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政府系ファンドの衝撃

2008-03-02 23:10:24 | 国際・政治

今話題の政府系ファンドについてわからないことだらけだが、現時点での私の理解を紹介したい。

表舞台に出た政府系ファンド

昨年までグローバル金融界での主役はヘッジファンド(HF)とプライベート・エクイティ(PE)であった。ところが昨年後半サブプライム問題が高じて欧米の大手銀行が巨額の損失を公表し信用不安の恐れが出てきた時から、政府系ファンドが表舞台に出て主役を張るようになってきた。

政府系ファンドはSWFSovereign Wealth Fund)といわれ、中東湾岸諸国のオイルマネーから、中国などの貿易黒字国、シンガポールやノルウェーなど民主主義国家まで一様ではない。実は突然表舞台に登場したわけではなく90年代から存在し、現在約40存在するという。[1]

最初に注目されたのは昨年5月に中国がブラックストーンという世界的買収ファンドに投資したのがきっかけだった。その後サブプライム問題で巨額の損失を出したシティバンク、USB、メリルリンチ等のメガバンクに政府系ファンドが投資して一気に注目されるようになった。

急膨張する政府系ファンド

IMFによると世界のSWFは総額3兆ドルに迫り、ヘッジファンドの1.5兆ドルを遥かに凌ぐ規模に成長し、グローバル金融システムに大きな影響力を持つようになった。[2]今後政府系ファンドは更に成長速度を早めていくものと予想されている。 

資産総額トップ20のうち8つが過去5年に設立され、そのうち6つが中国や産油国を初めとするアジアの国々が競って政府系ファンドを設立してきた。2015年には10-15兆ドル規模になると見られており、IMFも2012年に資産額が12兆ドルに拡大すると予想している。

政府系ファンドの7つの特徴

政府系ファンドの概略次のような特徴を持っている。(高野真氏 日本経済新聞)
1)国家により運営管理されている
2
)長期投資を前提とする
3
)自国資産への投資ではなくグローバル投資である
4)リスク許容度が高い
5)レバレッジ投資を行わない

端的に言えば手堅い秘密主義というところだろう。それでは何故政府系ファンドがグローバル金融危機の救世主として無条件で両手を広げて歓迎されず、警戒の目を向けられているのだろうか。

何故警戒されるのか

最大の懸念はヘッジファンドや機関投資家が投資リターンの最大化を求めるのに対し、政府系ファンドが政治的目的を追求する可能性又は疑いがあることである。政府系ファンドの運用が不透明であり公開されないので、今までの説明ではこの疑惑を拭い去れていない。

前出の高野氏は以上の特徴から必然的に生じる懸念材料として以下の4点をあげている。
1.保護主義の台頭
2.政府という市場管理者が市場参加者になることによる利益相反
3.市場に与えるマーケットインパクト
4.情報開示の不足による市場変動性の増加

世界はどう見ているか

日本経済新聞によると、EUは政府系ファンドに資産内容の開示や投資目的の説明責任を課すという。具体的には投資活動に「行動規範」を定め、違反すれば、ファンドが投資先企業の経営権を握れないように介入する方針という。IMFに国際的な投資基準の策定を要請、日米などとも連携し、ファンドに透明性の確保を求める構えという。

これについて米国がどうなのか私の知る限り珍しく明確ではない。先日NHKBS1の緊急特別番組と称して世界の金融関係者が出席したサブプライム危機に関する討論会で、前NY連銀議長は言を左右して明確に答えず態度を留保したように私には聞こえた。

ダボス会議で表立って懸念を表明したのはサマーズ元財務長官だけだったという。一方、ブラックストーンCEOは最近になって突然政府系ファンドの脅威などとマスコミが騒いで困惑していると述べたと報じられている。今迄のところ政府系ファンドの投資は「功」のほうが大きいと私は感じる。

アジアの政府系ファンド

アジアの政府系ファンドは5000億ドルを超え、世界の政府系ファンドの1/4に迫る規模という。その資金源は急増する外貨準備だという。2007年末のアジア主要10カ国・地域の外貨準備高 は約2.9兆ドルと5年間で約3倍になった。その大半が中国の増加によるものである。

アジア諸国の外貨準備高急増の理由は、①貿易競争力の維持: ドル買い為替介入の結果溜め込まれたドルと、②通貨危機対応: アジア通貨危機の教訓として急激な資本国外流出に対応可能な外貨準備が指摘されている。(日系BP2/28

日系政府ファンドは

先月29日竹中教授はニューヨークで日本も政府系ファンドを立ち上げ世界の金融センターになれと講演したと報じられている。自民党の国家戦略本部も設立の是非を検討する専門プロジェクトチームを設置し、世界第2位の巨額の外貨準備(公的資産)を有効に活用すべきと主張している。

一方財務省は例によって慎重な姿勢を崩していない。報道によれば財務省の篠原尚之財務官は外貨準備の運用方針について「原則は安全と流動性」と述べ、高リスクの運用を柱とする政府系ファンドの導入に消極的な見解を示したという。

その理屈として「公的運用機関の新設が、市場機能を重視して政府の役割を縮小する現在の日本の方針に沿うか吟味する必要」があり、中国などの新興国とは事情が異なるという。巨額の財政赤字考えると外準も純粋な資産とはいえないという見方を示したという。いずれにしても遠い先のことのようだ。

私見

日本が政府系ファンドを実際に立ち上げるとしたら今なら世界金融へのインパクトは極めて大きいだろうが、常に後追いをしてきた日本政府が今度に限って出来るはずが無い。やるとしても遠い将来、しかも官僚的体質を残しての成功は覚束ないだろう。果たして日本の政府系ファンドが巨額の報酬で優秀な海外人材を雇って成果を挙げる仕組みを作れるだろうか。私は悲観的だ。

最後にアジア各国で「政府系ファンドのモデル」と見なされているシンガポールの例を紹介する(日系BP2/24)。 成功の理由は海外人材の登用による抜群のパフォーマンスである。テマセク、GIC両ファンドの設立以来約30年の平均投資利回りは、テマセクが約18%、GIC9.5%(米ドルベース)と高い運用成績を維持しているという。

テマセクは約300人のスタッフのうち3割以上を中国、香港、カナダ、インドなど外国人が占めている。幹部クラスの給与は「トップクラス」の企業の給与水準を参考に決定している。報酬は公表されていないが、民間のトップ企業と遜色のない水準(数億円)と推測されている。■


[1] アブダビやシンガポールの政府ファンドは70年代に設立されている。

[2] 規模的には年金基金が圧倒的に巨大で、政府系ファンドはその5%程度。

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