経済を良くするって、どうすれば

経済政策と社会保障を考えるコラム


 *人は死せるがゆえに不合理、これを癒すは連帯の心

ケインジアンが読む「そろそろ左派は経済を語ろう」

2018年05月27日 | 経済
 マルキストの経済書を手にするなんて、滅多になくてね。でも、ブレイディ・みかこさんの気風の良さが好きで『そろそろ左派は<経済>を語ろう』を読んでしまったよ。筆者も齢で、まさにオールド・ケインジアンだから、資本主義の擁護者になるわけだが、世の中がどんどん右へ行ってしまい、昔は保守本流のど真ん中にいたのに、いつしか左に位置するようになった。国民のための経済を語らなくなったのは、右派も同じだと思うな。

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 筆者の信条は「経済成長を実現し、福祉国家を建設する」である。これは、高度成長期には、自民党の党是だった。今の世の中は、「経済成長はムリだから、福祉国家を抑制する」になり、果ては、「経済成長のため、福祉国家を圧縮する」なんて倒錯した主張まである。筆者は、経済成長も、少子化克服も政策次第と考えるから、敗北主義にしか思えない。若い人たちが将来を悟って達観するなんて、おかしくないか。

 ポイントは、どうすれば成長させられるかだ。最初の社会主義の経済政策、すなわち、レフト1.0と言うべき産業国有化は失敗だった。明らかな供給不足の状況にあって、生産力増強のため、権力を使って資本と労働を動員すれば済む時代ならともかく、多様なニーズに合わせて供給しなければならなくなると。経営の自由さや柔軟さが不可欠になるからだ。日本なら、国鉄からJRへの改革を思い浮かべたら良い。

 レフト2.0に当たる英国のブレア労働党政権の1997~2007年は、ちょうどバブル景気で欧米が沸いていた時期である。この時期は、景気の波に乗るために、金融の緩和と自由化が進められ、そのために物価の抑制が必要とされた。好景気の中、能力主義に立ち、就労促進型の社会福祉に変えていくのも時宜に合うものである。むろん、調子の良さには、膨らませた債務の後始末を、バブル後に負わねばならないという代償が伴っていた。

 それで、レフト3.0である。課題は、金融緩和と緊縮財政に、規制改革の組み合わせでバブルを発生させた新自由主義の経済政策の代案を作ることだ。バブル後は、過剰な設備と建設の投資が残っているので、極端な金融緩和をしても、なかなか効き目が出ない。あとは、輸出に活路を見出すことだが、バブル後が世界的だと、通貨安競争になって空回りする。結局、財政出動をして、過剰投資の傷が癒えるのを気長に待つほかない。

 ところが、財政出動が長引くと、財政赤字の累積に余計な不安を持つ人が現れる。そして、傷が癒えないうちに財政を退き、不況を長引かせてしまうのである。バブルの後始末で国が負債を肩代わりした上、緊縮財政で苦しめられることへの抵抗が現在の反緊縮運動の原点と言える。時期尚早の失敗は、大恐慌の米国、1997年の日本、そして、リーマン後と、幾度も繰り返されてきた歴史的愚行で、特別なものではない。

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 新自由主義の経済政策は、とにかく企業や投資家に甘くする。金利を下げ、法人税を低くし、補助金を出し、規制を緩めれば、投資するはずと説く。ところが、現実には、そんな追加的利潤より、需要リスクに強く支配されているため、大甘政策に、緊縮財政を組み合わせると、まったく効果が出ない。多少、マシになるのは、輸出に恵まれた時に限られる。1997年以来、20年を失った日本は、その証明である。

 どうすれば良いかは簡単で、成長が回復するまで財政を退くのを待ち、物価と賃金がある程度の水準に達してからにすることだ。成長が回復し、人手不足になり、賃金が上がって初めて、労働者に分配がなされる。それは、消費増から物価高となり、金融緩和ができなくなるということでもある。こうして、経済は正常化する。あとは、国債の利払いに備え、利子配当課税を強化し、インフレが進んだら、すかさず消費増税で冷やせば良い。

 実は、こうした経済政策に新しさはない。半世紀も前のオールド・ケインジアンのものだからである。違いは、投資は需要リスクに支配されることへの透徹さだけだ。安定的な需要管理によって、投資できる環境を整え、規制改革とは似て非なる競争促進で投資を刺激する。不況時の金融緩和は、「ヒモで押す」ものでしかなく、それで物価を上げられるなんて、机上の空論に過ぎぬことは、トウの昔に分かっていた話だ。

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 アベノミクスは、登場時の2013年に、金融緩和で極端な円高を是正し、財政出動で景気を好転させた。その後の消費増税は失敗だったが、責任の半分は、路線を決めた民主党政権にある。これに懲り、ずるずると緊縮をしつつも、消費増税を先送りし続けたことが選挙での大衆的人気と今の景気回復へつながった。憲法や安保に関心が薄く、政治の信義より目の前の暮らしという人々にとっては、こんな「反緊縮」で十分なのだろう。むしろ、問題は、他には緊縮をしそうな政治家ばかりであり、野党と言えば、地べたの人のための反緊縮でまとまれず、ハイポリティクスでの離合集散に忙しいことかもしれない。

 経済を語り始めたばかりのようで、『そろ左派』に具体策は見られないが、そこはブレイディ・みかこさんの務めではあるまい。「反緊縮」と言っても、消費増税の先送りくらいなら、現政権がカードとして使って来ることは容易に予想がつく。これを超えたければ、魅力ある社会保障でも考えてはどうか。第二次世界大戦に勝利したチャーチルから、労働党が政権を奪えたのは、ビバレッジ報告があればこそだろう。保守を自任してきた筆者が、地べたの人たちのための策を編むようになるとは、思えば遠くに来たものだが、本コラムで財源付きの策を示しているように、リアリストたらんことに変わりはない。左派のみならず、右派までが「改革」と称する空論を弄ぶようになったことが、この国の衰退の元に思えてならない。


(今日までの日経)
 外食に広がる値上げ。中国EV規模で優位。バイト時給 上昇続く。中国の隠れた引き締め。大機・無謬性の原則と全体主義。夏ボーナス4.62%増・本社中間集計、非製造業20年ぶり高水準の賃上げ。
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