経済を良くするって、どうすれば

経済政策と社会保障を考えるコラム


 *人は死せるがゆえに不合理、これを癒すは連帯の志

起死回生の日本と経済社会の未来

2012年01月02日 | 経済
(1/1の「起死回生の日本」からの続き)
 今回の欧州危機は、経済政策に関して、さまざまな知見を与えてくれている。FTなどの海外紙では多様な見方が出されている。これに対し日本では、各紙の元旦社説が揃って「だから消費増税」となっているのは、何とも単調である。日経は、「資本主義を進化させるために」というタイトルだったが、これから何が必要とされるのだろう。

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 経済政策の古くて新しい課題は、投資をコントロールできないことにある。資産投資が過熱し、バブルを作ってしまうこともあれば、低金利と高失業にあっても、一向に設備投資が出てこないこともある。今回の欧州危機では、バブルが弾けた後、不況に喘いでいるのだから、そうした課題が端的に表れていると言えよう。

 こうなってしまうのは、投資がリスクに強く影響されるからである。年末にイタリア国債の入札が行われたが、ECBが3年物オペを実施して金融緩和を行った結果、期間が3年までの国債は、金利が急低下したのに対し、10年債は、ほとんど変わらなかった。国債金利の高さは、マーケットが財政再建を求めているのだと言われたりもするが、実態は、流動性リスクの問題であった。

 欧州、そして、米国にも言えることだが、課題には、二つの側面があるように思う。一つは、バブル崩壊に対応し、大規模な金融緩和を行ったが、これによってマネーが膨らんでしまい、これをどう回収するかである。そして、もう一つは、その際の資本注入や経済ショック対策で積み上がった財政赤字の始末をどうつけるかである。

 これら対する一つの考え方は、「放置しても、あまり問題はない」というものである。金融緩和や財政赤字の反面として、巨大な預金が積み上がっているが、それが実物へ向かわない限り、インフレという弊害は起こらないわけで、ある意味、開き直った考え方になる。他方、膨らんだマネーは、いつ暴れ出すか分からず、その危険を避けるため、急いで回収する必要があるという考え方もある。

 ここで厄介なのは、バブル崩壊への対応が完全には終わっておらず、金融緩和も、財政赤字も、ジリジリと続けなくてはならないことである。いつ果てるともしれない状態で、インフレの悪夢ばかりが募ってくる。人間は、こういう心理状態に弱く、不安から逃れたい一心で、破滅的な行動さえ取りかねない。米国の共和党茶会派の主張や、日本の消費税願望は、人間らしい反応とも言える。

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 現実的には、忍耐強く、辛抱強く、一歩ずつ対応するほかない。対応策の第一は、膨張した金融資産について、第二次大戦後の米国がしたように、「金融抑圧」を行うことだろう。金融抑圧は、国債金利をインフレ率をわずかに下回る水準に長期に渡って抑制することである。これによって、金融資産を目減りさせていく。詳しい議論については、FTの「さらに強まる政府と銀行の絆」でもお読みいただきたい。

 第二に考えられのは、日米欧で協調して利子課税を強化することである。利子課税を行えば、その分だけ市場金利より低い金利で国債発行をするのと同じだから、効果としては、金融抑圧と変わらないことになる。加えて、金融資産を持ったまま亡くなった人から回収する手段として、相続税の強化も検討に値しよう。

 第三は、意外な方法として、法人税の強化が挙げられる。法人税は、設備投資の促進手段として、国際的な引き下げ競争が起こっているが、これを協調して改めるのだ。金融機関が法人税の主要な納め手であることを忘れてはならない。これを緩めることは、バブルの要因にもなるし、バブル後の始末も遅れることになる。

 もし、設備投資を促進したければ、法人税を財源に、投資促進の税制や補助金を設ければ良い。日本は四次補正でエコカー補助金などの景気対策を行うが、これは法人減税ができずに余計に入った税収で実現したものだ。これもあって、トヨタの新型HV車には予約が殺到している。この車は、被災地岩手に新たに投資した工場で生産されるものである。

 そもそも、高い法人税は、日本が成長していた時代には問題にならなかった。配当を増やすより、設備投資をして株価を上げる方が、株主に喜ばれたからである。裏返せば、今の経済界が法人減税を強く求めるのは、国内で設備投資をする気がないからだろう。投資促進税制を整理してでも、法人税率の下げを望むのは、産業振興という表向きの看板とは矛盾があるように思える。

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 これからの経済政策は、課題の本質である、膨張した金融資産にどう取り組むかだろう。日本のように、資産課税を緩め、大衆課税の消費増税に走るのは、ピントが外れている。日本は、米国がインフレに苦しみ、クラウディングアウトを起こしていた頃の古びた経済政策にしがみついているように見える。戦前、日本は、時代遅れになっていた金本位制に復帰しようとして破滅を招いたが、同じ構図だ。

 欧米は、「金融圧縮」といった次代の経済政策を模索しつつある。金融資産や金融取引への課税の議論も深まっていくだろう。これは、財政赤字と連結して、問題を一度に解決できる糸口ともなるからである。若い人達には、資本主義の未解決の課題である投資のコントロールに向けて、クリエイティブな政策を考えてもらえたらと思う。

(今日の日経)
 新聞休刊日

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