2007年に書いた「萩往還250km完踏記」があった。この年は250kmに参加した7名全員が完踏。後にも先にも完踏率100%はこの年だけです。完踏記のサブタイトルは「ミラクルK」。
***** 「ミラクルK」 *****(2007年5月8日作成)
5月2日午後4時半、仲間の車2台に11人が分乗して香山公園に着いた。さっそく受付をして駐車場横で着替え・食事をして、荷物を預けてスタートに並んだ。15分前から選手のチェックが始まったが、運よく1番スタートに入れた。
午後6時、恒例の会長小野さんの「エイエイオー」の掛け声とともにスタート。天気もよく、ほどよい風がふく絶好のマラニック日和り。
10kmあたりで2番スタートのKさんが追いついてきた。とても調子がよく足が自然に速く動くそうである。Kさんはさらにスピードを上げ、なんと先頭グループと一緒に先に行ってしまった。昨年はペースの遅い人と一緒に走って失敗したので、今回は最初から飛ばすつもりだなと思ったが、ちょっと無謀である。
20kmあたりでうしろから声がした。なんとKさんだった。先に行っているとばかり思っていたが、先頭グループについて行けなくなったそうである。当たり前である。ペース配分を考えない走りがKさんの特徴かもしれないが、先はまだ長い、一緒に行くことを勧めた。
ところが、Kさんは足の調子がいいのか走るスピードが速い。私もつられてハイスピードで走ることになった。各地点の到着時間が前年より少しずつ早くなってきた。午前1時に豊田湖(57km)に着いたが記帳簿を見ると100番以内だった。こんなに早くここに着いたのは初めてである・・・先が心配になってきた
最初のチェックポイント俵島(97km)に着いたのは午前7時。Kさんは昨年は10時ごろに着いたそうである。3時間も早く着いたことに喜ばれてか、水を飲んだ後チェックカードにチェックをしないで行こうとしたので注意した・・・目が離せない人である
ここからしばらくは折り返しコースなので仲間に会える。みんな昨年より時間が早いようだ。やはり気候のせいで走りやすいのだろう。
千畳敷(125km)に正午に着いた。もやがかかってすばらしい日本海の景色は見られなかった。風が強く早々に退散してふもとの中学生のエイドで休んだ。ここで信じられないような話をKさんから聞いた。
昨年は一緒にいた人が道を間違え、この中学生のエイドは通らなかったそうである(急坂を下りて右に行ったとのこと?信じられません)。さらに仙崎から宗頭までも道を間違え6時間近くのタイムロスをして宗頭に午前4時に着いたそうである(これも信じられません)。一緒にいた人は途中でリタイヤされ、一人で宗頭に着いたということなのだが、開いた口が閉じません。
本当にそんなことが起こりうるのだろうか。方向音痴のKさんではないと体験できない話だと納得したが・・・あきれた
仙崎に午後3時半に着いた。ここでKさんが急に遅れだした。足にまめができたそうでスピードが出せなくなっていた。30分ほどの差ができてしまった。ここで悩んだ。30分待つか、分かれて行くか。
青海島の途中ですれ違った際「私は先に行きます。宗頭で会ったらまた一緒に行きましょう」と言ってわかれた。しかし、Kさんの走る姿を見て、おそらくこれでもうゴールまで会うことはないだろうと感じた。
ところが、仙崎にもどり少し休んで宗頭に行こうとした時、後ろ髪を引っ張られるような「めまい」を感じた。ヤバイと思い、仙崎のチェックポイントエイドで横になった。しかし10分してもめまいは取れなかった。結局30分休んでやっと立てるようになり再スタートすることにした。
・・・その時である。うしろから「ちょっと待って!」という声。なんとKさんが必死にこちらへ走ってこられた。あきらめていなかったのだ。ひょっとしてKさんの執念が「先に行くな」「待ってちょうだい」と私を引き止めていたのではなかろうか。そう考えないとあまりにも偶然すぎる。
しかし、Kさんを宗頭まで連れていけることになりホッとした。私も疲れていたし、Kさんの足を休ませるために、宗頭までゆっくり歩いた。
午後9時半、宗頭(176km)文化センターに着いた。Kさんは昨年より6時間も早く着いたことに余裕の笑顔がみられた。午後11時15分に出発するように約束して、私はすぐ着替えて二階で寝た。
1時間後、目を覚ましたが起きた瞬間・・・スーッと顔から血の気が引いた。ヤバイと思ってすぐまた横になったが、いつまでも横になってはおられない。約束の時間までに玄関に下りらなければならない。一人なら止めてしまうところだが、一緒に行こうと約束した以上なんとしてもと思い、気合いを入れてなんとか立てた。壁に手をそえて、ゆっくり階段を下りた・・・Kさんのおかげでリタイヤせずに済んだ
休憩室をのぞくとKさんがいた。まったく寝ていないそうだが、とても元気。足の処置をしてもらっていたので、のぞいてみるとビックリ!両足裏には10個近いまめ、まめ、まめ。血まめもある。よくこんな足でここまで来たものだ。
玄関に立ったKさんの姿は悲惨だった。中腰で脚は「がにまた」、ゆっくりしか歩けない状態である。これではゴールは無理だなと、心ひそかに思った。
藤井商店に着くと数人のグループと一緒になり、これからの山道を楽しく行くことができた。しかし、鎖峠からの下りはみなさん走り出したため、次第に離れていった。Kさんにも走ってもらいたかったが、Kさんの姿を見てそれは・・・・言えなかった
ところが、ここでまたKミラクルが起こった。
Kさんが足をひきづりながら下りを走り出したのである。私はだまってうしろについて走った。よくみると足を上にあげない競歩のような走り方である。これならゴールに間に合うかもと、少し希望の光が見えてきた。
三見駅に着くと、さっき先にいったグループがいた。先の道がわからないということで私達を待っていたそうである。結局また一緒になって萩まで行くことなった・・・これもKミラクルではないかと思うようになった。とにかく、Kさんの都合のいいように、周囲のものごとが運ぶ。
幽霊道を歩いていると、Kさんが杖をついていた。「どこかでひらったの」「道の脇に刺してあたので抜いてきた」とのこと。よくみると杖に白い布が巻いてある。なんとこれは墓に刺してあったもの。すぐに元にもどしたが・・Kさんは何をするかわからない
虎ヶ崎(204km)に午前6時半に着いた。昨年、足腰を痛めた人がここからゴールまで12時間かかっている。これを考えると残り11時間半しかないので、今の歩き方では制限時間内でのゴールは難しい。Kさんにそのことを言うと・・・ムッとした表情になり急に、虎ヶ崎の帰り道の坂を走り始めた。
「国道に出てから走りましょう」と言ったが、聞く耳持たず・・走りを止めなかった。それどころか、国道に出ても走り続け、なんと東光寺から萩の有料道路のエイドまで走り続けた。
足にいっぱいマメができて、200km過ぎたところで15kmも走り続けられるだろうか。私も必死に追いかけたが追いつかない。それどころかだんだん離れていき、とうとう見えなくなってしまった・・・私は唖然とした
今までの腰を曲げ、足を引きづっていた姿は何だったんだろう。どこからあのパワーが出るのだろう。Kさんのすごさが初めてわかった・・・これが最期に見た「Kミラクル」だった
45時間で私はゴールした。そこに笑顔のKさんがいた。10分前にゴールされたそうである。昨年のリベンジができておめでとうございます。私も30分短縮できたし、途中でリタイヤも回避できたし、自分もKミラクルに助けてもらった。
今年の萩はいろいろサプライズがあり楽しかったが、Kさんと一緒に行くと疲れる・・・・