構成・斎藤雅史 会員限定記事
北海道新聞2024年5月12日 10:03(5月12日 12:05更新)
■4月20日、白老アイヌ協会、一般社団法人アイヌ力主催の講演「先住民族 アイヌの権利について」から
十勝管内浦幌町のアイヌ民族団体「ラポロアイヌネイション」(旧浦幌アイヌ協会)が国や道に対し、地元の川でサケ漁を行う権利の確認を求める訴訟で原告弁護団長を務めました。4月18日の札幌地裁判決は原告の請求を棄却しましたが、裁判では先住民族に固有の権利である「先住権」について争いました。
先住権と聞いて何を思い浮かべますか。一般的には、川でサケを捕ったり、山で採取したり土地や自然資源を利用する権利を指します。では、先祖代々白老に住むアイヌ民族の個人が、釧路の山で木を切る権利があると言えるでしょうか。結論から言うとありません。それは先住権がアイヌの個人ではなく、コタン(村落)に属する集団の権利だからです。
アイヌ民族の個人と集団の権利は、分けて考える必要があります。日本政府は、個人としてのアイヌは、和人と全く平等で権利に違いはないと考えています。だから、民族を理由に就職差別があれば、憲法違反として是正する義務が政府にはあります。一方、集団の権利は認めていません。権利主体であるコタンという集団は存在しないと考えているからです。
でも、よく考えてください。約150年前まで存在していたコタンを消滅させたのは誰でしょう。当時の明治政府は、北海道の土地を官有とし、その後自由な漁や伝統的な生活を禁止し、コタンの生活に壊滅的な影響を与えました。
江戸時代まで、アイヌ民族の人たちはコタンという集団で暮らしていました。2~十数戸で成り立ち、周辺の海や森に一定の支配領域を持っていました。自らの慣習に従った行為が、アイヌ民族の集団の権利です。今問われるのは、昔のコタンが持っていた集団の権利を、各地のアイヌ協会に所属するような人たちも持っているのではないか、ということです。
札幌地裁判決はプラス面とマイナス面があります。
プラス面は、憲法13条に基づく文化享有権を「集団」に認めた点です。これは国の見解と真っ向から反対する画期的な判断です。(アイヌ民族を初めて先住民族と認めた1997年の)二風谷ダム訴訟の札幌地裁判決は原告個人に対して文化享有権を認めたことと比べると、踏み込んだ判断です。
マイナス面は、財産権を理由に請求を棄却したことです。原告はエンジン付きの船でサケを自由に捕り、加工して売りたいと主張しました。しかし、伝統的な漁法の伝承や知識の普及を超える財産的側面、つまり経済活動だとして退けられました。文化は伝統儀式の伝承など狭い範囲に限り、生業としての活動は認めませんでした。
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