語られる言葉の河へ

2010年1月29日開設
大岡昇平、佐藤優、読書

【イラク】「イスラム国」が支配地域を拡大 ~制圧されたファルージャ~

2014年07月29日 | 社会
 「イスラム国(IS)」の前身「イラクとシャームのイスラム国(ISIS)」によって6月に北部モスルが陥落してから大きく報道されるようになったが、ISISはすでに1月にイラク西部のアンバール州ファルージャを制圧していた。
 以下は、4月から1か月間のイラク現地の模様である。

 政府軍はファルージャを包囲し、空爆と砲撃を連日繰り返している。住民のほとんどは避難しているが、一部市内に残っている一般市民が犠牲になっている。ファルージャ病院には1月から7月1日までに死者503人、負傷者1,766人が運び込まれた。
 多い日には20人以上の負傷者が病院に運び込まれる。病院も爆撃を受けて死傷者が出ている。

 首都バグダッドからファルージャまで70kmほどだが、途中に軍の検問が10か所ほどあり、現地人以外の通行は許されていない。軍事作戦地域の検問所は、近づくだけで身柄拘束の危険がある。
 ファルージャ市内にはISISがいて、取材者を受け入れていない。見つかれば処刑される。

 ISISの支配地域では、イスラム法に基づく独自の法廷が開かれている。
 かつて「イラクの聖域アルカイダ機構」と名乗っていたISISは、日本人旅行者の香田証生を殺害したほか、市民の集まる市場を爆破したり、敵対者を処刑したため、2006年以降、米軍と手を組んだ地元部族から攻撃を受けて一時衰退した。
 こうした経験から学習したのか、住民との接し方を変えたが、住民は「連中がやってきたことはみな知っている。いずれ本性を現すと思っている」。
 ISISへの支持が広がっているわけでもないらしい。

 ISISが舞い戻った背景に、スンニー派住民の政府への不満がある。マリキ政権が「テロリスト」と疑ったスンニー派住民を次々と拘束し、拷問を加えているとしてスンニー派の多いアンバール州では2012年からは反政府デモが展開されていた。
 政府軍はこれに発砲し、死傷者を出したうえに、昨年末にデモ隊のテント村を強制排除。地元部族と軍・警察との間に衝突が起き、事態を収拾しようとした軍がファルージャから撤収した隙にISISが入り込んだ。一部の地元部族のほか、旧サダム政権時代の軍人らが参加している。組織だった攻撃を受けた警察・軍は装備を置いて遁走した。
 軍の中に協力者がいて、武器を横流ししているらしい。

 政府軍は地上部隊を送り込んで制圧を試みるものの、激しい抵抗を受けて被害が拡大している。4月までに6,000人が死亡し、12,000人が脱走した。
 結局遠距離砲撃、高高度からの空爆を繰り返し、無差別攻撃となって市民に死傷者を出して、さらに抵抗を受けるという悪循環になっている。

 一般市民に被害を出していることを知って脱走する兵士も多いほか、武器弾薬の補給が十分でなく、士気が著しく低い。モスル陥落でも司令官や兵士が脱走している。治安組織がまともに機能していない実態が露呈した。
 北部のモスルを陥落させたISISは、中部のティクリートも支配下に治め、西からはバグダッドの南側へ回り込むように進出してきている。
 シーア派兵士1,700人を処刑した、といった報道もある。シーア派民兵組織に続々と志願者が集まっている。軍では心許ない、ということもあろう。民兵は検問を素通りして最前線に向かっている。
 シーア派と混在する地域からスンニー派地域へと避難する住民も増えている。ISISだけでなく、シーア派民兵による住民襲撃を恐れているからだ。

□安田純平「「イスラム国」が支配地域を拡大 制圧されたファルージャをゆく ~イラクを取り巻き激動する中東は今~」(「週刊金曜日」2014年7月18日号)
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