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描けない財政再建シナリオ ‐ 民主主義国家という制度の危機

2010-12-22 14:14:35 | 国際・政治

収まらない欧州危機

欧州の財政危機が一向に収まらない。今朝の日本経済新聞はトップでポルトガルやアイルランド、スペインなど財政赤字に陥った国の信用度を示す格付け引き下げの圧力が高まっており、日本を含む先進国への波及の恐れがあると伝えた。ギリシャやアイルランドの格付けは既に投機的にまで引き下げられている。欧州は何故これほどに手こずっているのか。

米国のサブプライムに端を発した世界同時金融危機は多くの国を危機に陥れた。国家は国境があって独立した政治主体があるが、金融システムは世界中がネットワークで結ばれ一体となって国家に襲いかかりそこに住む人達は傷ついている。経済的結合度は高いが政治は国ごとに独立している、このギャップが最も大きいのが欧州であり危機が長引いている原因である。

危機に瀕して政府は金融システム救済策を打ったが、結果から見ると危機を金融機関から政府に移したことになった。危機を回避できれば非常時の対応として良しとすべきだと納税者の一人として同意する。だが、EU小国の財政悪化は政府も国民も負担と痛みに耐えられず小手先の対策で問題先送りを続けてきた。彼らが最も嫌がる「日本化」が進み、欧州版「失われた10年」に陥る可能性が高まっているというEU高官の発言は現実味がある。

実際のところ、国の経済規模を上回るグローバル金融機関を持つ国をメンバーに含むEUとなると事情は複雑だ。ユーロの危機はギリシャの放漫財政やアイルランドの不動産バブル崩壊など小国の財政危機から始まって、健全だが危機耐力のないポルトガル等へ危機が波及、欧州金融システムに連鎖し危機の規模を拡大させる性格を持っている。

財政赤字が大きくこれと言った経済的強みのない大国フランス国債の保証料(CDS)が過去最高水準に上昇したと報じられ、安閑としておられない情勢だ。頼れるのはドイツだけと言う事態になってきた。実は欧州のソブリン危機はユーロ安をもたらし、ドイツの輸出産業を潤す関係にあるから複雑だ。そのドイツが支援をためらう姿勢を見せるのだから市場は不安を感じても止むを得ない。

波及を恐れる日米

一方日米の状況を見ると10年物国債の利回りは、日本1%台、米国3%台で落着いた動きを見せており、今のところ格下げの動きはない。だが、それだからといって安心できない。欧州危機はまだ力強さの無い回復を続ける日米の足元をすくう恐れがある。

まず日本は何時までたっても財政赤字を脱する道筋が見えてこない。来年度予算案は税収増3兆円を見込み埋蔵金7兆円と合わせても、依然としてプライマリーバランスの赤字が23兆円に達すると報じられた。格付け会社S&Pは日本の社会保障費がこのまま増加すれば2015年以降BBB、2025年までに投機的水準のBBに下がる可能性を公にしている。(日本経済新聞)

一方で、米国はアフガン・イラク戦争の軍事費とサブプライム以来の住宅・自動車・金融機関等の救済と景気浮揚策に加え、先週合意されたブッシュ減税延長決定がもたらす財政悪化が国論を割る深刻な問題として浮上している。

先月来米国のメディアを賑わしていたのは、差し押さえられた住宅が競売にかけられ銀行がバランスシートから不良債権をなくすため強引な投売りをしたものだから、強い反発を受け一時競売がストップした事件だ。国民の税金を使って蘇生した銀行の振る舞いは「忘恩の徒」(大前研一氏)呼ばわりされても言い開きできないだろう。この事件のポイントは差し押さえ住宅が1000万戸もあることで、不良債権処理が終るのは遠い先でそれまでリーマンショックの傷が癒えないことだ。

このような状況で、民主党ボウルズ氏と共和党シンプソン元上院議員が、オバマ政権が設けた「財政再建のための超党派委員会」の共同議長として、先月10日に財政再建策私案を公表した。その内容は強烈で、防衛費や社会保障など聖域無き歳出削減と売上税の導入により、2020年度までに財政赤字を38000億ドル(約310兆円)削減するもので議会は強く反発した。

問われるのは民主主義国家という制度

この私案に対し民主党のペロシ下院議長は何一つ賛成できないと猛烈に批判し、共和党も納税者保護の選挙公約違反である決め付けた。だがこの過激な試案でも財政再建策は必ずしも万全とは言えないという。私の不安は民主主義の政治システムの中で、一旦手に入れた社会保障などの既得権益を国民は手放すことが出来るかという問いかけだ。どこか一国でもやれるだろうか。

最初このエッセイを書こうと思った時、ブッシュ減税の延長が決まり今後注目されるに違いない「米国財政再建のシナリオ」の題名をイメージして資料を集めようとした。だが、手元に集まった関連資料が示すトレンドを一言で表現すると、問われているのは「民主主義国家という制度」の危機である。

日本はともかく、米国やEU諸国の強いと見られているリーダーシップが国民の批判や選挙に苦戦し、妥協に追い込まれ問題先送りせざるを得ない状況が見られる。日本だけではない。多分もっと深刻と感じるのは、国是となっている民主主義的な価値判断やプロセスを妥協する事態が起こっていることである。

先のノーベル平和賞受賞における中国の反発と恫喝外交とそれに同調する国がかなりあったことは端的な例である。それらの国は非民主主義な政治政体か、経済的に圧倒的な存在感の中国との関係を悪化させないための判断であった。今朝のニュースでも中国は欧州危機に支援するとの報道が流れた。それは関係の変化を生み出す。

現在のEUのように国が生きるか死ぬかとなれば、中国にへつらうように見える事例はこの後益々増えるだろう。ノールウェイが中国の恫喝に一歩も退かなかったのは希薄な経済関係も理由の一つであった。だが既に中国と抜き差しならない経済関係にある国が、民主主義のステップを踏んで行く政治プロセスで長い時間をかけないと財政改革や経済回復が進まない時、果たしていつまで我慢できるだろうか。問われているのは民主主義国とそこに住む国民だと思う。■

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