語られる言葉の河へ

2010年1月29日開設
大岡昇平、佐藤優、読書

【中国】政府から独立している軍隊 ~尖閣をめぐる軍事的問題~

2013年05月22日 | 社会
 (1)人民解放軍(総兵力230万人)の最大の特徴は、国家の軍隊ではなく党の軍隊であることだ。共産党軍事部門が、中華人民共和国の国防を担当している。
 よって、解放軍の「第一の役割は、共産党の執政党としての地位を強固にするための力の保証を提供することだ」(胡錦濤の演説、2004年)。
 天安門事件(1989年)で、解放軍は自国民を武力弾圧した。独裁が揺らぎそうになった共産党の命令による。この事件は、解放軍にとってトラウマとなった。

 (2)解放軍の頂点には、党中央軍事委員会、国会中央軍事委員会が君臨する。いずれも習近平が主席を務める。ただし、実権を握っているのは党中央軍事委員会だ。習近平以外のメンバーは、上将クラスの軍人で、ナンバー2の李克強・国務院総理も入っていない。総理は、大規模災害などの例外を除き、軍隊に対する命令権は有しない。
 トップセブン(党中央政治局常務委員)に、劉華清・海軍上将の退任(1997年)以降、軍人は入っていない。一段下の政治局委員25名中、軍出身者は2名。しかし、その下の中央委員会委員205名中2割が軍出身者だ。中央委員会はトップセブンを選出する。隠然たる影響力は無視できない。
 中国の指導者は、中央へ上がる前に地方の省のトップを務める。地方のリーダーをやりながら、軍隊との付き合い方を学ぶ。各省軍区委員会第一書記は省党委員会書記が兼務する。軍からすれば良好な関係の人間を支援したい意識があってもおかしくはない。政治に対する解放軍の影響力は、見えない部分において間違いなくある。

 (3)解放軍の国軍化、軍の政治的「中立化」を党と軍指導部は恐れている。天安門事件においてすら、命令を拒否した指揮官が存在した。中国が生きるか死ぬかの事態になったら、軍は国民の軍隊たることを選ぶかもしれない。

 (4)近年、特に2000年以降、国防や安全保障の概念が拡大してきた。その一部として、海洋権益の擁護が含まれるようになった。
 かつて解放軍の活動領域は、基本的に中国本土だけに限られていた。海軍の活動も中国近海のみだった。ところが、近年、新型の艦船や補給艦を持ち、西太平洋で積極的に訓練している。これを何回も行う能力がある。日米としては注目せざるを得ない。
 今年1月、東シナ海で中国のフリゲート艦が海上自衛隊の護衛艦に射撃用レーダーを照射する事件があった。党中央の「海洋権益を断固として守る姿勢を日本に示せ」のごときい一般的な命令を現場が解釈した結果だ。2010年に中国海軍の船が沖縄を通って西太平洋に出たとき、監視していた海上自衛隊の護衛艦に中国のヘリが異常接近した事案が2回あった。これらの行為が危ない、という国際的感覚を、中国海軍の現場はまだ持ち合わせていない。
 中国政府は、結局、軍の行動を追認した。ただし、その後、同様のケースは一度も起こっていない。
 解放軍は、政府の命令系統に入っていないので、党中央が政府と中央軍事委員会に同じ方針を打ち出しても、末端組織に行くと政府とは別の行動に出る可能性がある。これは危ない。突発的に起こる衝突事案では、危機管理をミスすると、エスカレートする可能性がある。

 (5)フィリピンは、中国海軍に南沙諸島を奪われた。
 尖閣諸島の接続水域に、解放軍の艦船が入ったことは一度もない。しばしば領海に侵入するのは、政府に属する国家海洋局などの船だ。ところが、中国国内の報道では、昨年2回も西太平洋で演習を終えた解放軍の艦船が尖閣諸島を通って帰ってきた、と宣伝している。これは国民向けだ。実際には尖閣諸島の接続水域に近づかない。日本の防衛力による抑止が効いているからだ。

 (6)解放軍の能力は、近年どんどん高まっている。特に海軍、空軍、戦略ミサイル部隊の能力は、この10年格段に向上した。F-15やF-2に匹敵する第4世代戦闘機、近代的な水上艦艇や潜水艦など、自国で生産できるようになった。
 特にAWACSに当たるKJ-2000(早期警戒管制機)を中国が整備し始めたのは、日本にとって脅威だ。今後中国がKJ-2000などを自主開発できるようになれば、日本の優位性はどんどん薄れていく。

 (7)尖閣諸島に日本が先に海上自衛隊を出すのはとても危険だ。出せば、中国はすかさず海軍を出す。そして、「先に絵を出したのは日本だ」と国際世論にアピールする。たちまち、尖閣は紛争地帯となる。中国の思うツボだ。いま実効支配しているのは日本だ。これまでどおり、海上保安庁が粛々と法執行すればよい。
 今後、日本が単独で中国と向き合うのはますます難しくなっていく。日米同盟を基軸として、韓国、東南アジア諸国、オーストラリア、印度などとの関係を強化し、有利な国際環境を作りながら、中国との対話、交渉に臨む必要がある。

□語り手:杉浦康之(防衛省防衛研究所教官)/聞き手:江上剛「軍事 人民解放軍が叛乱を起こす日 ~中国 知られざる異形の帝国~」(「文藝春秋」、013年6月号)

 【参考】
【中国】外交と国内問題との関係 ~今後の展望~
【中国】改善されない環境問題 ~大気汚染・水質汚染・食品汚染~
【中国】恐るべき階級社会 ~農村戸籍と都市戸籍~
【中国】5大リスク ~不衛生・格差・バブル崩壊・少子高齢化・軍の暴走~
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