夏が終わり張り切って材料を仕入れたが、実は読み応えのある本は本棚の奥の方にしまってそっとしておいた。私には気合を入れないと読めない本がある。そういう本は精読しないと理解できず、精読すると疲れて根が続かないのだ。そういう時は息抜きの本を読むのだが、今回はそういう本の仕入れがうまくいかなかったせいにしておこう。
今回のお勧めは「パラサイト・シングルの時代」と「構造改革の先を読む」である。両書は全く違う分野であるが、着眼点がよくともに高いレベルでデータを分析して解釈し、優れた洞察力で自説を展開しているところに共通するものがある。
ハウツー物
(2.0)日本語練習帳 大野晋 1999 岩波新書 言葉は文化であると感じさせてくれる。特に後半の敬語の語源を辿ると大和言葉は遠近関係、漢語は上下関係から来ていると言うのは面白い。因みに練習問題の私の成績はB、縮約(要約のこと)を続けるともっと日本語力がつくという。
(評価なし)Writing Power 2002 Kaplan 英論文作成の基本を学ぶ参考書だが、上記書物と対比のために列記した。目的が違う本だとしても、本書は自分の意図を相手に伝える為やるべき手順を網羅し実用的で、英語が日本語の情緒的表現に比べ論理的と感じた。
(評価なし)Math Power 2003 Kaplan 微積分・関数論等が無く数論・線形代数・ユークリッド幾何までカバーされており、日本の数学レベルに比べると遥かに低いが記述は日本の教科書より分り易い。普段使わない数学用語の勉強をしたが中々覚えられない。これは別の問題。
(1.5-)図で考える人は仕事が出来る 久恒啓一 日本経済新聞 文章を読んで図を浮かぶのは理解を助け、コミュニケーションを良くし、創造的にするというのは合意、でもそれだけなら10ページで十分。
政治経済
(1.5)利権はこうしてつくられる 板垣英憲 1991 KKベストブックス 金丸信氏が絶頂時代に書かれた。要約すると新産業は全て利権のタネになる、しかし切り込み不足。
(2.0+)誰がケインズを殺したか WCビブン 1990 日本経済新聞 本の結論は「殺されてない、今も元気」と付け加えたい。期待した劇的な転換がなく物足りない。既に15年前マネタリストに対する失望があったという。失われた10年間、偽ケインジアンが跋扈し深刻な財政赤字になった今も、ケインジアン的発想が闊歩する日本の感覚は本書と同じ次元では語れない。
(2.0+)迷うマネー 2003 日本経済新聞 竹中蔵相が不良債権に大鉈を振る直前状況ライブ版。個人マネーがリスクを避けて金庫に向かう一方、ゼロ金利に嫌気をさし海外に向かい両極化。ゼロ金利は短期金融市場(銀行間取引)を衰弱させ、企業はキャッシュフロー以内に投資を抑え資金需要が冷え込み、金融機関は国債に向かう。当時の専門家の意見が金融政策から財政出動まで一致している訳ではなかったのが不思議だ。まだ記憶が生々しく読み物として面白い。
(2.0)格付けはなぜ下がるのか 松田千恵子 2002 日経BP 株主向けと債権者向けのIRは違うことを初めて知った。信用リスクの解説とリスク管理から見た日本の金融システムの歴史は説得力がある。後半実例の紹介は当たり障りの無い内容と前半の繰り返しで尻すぼみ。
(2.5)構造改革の先を読む Rフェルドマン 2005 東洋経済 時代におもねる本かと思ったが、筆者の論理的なアプローチ、特に前半部の日本経済の分析は説得力がある。著者はアナリストだからしょうがないのだが、優れたマクロ経済の分析がミクロ政策に繋がらないのは残念。
ジャーナリズム・社会
(2.0)日本経済新聞は信用できるか 東谷暁 2004 PHP 観測記事の癖があり、「もう」を「まだ」と言い換えるのが読み取るコツだそうだ。私のアメリカかぶれより筋金入りなのが日本のメディアに共通する症状。根拠の無い根無し草で熱狂的中国ファンとの指摘はその通り。振り返ると私は同社の刊行物ばかり読んでいるが、他に選択はなく海外ニュースで補間するしかない。
(1.5+)ジャーナリストの作法 1998 田勢康弘 日本経済新聞 ハウツー物と思ったら自慢話的自伝、読み進むと舌鋒鋭く的確な指導者評価。米国勤務経験で自己確立されたと感じる。上記東谷氏指摘通り逆三角形の基本を外してる。全編分り易い言葉で通しているのは流石プロ。
(3.0)パラサイト・シングルの時代 山田昌弘 1999 筑摩書房 事実(データ)を基にした分析の積み重ねで問題の本質を解き明かしていくスタイルには説得力がある。格差社会、少子化などに共通する問題指摘は鋭く、考えていくベースを与えてくれる。随分評判になった本らしいが、今までこの手の本を避けてきた。読んでみるとそう悪くない。
(2.0)地球環境報告 石弘之 1988 岩波新書 20年近く前の最も深刻な環境問題は後進国及び途上国の人口増に伴う自然破壊と食糧問題だった。この頃の指摘が何も解決せず、新たに温暖化が大問題化したことを思うと救いようのない愚かさを感じる。
経営
(0.5)トヨタ式 2005 日本経済新聞 材料は悪くないがメッセージがない、合成の誤謬の典型。
(1.5)クアルコムの野望 稲川哲浩 2006 日経BP 携帯ビジネス関係の親戚から頂き読んだ。典型的冠本。専門用語が良く分からないが携帯電話販売戦争を巡る技術とビジネスの最新状況が分かり意外と楽しめる。
フィクション
(1.0+)おじいさんの思い出 Tカポーテ 1988 文芸春秋 子供部屋で見つけて読んだ。村上春樹訳。評価は文学的なものではなく私の功利的な基準で。30年前死んだ父のことを思い出した。■