語られる言葉の河へ

2010年1月29日開設
大岡昇平、佐藤優、読書

【中国】5大リスク ~不衛生・格差・バブル崩壊・少子高齢化・軍の暴走~

2013年05月09日 | 社会
(1)貧困と衛生状態の悪さ
 鳥インフル発生、感染拡大はいまの中国を象徴している。生きている鳥を売買する後進性と不衛生。販売されていた鳥からウィルスが発見されても市場を閉鎖せず、一部しか消毒しないいい加減さ。
 日本的健康保険制度が整備されていないから、庶民は医療費を払えない。重症になるまで医療機関に行けず、治療が手遅れになる。重症で入院した患者は、高額の医療費に頭を抱える。新規患者を早期発見できない。多数の潜在患者が疑われる。所得格差拡大が、新型感染症の拡大を招く。
 感染を地元の新聞が報道するようになると、報道管制が行われる。政府のコントロールが効く通信社、新華社の記事だけを掲載するよう、中国共産党が指示する。
 2003年、中国で大流行した重症急性呼吸器症候群(SARS)の感染拡大を政府が隠蔽したため被害が拡大し、300人以上が死亡した。江沢民から胡錦濤に交代した直後のことで、新体制が大きく揺さぶられた。
 今回、3月の全国人民代表者大会で国家主席が胡錦濤から習近平に替わった。体制が替わると大きな試練が立ちはだかる。待ったなしの課題が山積みしているのだ。
 課題の第一は、公害と食の安全性だ。
 今年3月、新型鳥インフルが感染拡大する上海を流れる黄浦江の上流で、1万頭の豚の死骸が見つかった。浙江省の養豚業者が不法投棄した。当局は、「水質に影響はない」」とさっさと安全宣言した。
 3月下旬、四川省の川で1、000羽のアヒルの死骸が発見された。当局はこれも、「水質に影響はない」で済ませた。
 この冬、PM2.5が問題になった。直径2μm以下の粒子状物質の総称だが、呼吸器系疾患や肺癌の危険性が高まるので問題になった。
 2010年に中国国内で大気汚染で健康を損なって死亡した人は、1,234,000人に及び、中国における死者の15%を占める。
 経済成長を優先したため、健康被害が広がっている。公害反対運動は弾圧されるから、対策は進まない。

(2)格差拡大が社会不安を助長
 格差は縮まるどころか広がるばかりだ。(a)「都市と農村」、(b)「東部と西部」、(c)「富裕層と貧困」(もっとも深刻な格差)が3大格差だ。
 (a)中国の経済発展は1972年に小平が打ち出した「先富論」に端を発するが、上海などの沿岸部がまず発展して豊かになったものの、農村部は発展から取り残された。
 中国建国当初に毛沢東が定めた制度では、都市と農村では戸籍が異なり、後者から前者に移動できない。都市に出稼ぎに行っても定住できず、都市で子どもが生まれても都市戸籍は与えられない。子どもの教育は戸籍のある農村で受けさせるしかない。これは重大な差別で、住民の不満が高まっている。
 (b)東部・沿岸部(上海など)が発展する一方、西部・内陸部(チベット自治区・新疆ウィグル自治区など)の発展が立ち後れている。他方、四川省などでは遅ればせながら発展し始めている。東部・沿岸部の発展により地価・労賃が高くなったため内陸部へ工場を移転させる企業が増え、働き場所が増えてきたからだ。
 (c)中国には、手のつけようのない腐敗・汚職が蔓延し、これが極端な富裕層を生んでいる。学校教師に対する付け届けから、公有地使用権を販売する段階での賄賂まで、公務員の権力濫用、私腹肥やしが後を絶たない。昨年までの5年間における公務員汚職の立件は218,639人。その前の5年間から4%増えている。摘発されない汚職はもっと大量にある。汚職できる権限をもつ幹部公務員の多くは共産党員で、共産党員を警察や検察は摘発できない。警察や検察のトップにある共産党員は、自分たちに不利になる捜査はしたがらない。
 共産党中央規律検査委員会が「除名」して、はじめて警察も検察も捜査できるようになる。
 共産党員など権力者ばかりが特権を享受し、所得格差は広がるばかり。メディアは、共産党に都合の悪いことは報道せず、チェック機能がない。
 中国のネット人口は5億人を超える。中国版ツイッター「徴博」(ウェイボー)ユーザーが急増している。権力者の不正などの情報はネットを通じてあっという間に拡散し、デモや抗議集会の呼びかけに大勢が集まるようになった。当局はサイバーポリスを動員して当局に不都合な書き込みを削除しているが、追いつかない。
 社会の風通しが悪いと、ガスが充満し、小さな火花で大爆発を起こす。

(3)バブル崩壊で成長に翳り
 3月、全国人民代表大会で、習近平・新指導部は2013年の経済成長目標を実質7.5%に設定した。中国としては低い数値だ。
 従来、最低8%の経済成長を維持する政策(「保八」)をとっていた。「保八」でないと、学校を新規に卒業して就職しようとする若者の雇用を確保できなかった。その目標を掲げられなくなったのは、中国経済がバブル崩壊過程に入ったことを意味する。中国経済は不動産取引による土地バブルが高度成長を支えてきた。それが限界に達したのだ。
 中国経済のバブル化は、リーマン・ショックがきっかけだ。米国発の不況に対処するため、4兆元(≒57兆円)の内需拡大策を打ち出し、景気対策を進めた。世界経済の落ち込みを下支えする効果があったが、中国国内ではバブルを惹起した。殊に上海、北京、重慶などの大都市で不動産価格が暴騰。庶民さえ住宅ローンを借りられれば、分譲マンションを購入し、価格が上がったところで転売。あるいは、高騰した土地を新たな担保にして新規融資を受け、不動産投資を続けることで、地価がさらに上昇した。
 中国国内の金融機関による新規融資額は9兆5,900億元(2009年)。当時のGDPの4分の1にも達した。無茶な融資がバブルを惹起したのだ。
 地価の上昇は地上げをもたらした。各地で無理な土地開発が進み、土地を追い出される人たちが相次いだ。
 中国では土地は「人民のもの」=国のもの。どう使うかは「人民の代表」が決める。つまり、地方政府の役人が勝手に使用権を売って利益を上げた。地方政府は、民衆から土地の使用権を安く買い上げ、企業に高値で販売する。差額が地方政府に入る。地方政府自ら「土地ころがし」をした。この金額は中国のGDPに参入される。中国のGDP増大には、こうしたカラクリもあった。
 当然、住民は反対し、争議が絶えなかったが、大部分は泣き寝入りした。
 バブルの背景には、中国の外国為替管理の問題も潜む。人民元を意図的に安く据え置いているのだ。中国人民銀行が慎重に管理し、人民元高にならないようにしている。ドルを人民元に交換しようとする需要を抑制するには、供給を増やせばよい。人民元の札をどんどん刷ってドルと交換すればよい。中国は、このようにして人民元を低くして輸出攻勢をかけてきた。
 しかし、この方法は大きな副作用を伴う。商品の供給量が同じで、カネだけ増えたらインフレになる。溢れたカネは有利な投資先を探す。中国の場合は不動産だった。かくて、不動産バブルが起きた。
 バブル防止のためには人民元が高くなるのを容認すればよいのだが、輸出への悪影響を恐れて踏み切れなかった。人民元をコントロールしようとしている限り、今後も中国はバブルやインフレに悩まされる。バブルは何時かははじける。

(4)労働者の減少
 中国沿岸部の外資系工場では、労働者のストライキが頻発している。賃金引き上げ、労働条件改善を求めているのだ。
 労働力不足になってくると、経営者は強気に出られない。労働者のほうが強気に出る。いまや、こういう状況なのだ。
 中国は、急激な少子高齢化が進み、15~59歳の生産年齢人口は、遂に去年から減少に転じた。中国の前途は明るくない。
 発展途上国が急激に工業化を進めると、膨大な労働人口が農村から都会へ入ってくる。農村の人口が減って、都会を中心に工業部門の人口が増えていく。これ以上の労働力の移転が無理となれば、人手不足が起き、労働力確保のため人件費が上がり始める。労働力が確保できず、人件費が上がり始めた段階で、その国は高度成長が続けられず、転換期を迎える。そのターニングポイントが「ルイスの転換点」だ。いま中国は「ルイスの転換点」に達した、と目される。
 この原因は、「一人っ子政策」のツケだ。
 生産性が低く、食糧不足に悩まされた1970年代、「一人っ子政策」が実施された。これは今も続き、出生率が低下して少子化となり、社会全体の高齢者の割合が高まる高齢化社会となった。
 人権無視の政策によって、中国の経済成長は今後急ブレーキがかかる。

(5)軍の暴走
 1月30日、東シナ海で、中国海軍のフリゲート艦が、海上自衛隊の護衛艦「ゆうだち」に対して、火器管制用レーダーを照射した。火器管制用レーダーは、攻撃目標に狙いを定めるための装置で、レーダーを照射された段階で自衛のための攻撃が国際法上認められている。ことほど左様に危険な行為を中国軍は仕出かした。
 中国人民解放軍の暴走であった。
 中国人民解放軍は、国家ではなく党に帰属する。かつて小平は元軍人として軍ににらみをきかせたが、いまの共産党幹部は文民で、軍の制服組をコントロールできていない。
 危険なことだ。軍にしてみれば、尖閣諸島問題など、周辺諸国との緊張関係を創り出せば軍事予算を増やすことができる。軍は、緊張を作り出すことが、自分たちの利益になる集団だ。その軍の増長を抑制できるか。

(6)チャイナリスクへの対応策
 (a)公害対策には、日本の経験と技術が役立つ。
 (b)バブル崩壊と労働力不足には、中国以外の地域への工場進出、市場開拓を進める。
 (c)軍の暴走を抑制するには、日本が確認した中国軍の暴走・独走を公表し、中国政府にコントロールさせるよう仕向ける。

□池上彰「日中大激突! 今知るべき5つのチャイナリスク」(「週刊文春」2013年5月2・9日ゴールディンウィーク特集号)

 【参考】
【食】中国産鶏肉の危険(2) ~有機塩素・残留ホルモン~
【食】日本マクドナルドが輸入する中国産鶏肉の危険 ~抗生物質~
【食】中国産食材は大丈夫か? 日本の外食産業は?
【食】【TPP】原産地表示の抜け道 ~食のグローバル化~
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