語られる言葉の河へ

2010年1月29日開設
大岡昇平、佐藤優、読書

【イラク】独立へ加速するクルディスタン地域

2014年07月28日 | 社会
 イラクでは1か月ほど前からイスラム過激派組織が猛威をふるい、モスルなど主要都市をいくつも占拠した。
 イラク政府は首都防衛と各都市の奪還に向けて民兵を動員、戦時体制に突入している。

 宗派間対立が激化して内戦が再来し、「イラクはバラバラになるのでは」との懸念が高まる中、争乱に直接巻き込まれていないクルド人たちが、イラクからの“分裂”に向けて動き出している。
 クルディスタン地域(イラク北部の自治区)を率いるバルザー二大統領は、7月1日の英BBCのインタビューで述べた。「独立はクルディスタンの権利だ。もはやわれわれのゴールを隠さない。イラクはもう分裂してしまった」
 そして、今後数ヶ月以内にクルディスタンの独立を問う住民投票を行うと明言した。
 従来の公式姿勢(連邦制度のもとで自治区としてイラク国家に留まる)から一歩踏み出す発言だった。

 クルディスタンが事実上の自治区になって、すでに20年以上経つ。湾岸戦争(1991年)終結直後、国内の民衆蜂起を鎮圧したものの、余力を失ったフセイン政権は北部の統治を諦め、経済封鎖するとともに軍を撤退させた。
 6月半ばに組閣が完了したばかりの「クルディスタン地域政府(自治政府)」は、1992年から数えて第8期目の内閣だ。独自の議会や軍隊を備え、「国旗」も「国歌」も持つ。公式の会議では、イラク国歌と併せて2曲演奏されるのが通常となった。

 2003年にフセイン政権が崩壊した後、クルディスタンはイラクにおける正式な自治区として憲法で認められた。
 しかし、イラク中央政府との間では未解決の問題が山積みする。
 最たる問題は、石油資源だ。地域政府と中央政府と、どちらが自治区内の石油を開発、生産、輸出するかで揉めているのだ。
 地域政府・・・・独自に国際石油企業と契約を結び、油田開発に着手し、トルコ向けに建設したパイプラインで輸出することを目論む。
 中央政府・・・・今年初めから予算停止(制裁措置)。
 財源を依存する危険性をあらためて認識した地方政府は、ますます独自の石油輸出に固執。ついに6月、イスラエルに買い手を見つけて石油輸出収入を手にするに至った。

 もう一つの難問が、係争地問題だ。
 現在のクルディスタンの境界は、1991年に旧政権が軍を撤退させたラインを基本としている。クルド人が歴史的に自分たちの土地と考える場所の多くが“自治区外”となった。クルド人迫害の象徴的な場所キルクーク「クルドのエルサレム」)もその一つ。
 イラク戦争後、中央政府との交渉で土地の帰属を決めることになっていたが、いまだ解決の目処すら立っていない。
 そのため、係争地にはクルド軍もイラク軍も展開し、時に一触即発の事態も発生していた。

 そこに起こったのが、今回の争乱だ。過激派の攻撃でイラク軍が撤退する中、クルド軍は次々に「クルドの土地」へ進軍。漁夫の利を得る形で係争地のほとんどを占領してしまった(キルクークを含む)。
 この結果、クルドは長い前線を挟んで過激派と対峙することになっている。クルド軍と過激派との間で散発的な戦闘も続いている。それでも、地域政府の前首相から普通の市民まで、クルドはもう撤退しない」。

 地域政府のネチルヴァン首相は、昨年末、国際会議のスピーチで、18万人が殺されたと言われる26年前の旧政権によるクルド人虐殺事件に触れ、「もはやほかの誰かに自分たちの運命を決めさせることはできない」と強調。中央政府に対する強い不満と不信が、イラク戦争後の新たな政治体制でも解消されなかったことが、彼らの独立の動きの背景にあるのだ。

 独立には国際社会からの承認が不可欠だ。国境線の変更は他国へも波及しかねないセンシティブな問題であり、現時点で支持している国はほとんどない。
 クルディスタン独自の石油輸出収入は、まだ微々たるもので、独立後の未来が今より7良くなる保証はない。
 独立に対する国内外からの反発が高まれば、方針転換を余儀なくされる可能性が十分にある。
 それでも、イラクの混迷が深まる今、グルディスタンは独立国家への新しい道を模索し始めている。

□吉岡明子「独立へ加速するクルディスタン地域 ~イラクを取り巻き激動する中東は今~」(「週刊金曜日」2014年7月18日号)
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