順調に伸びて、無能さをカバーしてくれている。利益を溜めるばかりと批判される企業だが、毎日エコノミスト(3/28)で枩村秀樹さんが指摘するように、人件費や設備投資を決める際に基準となるのは、利益でなくて、売上高だ。これから、名目GDPも上向くであろうし、人手不足による人件費の売上高比率の押し上げも期待できよう。

 今週、面白かったのは、もう一つ、財政再建派の日経ビジネスが電子版(3/21:水野孝彦記者)で、かねて「急ぐべきでない」とするソシエテの会田卓司さんを取り上げたことだ。「将来を過度に不安視することで、設備投資や若者への教育に十分な資金を回さなければ、それ自体が日本の経済力を弱めてしまう。考えてみれば、この『失われた20年』と呼ばれるデフレの時代はその繰り返しだった」とする。正に、そのとおりである。


(今日までの日経)
 アパート融資、異形の膨張16年3.7兆円。景況、全地域で改善 地域経済500調査。保育所、1~2歳受け入れ拡大 0歳児枠縮小へ。
 
 ※0歳児の保育コストは極めて高く、女性が普通に働いたくらいでは、とてもペイできない。枠を縮小する代わり、所得補償や職場復帰を整え、需要を抑えるべきである。

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3 コメント

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Unknown (きんぴー)
2017-03-27 09:33:39
実質輸出が激増、実質輸入が減少、今月だけではあるでしょうがGDPの寄与度がヤバくないですか!?

もちろん来月はあれでしょうが。
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Unknown (asd)
2017-03-29 09:15:10
会田卓司さん最近目立ってますね。
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Unknown (Unknown)
2017-03-29 14:19:38
会田卓司氏はZUUというサイトでたまにコラム書いてますが、日本で数少ないまともなエコノミストですね。
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