武内敦貴 、石井純大 、斎藤雅史 有料記事
北海道新聞2024年5月23日 21:58
アイヌ民族を法律で初めて「先住民族」と位置づけ、差別禁止や地域振興のための交付金制度を定めたアイヌ施策推進法(アイヌ新法)の施行から、24日で5年を迎える。同法の付則では、5年経過した段階で必要であれば見直すとしており、東胆振・日高地域のアイヌ民族関係者からは政策の拡充や抜本的な見直しを求める声が上がった。
新法は第1条で、アイヌ民族の誇りの尊重と共生社会の実現を目的に掲げた。白老町在住で2004~20年に北海道アイヌ協会の理事長を務めた加藤忠さん(85)は「伝統衣装に袖を通すのをためらう人もいた20年前と比べ、今はアイヌ民族であることに誇りを持ち、いろいろな場所で伝統衣装で踊る人が増えた。そうした催しを通じアイヌ文化の認知度も広まっており、良い方向に向かっている」と受け止める。
民族共生象徴空間(ウポポイ、白老町)の開設を主導した菅義偉前首相と比べ、岸田文雄政権はアイヌ政策への関心の低さも指摘される。加藤さんは「(岸田氏は)アイヌの人たちと一緒に政策を進めようとの姿勢は伝わるが、何をやりたいのかが見えてこない」とした上で「アイヌ民族を取り巻く問題は一気に解決しない。アイヌ協会と国といった具合に、さまざまな段階での対話と交流を大切にしながら、1歩ずつ進んでほしい」と望んだ。
■罰則規定が必要
新法の柱の一つは差別の禁止(第4条)だ。ただ罰則はなく、実効性を疑問視する声は根強い。例えば法務局が昨年、アイヌ民族への人権侵犯があったと認定した自民党の杉田水脈(みお)衆院議員=比例中国ブロック=は、今も交流サイト(SNS)を中心に差別的発言を繰り返し発信している。
杉田発言に対する抗議集会を札幌で開いてきた「平取アイヌ遺骨を考える会」共同代表の木村二三夫さん(75)は「(杉田氏の)支持者は『アイヌは先住民族でない』といった妄言を繰り返している。ネット上での発言も含め、差別を取り締まる罰則のある法整備が必要だ」と強調する。
15日に東京の衆院議員会館で開かれたアイヌ新法の見直しを求める集会で、木村さんは国内外の研究者に持ち出されたアイヌ民族の遺骨の返還や、差別の問題を訴えた。主催者側が全国会議員に案内を出したが、与党議員は1人も来なかったという。「そもそも聞く耳を持たないのは、侮辱も甚だしい。アイヌ民族の声を聞いたふりをして、やり過ごしてきた政府の姿勢が現れている」と憤り、幅広い民族の訴えに真摯(しんし)に耳を傾けるべきだと主張した。
■生まれる地域差
新法の制定で、自治体がアイヌ文化の継承や地域振興に関する事業計画を策定し、国の認定を受けると支給されるアイヌ政策推進交付金が創設された。24年度当初の交付額は全国38市町が対象で18億7270万円。このうち東胆振・日高の11市町に7億4320億円が交付され、観光プロモーションや生活館の改修などに活用される。
「アイヌ全体が底上げされるのではなく、地域差が生まれている。和人のための新しい公共事業になっていないか」と指摘するのは、浦河町のアイヌ民族の歴史や文化を学ぶ有志の団体「レヘイサム」代表の八重樫志仁さん(61)だ。
1984年に北海道ウタリ協会(当時)が独自に決議した法律案には、・・・・・・
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