英語でアコードと言うと、協調する、調和させるという意味である。目標を共有し、為すべきことをお互いに決めることであって、政府が中央銀行に特定の金融政策を命じるというものではない。2%の物価上昇率を目指して、安倍政権が日銀に緩和を求めるのは良いとして、その一方、政府は何をするつもりなのか。いつものごとく、来年度予算を前年並とし、「成長の足を引っ張ります」というのではあるまいね。
………
1%の物価目標を達成するだけでも、名目3%成長は要る。この時、政府の歳出が3%増えるのだったら、成長に対しては中立だ。前年並でゼロ%増なら、政府が伸びなかった分を、民間が3%以上伸ばして補わないと達成できないことになる。日本では、こんな簡単な理屈も解されず、「デフレは脱したいが、財政は緊縮で」という無理を、誰も疑問視しない。
国の一般会計は約90兆円だから、その3%は2.7兆円である。この分を「成長戦略」なり、「規制緩和」なりで埋め合わせるという考え方もあろう。しかし、先日も書いたように、たった1兆円確保するのに、新エネなら、100万kwのLNG火発10か所増とか、メガソーラー100か所上乗せとかが必要になる。情報通信産業なら、設備投資の25%増しを達成しなければならない。
TPPにしても、10年で3兆円の効果とされるから、1年当たりでは3000億円にしかならない。国家公務員の給与カットが3000億円だから、国民が「たったこれだけ」と思うような節約でさえ、貿易自由化のメリットを吹き飛ばす勘定になる。「成長戦略」で需要を埋めようという人は、夢の計画に酔っているのか、緊縮財政をしたいがために理屈を並べているかのどちらかであろう。
しばしば、「金融緩和は、期待に働きかけるものだ」と言われるが、中央銀行には要求を突きつけても、財政では成長の足を引っ張るつもりの国が、企業経営者の設備投資への期待を変えられるものだろうか。まあ、海外勢は、内実の伴わない経済対策の大きさを読み違えて、よくヤケドをしたりするから、期待をまったく変えられないとまでは言わんがね。
………
安倍政権は、これから来年度の予算編成を行う。ありがちな方針としては、社会保障費の自然増は容認し、その他の予算は前年同というものだろう。例年、自然増は1兆円と言われるが、来年度は年金支給年齢の引き上げがあるため、7000億円程度と思われる。来年度の成長率が1.5%程度なら、財政当局のいつもの少なめの見積りでも、この程度は、税の自然増収でカバーできよう。結果として、国債発行枠44兆円は守れることになる。
このところ、「44兆円枠を超えて予算を組む」といった話も流されているが、あまり期待しない方が良い。おそらく、これは、今年度、交付国債という形を取り、一般会計に計上せずに処理した、年金の1/2国庫負担分2.6兆円を組み込むだけのことだろう。そうすると、来年度予算は、形だけは3%増ということになり、名目3%成長を目指す自民党の方針とマッチする。むろん、経済的には、今年度と何も変わらないのだから、実質的に成長の足を引っ張るゼロ%成長予算の出来上がりだ。こういうのにコロリとやられるのだろうね。
他方で、1月から年間2900億円規模の所得税への復興増税が始まる。これは、低調な冬のボーナスと相まって、しっかりと消費を冷やし、デフレを促進してくれるだろう。そう言えば、本コラムでは、7月に、2011年度の決算剰余金を使って当面の復興増税を避けるべしとの提案をしていたね。さっさと補正予算を組んでいれば、こうはならなかったが、もはや間に合うまい。
代わりに、これから行う経済対策は、国土強靭化の公共事業を軸にするようだが、今日の日経によると、3000億円のゼロ国債を使うようだ。これは、経済対策と来年度予算に二重計上できるすぐれものであり、経済対策を大きく見せるテクニックである。まあ、1-3月期の低迷の後、4-6月期に公共事業で少し浮揚させ、それでもって、「景気は上向きだから、予定通り消費税」という算段なのだろう。
所得と消費を増やしそうな自民党の公約は少ないが、一つ挙げれば、幼児教育の無償化がある。必要な財源は約8200億円と言われるが、おそらく、学年進行方式で、5歳、4歳、3歳と、順次、対象を拡大し、3年計画で進めるつもりではないか。そうであれば、少子化で減る学校教育費を回せば、予算を膨らませなくて済む。補正予算で、これを一気にすれば、消費のテコ入れにはなるだろう。
それにしても、少子化の緩和に決定的に重要な0-2歳児が対象外というのは、残念である。こういう肝心なところが抜けているのは、民主党政権でも同様だった。保育が不足している0-2歳児でなく、足りている3-5歳児に財源を投入するのは、少子化で予算が余るのは、文科省だからなのか。若い女性の切実な声を聞いて欲しいし、少子化を緩和しないことには、国家を保てないことになる。
………
本当にまともな経済の舵取りをしたければ、税収の見積りから見直すべきである。2011年度実績42.8兆円から、2012年度は1兆円は上回りそうである。2013年度は、3%成長とは言わぬまでも、1.5%以上の成長として、1.5兆円の増収は見込むべきである。そうすると、来年度予算は、今年度予算の税収見積りと比較して、3兆円は歳出を増やさなければならない。これが経済の足を引っ張らない財政運営ということになる。
民主党には望むべくもなかったが、自民党には、この程度の理屈が分かる知恵者は居るのであろうか。もし、居たとしても、年金の国庫負担分を含めて、歳出を6%も伸ばそうという話だから、周囲から奇異に見られるだろうし、財政破綻を言い立てる新聞や有識者からの批判も浴びよう。そして、「日銀にアコードを押し付けるのだから、それで十分」という声に対する必要まである。結局、脱デフレの障害とは、世間の誤れる常識なのである。
(今日の日経)
金融庁が自己資本上乗せ要請へ。財源はある・幼児教育無償化8200億円。公共事業の前倒し契約枠を3000億円。ITの先端・ほぼ日。ドラッグストアのよろず屋。景気後退の出口・小竹洋之。経済教室・3分の2の重み、並立制は離党と小党を誘発、再可決の明示を、選挙制度改革が必要・待鳥聡史。振り込め被害最悪315億円。
※待鳥先生の見方には賛成だ。衆は小選挙区295、参は都道府県単位の比例代表260とし、同日選の場合は、重複立候補を許すことにしてはどうか。参の半数130は一票の格差を2倍以内にする最低数である。その場合、定数1が14県、2が19県、3~11が14都道府県になる。各党配分はドント式でいく。衆は2/3が容易になり、参は良くて過半数だ。合同で審議すれば、事実上の一院制になる。 少なくとも、今の2/3を幸運と思って、衆の比例を30減らし、参の選挙区を18増やすことをしておきたい。これで格差は3.5倍程度まで縮む。
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1%の物価目標を達成するだけでも、名目3%成長は要る。この時、政府の歳出が3%増えるのだったら、成長に対しては中立だ。前年並でゼロ%増なら、政府が伸びなかった分を、民間が3%以上伸ばして補わないと達成できないことになる。日本では、こんな簡単な理屈も解されず、「デフレは脱したいが、財政は緊縮で」という無理を、誰も疑問視しない。
国の一般会計は約90兆円だから、その3%は2.7兆円である。この分を「成長戦略」なり、「規制緩和」なりで埋め合わせるという考え方もあろう。しかし、先日も書いたように、たった1兆円確保するのに、新エネなら、100万kwのLNG火発10か所増とか、メガソーラー100か所上乗せとかが必要になる。情報通信産業なら、設備投資の25%増しを達成しなければならない。
TPPにしても、10年で3兆円の効果とされるから、1年当たりでは3000億円にしかならない。国家公務員の給与カットが3000億円だから、国民が「たったこれだけ」と思うような節約でさえ、貿易自由化のメリットを吹き飛ばす勘定になる。「成長戦略」で需要を埋めようという人は、夢の計画に酔っているのか、緊縮財政をしたいがために理屈を並べているかのどちらかであろう。
しばしば、「金融緩和は、期待に働きかけるものだ」と言われるが、中央銀行には要求を突きつけても、財政では成長の足を引っ張るつもりの国が、企業経営者の設備投資への期待を変えられるものだろうか。まあ、海外勢は、内実の伴わない経済対策の大きさを読み違えて、よくヤケドをしたりするから、期待をまったく変えられないとまでは言わんがね。
………
安倍政権は、これから来年度の予算編成を行う。ありがちな方針としては、社会保障費の自然増は容認し、その他の予算は前年同というものだろう。例年、自然増は1兆円と言われるが、来年度は年金支給年齢の引き上げがあるため、7000億円程度と思われる。来年度の成長率が1.5%程度なら、財政当局のいつもの少なめの見積りでも、この程度は、税の自然増収でカバーできよう。結果として、国債発行枠44兆円は守れることになる。
このところ、「44兆円枠を超えて予算を組む」といった話も流されているが、あまり期待しない方が良い。おそらく、これは、今年度、交付国債という形を取り、一般会計に計上せずに処理した、年金の1/2国庫負担分2.6兆円を組み込むだけのことだろう。そうすると、来年度予算は、形だけは3%増ということになり、名目3%成長を目指す自民党の方針とマッチする。むろん、経済的には、今年度と何も変わらないのだから、実質的に成長の足を引っ張るゼロ%成長予算の出来上がりだ。こういうのにコロリとやられるのだろうね。
他方で、1月から年間2900億円規模の所得税への復興増税が始まる。これは、低調な冬のボーナスと相まって、しっかりと消費を冷やし、デフレを促進してくれるだろう。そう言えば、本コラムでは、7月に、2011年度の決算剰余金を使って当面の復興増税を避けるべしとの提案をしていたね。さっさと補正予算を組んでいれば、こうはならなかったが、もはや間に合うまい。
代わりに、これから行う経済対策は、国土強靭化の公共事業を軸にするようだが、今日の日経によると、3000億円のゼロ国債を使うようだ。これは、経済対策と来年度予算に二重計上できるすぐれものであり、経済対策を大きく見せるテクニックである。まあ、1-3月期の低迷の後、4-6月期に公共事業で少し浮揚させ、それでもって、「景気は上向きだから、予定通り消費税」という算段なのだろう。
所得と消費を増やしそうな自民党の公約は少ないが、一つ挙げれば、幼児教育の無償化がある。必要な財源は約8200億円と言われるが、おそらく、学年進行方式で、5歳、4歳、3歳と、順次、対象を拡大し、3年計画で進めるつもりではないか。そうであれば、少子化で減る学校教育費を回せば、予算を膨らませなくて済む。補正予算で、これを一気にすれば、消費のテコ入れにはなるだろう。
それにしても、少子化の緩和に決定的に重要な0-2歳児が対象外というのは、残念である。こういう肝心なところが抜けているのは、民主党政権でも同様だった。保育が不足している0-2歳児でなく、足りている3-5歳児に財源を投入するのは、少子化で予算が余るのは、文科省だからなのか。若い女性の切実な声を聞いて欲しいし、少子化を緩和しないことには、国家を保てないことになる。
………
本当にまともな経済の舵取りをしたければ、税収の見積りから見直すべきである。2011年度実績42.8兆円から、2012年度は1兆円は上回りそうである。2013年度は、3%成長とは言わぬまでも、1.5%以上の成長として、1.5兆円の増収は見込むべきである。そうすると、来年度予算は、今年度予算の税収見積りと比較して、3兆円は歳出を増やさなければならない。これが経済の足を引っ張らない財政運営ということになる。
民主党には望むべくもなかったが、自民党には、この程度の理屈が分かる知恵者は居るのであろうか。もし、居たとしても、年金の国庫負担分を含めて、歳出を6%も伸ばそうという話だから、周囲から奇異に見られるだろうし、財政破綻を言い立てる新聞や有識者からの批判も浴びよう。そして、「日銀にアコードを押し付けるのだから、それで十分」という声に対する必要まである。結局、脱デフレの障害とは、世間の誤れる常識なのである。
(今日の日経)
金融庁が自己資本上乗せ要請へ。財源はある・幼児教育無償化8200億円。公共事業の前倒し契約枠を3000億円。ITの先端・ほぼ日。ドラッグストアのよろず屋。景気後退の出口・小竹洋之。経済教室・3分の2の重み、並立制は離党と小党を誘発、再可決の明示を、選挙制度改革が必要・待鳥聡史。振り込め被害最悪315億円。
※待鳥先生の見方には賛成だ。衆は小選挙区295、参は都道府県単位の比例代表260とし、同日選の場合は、重複立候補を許すことにしてはどうか。参の半数130は一票の格差を2倍以内にする最低数である。その場合、定数1が14県、2が19県、3~11が14都道府県になる。各党配分はドント式でいく。衆は2/3が容易になり、参は良くて過半数だ。合同で審議すれば、事実上の一院制になる。 少なくとも、今の2/3を幸運と思って、衆の比例を30減らし、参の選挙区を18増やすことをしておきたい。これで格差は3.5倍程度まで縮む。
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