経済を良くするって、どうすれば

経済政策と社会保障を考えるコラム


 *人は死せるがゆえに不合理、これを癒すは連帯の志

長期の家計調査・消費の割合が急低下した訳

2022年02月13日 | 経済
 「豊かな社会になると、お金が好きになって、あまり消費をしなくなる」として、長期停滞の理由に擬せられたりするが、長期の家計調査を眺めると、それはちょっと違うということになる。確かに、食料消費に充てる割合は減少してきたが、それ以外の非食料消費の割合は、50年間に渡って、ほぼ一定だったからだ。それを覆し、消費の割合を急低下させたのは、アベノミクスになってからである。

………
 下図で分かるように、食料消費の割合は、傾向的に低下していたが、1997年のハシモト緊縮財政の後、デフレの長期停滞に入ると下がらなくなった。他方、非食料消費の割合は、ほぼ一定である。残差の貯蓄は、むしろ、デフレになってからは減り気味だ。つまり、お金が好きになったから、長期停滞になったとは言いがたい。消費を減らしてお金を貯めるようになったのは、アベノミクスでのことだ。

 「非食料消費が一定」というのは、赤羽隆夫が発見した非常に重要な「法則」である。所得が増えると消費も増え、消費が減ると所得も減るという、マクロでの相互の因果関係を示唆しており、消費はミクロの選好の集積には拠らないことを意味する。すなわち、お金が好きになろうものなら、消費の減退で生産が低下し、設備投資も増えず、結果的に所得が減り、消費の割合は変わらなくなる。

 そして、残差である貯蓄は、長期的な景気変動を表している。高度成長期の好況、オイルショック後の不況、輸出拡大からバブル期の好況、ハシモトデフレ後の不況と、好況での増大と不況での縮小を緩やかに繰り返してきた。貯蓄=投資だから、景気が良い時に投資が増し、相対的に消費が減るのは自然なメカニズムだ。ところが、アベノミクスは、急激な消費の割合の下落という在り得なかった事態をもたらした。

 普通は、消費を減らしつつ、GDPを伸ばすことはできない。消費が弱ければ、設備投資まで伸びなくなるからだ。ただし、外需があれば別である。アベノミクスは、異次元緩和による円安によって、輸出とそれに向けた設備投資を増やすとともに、輸入物価高と消費増税で徹底的に消費を抑圧した。その結果が50年に渡って続いていた「法則」の捻じ曲げだった。これをコロナ禍が、一層、きわ立たせることになる。

(図)


………
 コロナ禍に見舞われた2020年は、世帯主収入がマイナスになる中、10万円給付で実収入を前年比+4.0%と押し上げたが、消費増税の打撃が癒えてない消費支出は、食料以外が軒並み減り、前年から-5.6%も落ちた。続く2021年は、世帯主収入は回復したものの、給付が剥落して、実収入は前年比-0.7%に終わり、他方、消費支出は、前年比+1.2%と多少の戻しにとどまった。こうして、非食料消費の割合は、下落傾向を脱せないままとなったのである。

 ちなみに、消費支出に占める食料の割合であり、貧しさの指標とされるエンゲル係数も、コロナ禍の2020年に急上昇し、2021年は3割足らずしか戻らなかった。ただし、この高まりは、収入が増える一方で、食料以外の消費を減らし、貯蓄を増やしたためなので、単純に貧しくなったのとは違う。収入に対する食料の割合で見ると、昨年と同様の過去最低となっている。本当に貧しくなっていたのは、アベノミクスの前半だった。

………
 実は、「お金を好きになって、長期不況になる」というのは、当たらずとも遠からずのところがある。家計はともかく、企業については、それが言えるからだ。法人企業統計を見ると、デフレになってから、高い営業利益を上げていても、設備投資をあまりしなくなっている。つまり、お金を好きになって、自身で抱えたり、株主に渡したりするようになり、実需に結びつかなくなったのである。

 企業が設備投資をあまりしなくなったのは、国内の消費増が見込めないためだ。いまや、賃金を上げても、3割を社会保険料で取られ、1割を所得税・住民税で、1割を消費税で抜かれる。好循環を回さない構造に改革したのがアベノミクスだった。しかも、勤労者世帯は50%強に過ぎず、年金に頼る無職世帯が35%を占める。税収増を喜ぶばかりで、効果的な再分配を考えない経済運営では、コロナが収まっても、20兆円もの落ち込みを取り戻し、停滞を脱することは難しい。


(今日までの日経)
 住宅高騰、利上げで転機。新たなコロナ「魔のパズル」。金利上昇、世界に広がる。米長期金利上昇、2%台 円安加速、116円台。国際商品、1年で5割高。世界の金利、水没脱出。


コメント    この記事についてブログを書く
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする
« 2/9の日経 | トップ | 2/16の日経 »
最新の画像もっと見る

コメントを投稿

経済」カテゴリの最新記事