産経新聞2023/9/9 10:00
私は子供の頃、宇宙開発や飛行機の開発に憧れていました。1970年の大阪万博は、そんな少年時代の自分にとって夢と衝撃に満ちあふれた体験でした。当時11歳。もしあの時、万博に連れて行ってもらわなかったら。私は今の創作活動に就いてはいなかったとさえ思います。その後もSFやロボット、最新のテクノロジーなどにのめり込み、新たな発見や創作の手がかりを求めて世界中を旅したり、創作活動を続けたりしていきました。
そして86年のある日、中国の奥地の村で衝撃的な出会いをしました。テレビも電気もない村の子供たちの瞳はいまだかつて見たことのない輝きを放っていたのです。それは人類の子供たちが〝いきもの〟だったのだとはじめて実感した瞬間でもありました。
今まで自分は最先端のテクノロジーを追いかけるばかりで、世界の半分を見落としていたのではないのか? そんな感情に突き動かされ、その後は進んだテクノロジーに頼らずに、何万年も何億年も、いのちをつないでいる先住民族や、野生動物たちの元へと赴きました。彼らが持つ野生の輝きと、最先端テクノロジーが共存できる未来のビジョンを夢見て。
それから三十数年後。2025年大阪・関西万博のテーマ事業プロデューサーのお話をいただいた時に真っ先に思い浮かんだのは、テレビや電気のないところの子供たちの瞳の輝きや、激しくも美しい野生動物たちのいのちの輝きでした。万博のメインテーマは「いのち輝く未来社会のデザイン」ですが、実はいのちはいつでも、今も輝いていて、ただそれを感じるチカラが現代人の多くは衰えてしまっているのではないのか?
それが世界各地の少数民族や先住民、野生動物や多種多様な生態系の元を訪ねて得た私の実感です。進んだテクノロジーに頼ることのできなかった彼らは、その代わりに五感やさまざまな微細な感覚を発達させ、その豊かな感受性によって危険を察知したり、安全な食べ物を見つけたり、生態系の流れや営みとひとつながりになったりして、いのちの輝きを実感していたのではないかと思うのです。
そこで、もし先住民族や野生動物たちが持っている豊かな感受性を、最先端テクノロジーのチカラを借りてさらに増幅し、体感的に伝えることができたら、いのちの輝きを感じる全く新しいエンターテインメントが生み出せるのではないのか?
それが、今回の私やスタッフたちの挑戦です。拡張された感覚で、今、この宇宙•海洋・大地に広がるいのちを見たら、いったい何を感じるのか? 大阪・関西万博で、ご体感いただけると幸いです。(大阪・関西万博テーマ事業プロデューサー 河森正治)
かわもり・しょうじ アニメーション監督、企画、原作、脚本、映像・舞台演出、メカニックデザインなどを手がけるビジョンクリエーター。慶応大在学中、テレビアニメ『超時空要塞マクロス』に原作者の一人として携わり、そこに登場する三段変形メカ『バルキリー』のデザインも担当。23歳の若さで『マクロス』の劇場作品監督に抜擢される。代表作に『マクロス』シリーズ、『アクエリオン』シリーズなど。
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