経済を良くするって、どうすれば

経済政策と社会保障を考えるコラム


 *人は死せるがゆえに不合理、これを癒すは連帯の志

乱流にある米中日のリアリズム

2016年10月16日 | 経済
 日本のように自国語で豊富な国際ニュースを読めるのは、決して当たり前ではなく、これは全国紙の大きな社会的役割の一つである。100年前、初の政党内閣を実現し、対米協調を確立した宰相原敬は、大阪毎日新聞社長として、国際報道の充実にも力を注いでいる。傑出したリアリストとして、当然の所作だったが、国の将来を誤らぬためには、良質な国際報道と論説は不可欠である。前著で米中日の外交の内実に迫った日経の秋田浩之編集委員が『乱流』を上梓したのだから、これは読まずばなるまい。

………
 『乱流』の1~3章では、米中のせめぎ合いが描かれる。世界第2の経済大国に躍進した中国は、軍備増強に励み、東シナ海と南シナ海を勢力圏にすべく、周辺諸国への圧迫を始める。オバマ政権は、話し合いによって協調体制を築こうとするものの、首脳同士でも解決できないことを悟り、対立路線へと変わっていく。そして、4章で、対抗上、米国が日本との関係を強めようとする姿、5章で、米国の反発に、一旦は軟化する中国の姿が描かれる。その上で、残る6,7章で今後のシナリオが考察される。

 21世紀の中国を考える際には、実は、戦前の日本の経験が役立つ。第一次大戦後、高成長を背景に五大国の一つとなった日本は、原敬の指導の下、シベリア撤兵を進め、中国への干渉をやめ、対米協調路線を取り、ついには、軍備管理を受け入れるまでになった。それは、別段、原敬が平和主義者だったからではなく、国益を守る上で、現実的であったからである。しかし、それは崩れるのも早かった。政党政治は、浜口内閣の緊縮財政による恐慌で民心を失い、手っ取り早く対外戦争で景気を良くする強硬路線に屈してしまうのである。

 そうしてみると、中国に対する基本戦略は、国際協調に具体的利益があることを示しつつ、強硬路線では、それを損なうのみならず、無意味になると明らかにすることだろう。例えば、自由貿易圏へのアクセスや通貨安定へのサポートは、安全保障上の緊張緩和を条件にするといったものだ。逆に、中国は、国内の経済的利権が欲しければ、強硬路線を甘受せよという戦略で来るので、一致して、これに乘らないようにしなければならない。こういう枠組で眺めると、物事が整理され、評価が楽になると思う。

………
 日米同盟がなすべきは、中国が与えるものに釣られず、南シナ海の聖域化のような譲れない対象を明らかにすることだ。また、周辺国に対しては、経済的に中国に頼る必要をなくし、選択の自由を確保してやらなければならない。むろん、中国は、その裏返しの戦略となる。「核心的利益」を強調するのは、そのためである。我々にとってのそれが何かを改めて考える必要があろう。

 軍事的に、今の中国がしていることは、オホーツク海を戦略原潜の聖域として米国へ対抗した旧ソ連の戦略によく似ている。重い経済負担と引き換えに実行されたが、同盟国の日本が大規模な対潜能力の整備に乗り出したために無力化され、国力を疲弊させるだけに終わった。したがって、中国に対しても、軍備増強は、対抗策を生むだけで、骨折り損になることを事前に悟ってもらわなければならない。そうして、軍部の国内での発言力を殺いでいくのである。

 おそらく、日本は、米国に軍備増強を求められるだろう。まずは、空軍力と海軍力だ。また、中距離ミサイル対策に必要となる米軍のアクセスポイントの増加だろう。次の段階としては、敵基地への攻撃能力となる巡行ミサイルの配備になる。こうした構想を示しつつ、粘り強く軍備管理を呼びかけていくべきだ。その先の核戦力については、米国から提供を受けることが考えられるものの、かえって、核抑止力を弱めかねない心配がある。

………
 中国の台頭は、一面で、日本の没落でもある。もし、日本が米国並みに成長し、1990年代後半の対米1/2の水準を維持できていれば、米中日の構図は、違ったものになっていた。いまや、日本は対米1/4であり、対中4割でしかない。せめて、フランス並みに成長し、GDPが実際より15%大きかったなら、周辺国支援や安全保障で取り得る余地は、かなり広いものになっていたはずだ。

 その意味でも、まず日本が取り組むべきは、経済の立て直しである。殊に、輸出に頼らず、内需で好循環を実現し、成長していけることを世界に示さなければならない。こうしたモデルのリーダーとなって、拡大する市場を提供していくことが、迂遠なようで、アジアの平和と繁栄に貢献するだろう。国際協調を利益あるものにし、強硬路線を無意味にしていくには、それがリアリズムというものである。

(図)



(今週の日経)
 大卒内定6年連続増 来春2.8%。雇用保険料の負担軽減を・諮問会議。機械受注、増加の公算 7~9月。補正、はや「3次」の声。街角景気3カ月ぶり悪化。都心の割高感で敬遠・REIT。賞を日本の技術で・レノボ。科学研究がITで変貌。洞察力は学びの素直さ・Gバーニソン。


コメント (2)    この記事についてブログを書く
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする
« 彼我を分けた20年の歳月 | トップ | 消費が動くとき・昔と今 »
最新の画像もっと見る

2 コメント

コメント日が  古い順  |   新しい順
Unknown (Unknown)
2016-10-23 14:55:37
橋本龍太郎がおかしな真似をしなければ今頃名目GDPは1000兆円はあったでしょうね。
返信する
Unknown (Unknown)
2016-12-10 21:16:07
表現ぶりに関し、おかしい所が散見される。文と文の整合性を今一度、確認して欲しい。また、目の付け所は評価できるが、国際政治や安全保障についての知識があまりにも不足していることを実感すべきだ。
返信する

コメントを投稿

経済」カテゴリの最新記事