経済を良くするって、どうすれば

経済政策と社会保障を考えるコラム


 *人は死せるがゆえに不合理、これを癒すは連帯の志

赤字は悪のドイツ・イデオロギー

2015年08月16日 | 経済
 フランスの人口学者は、随分と影響力があるものだなと、感心しながら読んだのが、エマニュエル・ドット著『ドイツ帝国が世界を破滅させる』だった。均衡財政の下、賃金を切り下げ、輸出主導で成長を果たすドイツ流の経済モデルを手本にせよと言われても、フランスには、はた迷惑なだけで、反発も分からなくはない。

 問題は、貿易黒字を出すには、どこかの国が赤字を出さなければならないので、誰もがドイツにはなれないことである。いわば、ギリシャが赤字を出すから、ドイツが黒字を得られるという具合に、世の中は「不都合」な仕組みになっていて、黒字を「善」とはできない。企業や政府部門が資金を引き受けるから、ほとんどの家計が黒字にできるのとは、訳が違うのである。

………
 通常、ドイツのように輸出主導で成長を果たそうとしても、貿易黒字が増えてくると、自国通貨高になって、抑制が働く。ところが、ユーロのように、域内で固定相場制になっていると、金融が緩和されていれば、自在に輸出ができる。域外に対しても、域内に赤字国があれば、その分だけ通貨高を気にせず、輸出を増やせる。トッド先生がユーロを目の敵にするのも、分かるところだ。

 正しい経済政策は、輸出を拡大して所得を得たら、それで国内消費を増やし、内需向けの投資を刺激して、自立的な成長へと移行せねばならない。この典型が高度成長期の日本である。輸出は、成長の起動力、呼び水として使うべきであり、逆に、スターターに頼り、緊縮財政で所得を吸い上げていると、輸出が止まった途端に景気後退に見舞われる。小泉・安倍政権期からの暗転が正にこれだ。

 トッド先生は、金融資本の支配も批判しておられるが、金融界にとっては、金融緩和と緊縮財政の組み合わせは、資産価格を高めるので、手っ取り早く稼ぐには、好都合である。資産高騰で、格差が大きくなり、国内消費が不足しても、輸出で外国の需要を奪えば良い。ドイツ流のモデルは、悪くない政策であろう。これに関しては、「ピケティに思う」(1/5)で、少し書いたところだ。

 世界で唯一、貿易赤字を垂れ流して平気なのは、米国だけである。借金をしてモノを買っても、ドルを緩やかに減価させれば、債務を軽くできる。機軸通貨を持つ特権であるが、世界に需要を供給する大切な役割も果たしている。本当は、どの国も、黒字は「善」という誤った考えを捨て、内需主導の経済成長を果たすことの方が国民の幸福になると気づくべきなのである。

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 日本では、財政再建の計画が金科玉条になっており、政治家を縛り付けても達成すべきと主張する人も少なくない。しかし、国の借金のウラは、企業の貸金である。企業の余剰資金を計画的かつ半ば強制的に削減せよと言うのと、実態は変わらない。まるで共産主義思想だが、言ってる本人に自覚はない。強引な緊縮財政は、不況を呼び、企業業績を悪化させ、余剰資金を消失させるにもかかわらず。

 むろん、主流派の経済学では、財政赤字を減らすだけで、企業は投資を増やし、経済は均衡することになっているから、理論上はこうだと言って、現実を見ずに済む。実際には、格差や企業部門に資金滞留があるとき、経済の均衡と成長の観点において、財政赤字は「次善」ですらあるが、大衆は、貿易も財政も赤字は「悪」と、家計の常識に訴える者へとなびいてしまう。

 赤字を嫌う「ドイツ・イデオロギー」は、欧州に脅威を与える独自の思想というより、いまだ常識論を超えられない現代の経済政策論の在り様に思える。もし、ドイツ人に独自さがあるとすれば、彼らは経済上の観念に酔えるのに対し、フランス人は自由気ままな生活を楽しむという本音を隠さないところにあるかもしれない。


(今日の日経)
 企業向け火災保険料上げ。人民元ショック、減速に焦り。貯蓄率じわり上昇4-6月期。

※今夏の経済財政白書は、消費増税の反動減が大きかったとする。「反動減」と言われると、いずれ戻る気がするが、実際には、増税のショックで家計の所得がヘタっており、消費低迷は、使わないからではなく、おカネがないからである。確かに、4-6月期の消費性向は低いが、たまたまであろう。しかも、増税前と比較して、特に低いと言うほどでもない。大きな「反動減」を起こしたこと自体が失敗であり、甘く見たことを反省すべきである。

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