経済を良くするって、どうすれば

経済政策と社会保障を考えるコラム


 *人は死せるがゆえに不合理、これを癒すは連帯の志

ネバーギブアップの意味論

2012年01月05日 | 経済
 野田首相はチャーチルの言葉を引き、「ネバー、ネバー、ネバー、ネバーギブアップ」と、消費増税への固い決意を表明したが、チャーチルは、金本位制への復帰で、英国経済を苦境に追いやった人でもある。その危険性について、直前にケインズから箴言を受けたときには、手遅れだった。そんな経緯は、ご存知ないだろうがね。

 今日の日経社説は、世代間負担論である。日経の好きな世代間格差は、前にも指摘したように、少子化の幻影で、無意味なものであり、本当の格差は、世代間ではなく、子供の有無にある。詳しい議論は、本コラムの「社会保障」にある、「世代間の不公平を煽るなかれ」や「世代間負担論の到達点」を読んでもらえば良い。

 簡単な例を挙げると、資金循環統計上の一般政府の純債務は約600兆円だから、1人当たりでは480万円になるのだが、少子化で人口が半分になるなら、当然、債務は2倍になるというだけの理屈だ。その処方箋として、減りゆく国民に重税を課すより、少子化を緩和する方が効果的なのは言うまでもない。

 ついでに言うと、日本の対外純資産は約250兆円であり、1人当たりでは200万円になる。これは、スイスのような小国を別とすれば、世界一と言って良いだろう。日本の政府債務は、95%近くが国内消化だから、「借金」といっても、日本人の間での貸し借りに過ぎず、政策課題としても、増税によって、政府と家計の間での資産バランスを回復させる、あるいは、資産家とそうでない人との間のバラツキを均すということでしかない。

 それは確かに、次世代に残される政治的課題なのかもしれないが、「政府」の借金とは言えても、他方で家計の資産にもなっているから、「日本」の借金とは言いがたいものだ。他方で、本当の意味の「日本」の資産である対外純資産については、過去の世代が営々と築き上げてきたものにもかかわらず、こちらについては、世代間の不公平を言う人達は、サッパリ評価してくれない。

 ところで、1/3のJMMの北野一さんの論考は、おもしろかったね。今年の日本経済の最重要課題は、国債暴落への対応だと言うんだな。筆者も、国債金利が1%を割る状況は行き過ぎだと思うし、イタリアの10年債はバブルだろう。ただし、それが弾けるというのは、どういう水準になるということを指すのだろうか。

 イタリアの国債金利が跳ねる前、去年の今頃の水準の1.25%程度なら、国債費は余るくらいだし、2%までは楽に賄える。まあ、日経あたりは、その程度でも、「悪い金利上昇」とか、「国内消化でも不安」と言って騒ぐだろうがね。結局、12/28で指摘した仕組みも知らない人達が大騒ぎをし、その騒ぎ自体に銀行や保険がリスクを感じるようなことにでもなければ、危機にはなり得ないだろう。

 さて、今日の経済教室は、なかなか良かった。青木浩介先生の論考は、やや抽象的だが、筆者が年明けに書いた「膨らんだマネーと政府債務をどう始末するか」という問題意識と共通していると思う。若手の研究者にこういうものを書いてもらうと、うれしいね。青木先生の「重要なのは中長期的な財政スタンスの健全化を投資家に理解させること」というのは、そのとおりである。

 それは、具体的には、日本は金利が上昇しても、十分対応可能な財政の仕組みを備えていることを理解してもらうとともに、成長を阻害しない範囲で徐々に増税を行うことで、着実な財政再建が図れることを国民に示すことであろう。成長によって、9兆円もの税収回復が期待できることも隠すべきではない。

 現実には、日本の財政当局は、利払費を大きめに積んでいることや経済予備費があることの意味を説明せず、財源として隠匿しているし、一気に3%も消費税を上げて、成長に打撃を与える一方、成長による自然増収を捨てる法人減税で、財政に穴を開けるつもりのようだ。ネバーギブアップで押し通すのが、こうしたものであっては意味がない。 

(今日の日経)
 宮城沿岸部に先端農場。海保の領海警備を強化・政府が改正案。めざせ当代@瀋陽。トヨタ・ダイハツ相互供給。社説・ツケではなく活力を未来に残そう。FRBが政策金利見通し公表へ。経済教室・財政の「信」の確保、瀬戸際に・青木浩介。

コメント (1)    この記事についてブログを書く
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする
« 1/4日の日経 | トップ | 1/6の日経 »
最新の画像もっと見る

1 コメント

コメント日が  古い順  |   新しい順
Unknown (ぐりぐりももんが)
2012-01-08 16:20:19
チャ-チルは、give upと言っておりません。実際は、give inです。
このため、引用間違いになり、浅薄な知識を披見した田分け者として、長く日本政治史に残ることになりましょう。
もうひとつ、英語ではinを使うと屈しないの意味になりますが、upだと降参しないとなり、抵抗する度合いの意味合いが弱まります。
言葉狩りをする気はありませんが、日本人ですから日本語を使うべきだったのですよ。
大馬鹿者です。
(RSSリーダーに入れて、拝見させていただくことにしました。よろしく。)
返信する

コメントを投稿

経済」カテゴリの最新記事