マニフェストの三つの根本的な問題
27日に発表された衆院選のマニフェストが結党以来の話題になっている。もちろん、総選挙後鳩山代表の首班指名の可能性が高いからだ。政権をとった場合のことを考え、マニフェストは現実的な内容に見直されたと見られている。公約の修正は非難すべきではなく、従来の政局狙いの反対の為の反対の立場を修正することであり、現実的な選択しとしてむしろ好ましい。
国民にとって現実的な選択肢を複数持つことは歓迎すべきことである。だが、民主党のマニフェストは社会保障に偏りすぎており、与党が指摘し大方のメディアが報じる三つの問題は適切な指摘だ。即ち、安全保章と財源が曖昧で、成長戦略が無く国としての骨格を成していない。
三つの問題より大事な政策決定プロセス
だが、私は民主党のマニフェストは当座の国家戦略としては悪くないと考える。消えた年金や官僚の天下りと公共事業の税金無駄使い、誰の目にも明らかな無責任体質が一向に改善されず何年も放置されてきたのを見て、国民の多くは自民党政治に「救いようの無い不信感」を持った。何を約束しようと自民では実行できない、民主にやらせたいと国民は考えている。
民主党は従来の官主導から政治主導で政権公約を実行することを明らかにした。現在の日本の政治を人間の身体に喩えれば、「血税」の総量が縮小した今は心臓をパワーアップしどこに血を流すか決める前に、血管に詰まった老廃物を洗い流し血管サラサラにして、血を体の隅々まで届けようという考えだ。
具体的には、マニフェストが主張する政策決定プロセスの見直し(国家戦略局と閣僚委員会など)である。何をやるにも、現在の官主導の政策決定では、政策が一人一人の国民に届く頃には当初の狙いとは全く異なった、公共事業や公務員宿舎に化けてしまうからである。
私は、政策決定プロセスを選挙の争点にすべきで、その視点から民主党のマニフェストを支持する。手間がかかっても、先ずプロセスを見直さなければ全ての政策は生かされない。
その先にある根本的な問題
さて、政策決定プロセスが政治主導に見直されたら直ちにやらねばならないことがある。それが冒頭に指摘した三つの根本的問題である。財源の問題は新政策決定プロセスがきちんと機能するようになれば、それ程時間を置かず明らかになる。そこで歳入と歳出をテーブルの上において、国民が納得する考え方で配分と不足分の手当て(借金)を決めれば良い。
自民党や財界が懸念しメディアが報じるように、民主党のマニフェストには経済を活性化して、再び日本の経済を成長させるアイデアが不足している。幾ら政策決定プロセスを透明化して無駄を省いても、税収は増えなければ配分を減らすしかない。しかし、今度は国民の選択に基づいた決定と納得するだろう。
「縮小均衡」は誰も望まない
民主党マニフェストの発想は、稼ぎは少ないが公平に分けるから、皆我慢してくれというものだ。「貧しくとも清く正しく美しい国」を作ろうというものだ。これを続けるといわゆる我が国の「縮小均衡」が避けられない。社会保障が整備されれば国民が安心し消費が伸び内需が回復するという鳩山代表の主張は、世間知らずというか余りに安易過ぎる。
私は、これでは国民は我慢できないと思う。実はそれは国民の選択であり、選択の責任を負わねばならない。しかし、我が国のメディアが主導する民意はまだそれ程成熟していないと思う。現状は私流に言えば民主党のマニフェストは、「通り抜けなければいけないトンネルだが、抜けた先にあるのは中流国への下り坂」のシナリオを国民に提供するもので、国民はいつかその現実に気が付く。その時期は2年後で、その時もう一度総選挙をやるべきと考える。
民意の知恵は二段階アプローチ
今回の選挙はとりあえず政策決定プロセスを変えるトンネルを通り抜ける為のもので、次の段階でいよいよ国の姿を決める決断、例えば「大きい政府か小さい政府の選択」、をすればよいと私は思う。選挙民の多くは意図しているかどうか分からないが、一旦民主党にやらせてみようと考えているので、結果的に二段階の選択を考えていることになると思う。
最後に民主党が政権を取った場合、気になることが三つある。
(1)マニフェストで主張しているように官僚を使いこなせるか。自民等も改革を言い続けたが、三代続いた政権はむしろ改革を後退させた。
(2)既得権益を代弁し、地元利益誘導に熱心な民主党議員にも数多くおり、総論賛成各論反対を許せば最後に第二自民党になるだけ。
(3)日米安保や安全保障など基本的な国のあり方について、国民の1%にも支持が満たない政党と妥協する事があれば、果たして民意を反映したことになるのか。
特に最後の懸念事項について私は注目していきたい。■