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語られる言葉の河へ

2010年1月29日開設
大岡昇平、佐藤優、読書

【中国】影の銀行つぶし ~アベノミクスの行方を左右する中国の政策~

2013年07月28日 | 社会
 (1)李克強・中国首相の経済政策を指すニックネーム「リコノミクス」が急速に普及している。
 リコノミクスは、次のの3本柱から成る。
  (a)刺激策はしない。
  (b)レバリッジ(借り入れを伴う高利回り投資)からの脱却。
  (c)構造改革。
 狙いは、バブルが崩壊しかけている中国経済の建て直しだ。
 2008年のリーマン・ショックを皮切りに世界金融危機が巻き起こった際、中国政府は4兆元(当時のレートで57兆円)の巨額を投じて景気刺激を実施し、景気を短期間で回復させることに成功した。しかし、その「後遺症」は深刻化する一方だ。
 産業構造がいびつになり、造船・セメント・板ガラスなどの産業で生産量が過剰になった。地方政府が設立した第三セクター「融資平台」による公共工事が膨張し、不動産価格が高騰した。李首相は、経済成長を犠牲にしてでも経済構造を改革しようとしている。

 (2)リコノミクスの影響は、中国経済にはっきりと及び始めた。
 6月、上海銀行間取引金利(SHIBOR)が2度にわたり過去最高に跳ね上がり、上海証券取引所の株価が暴落。
 7月5日、民間造船最大手「中国溶盛重工集団」(江蘇省)は資金繰りが悪化し、政府に支援を求めたことを発表。
 7月19日、中国人民銀行(中央銀行)は市中銀行の貸出金利を自由化すると電撃的に発表。
 ・・・・と、世界のメディアが報じる大ニュースが立て続けに発生している。
 危機が差し迫っていた2008年以来、中国政府が刺激策を採らなければ2,000人以上の労働者が失業すると想定された。今は状況が全く異なる。有効求人倍率は1年以上1倍超で、失業者増を心配しなくて済む。
 要するに、リコノミクスは人民に「痛み」を伴う改革なのだ。
 李首相は、「中国が先進国に仲間入りするためには、発展途上国体質の改革が急務」という危機意識を強く持っている。途上国体質の代表例は、ヤミ金融(シャドーバンキング)だ。それを撲滅しようとしている。

 (3)シャドーバンキングとは、その英語の原意は「ノンバンク」に近く、銀行を介さない金融業務のことだ。ヘッジファンドはその一例だ。
 中国のシャドーバンキングの中心をなすのは、①「理財商品」と②「委託貸し付け」だ。
 中国で資金需要が最も多いのは、中小企業と不動産関連プロジェクトだ。銀行は、事実上、融資できない。政府が厳格に定める預金準備率や貸出金利が妨げになるからだ。そこで考案されたのが①と②というわけだ。
 ①は、金融商品の一種で、投資家から集めた資金を中小企業や不動産開発プロジェクトなどに振り向け、リターンを投資家に還元する仕組みだ。
 ②は、政府が債務保証するため信用力が高い国有企業が銀行から融資を得て、それを信用力の低い他社に又貸しする仕組みだ。
 ちなみに、①は日本ではあまり普及していない私募ファンドのようなものだ。銀行の預金金利だと年2.5%ほどしか得られないのに対し、①は年5~6%の利回りになることが多いため人気がある。
 本来、銀行は融資できない企業に、①を介した投資の形態で資金を回す。銀行業管理委員会(金融庁)によれば、投資額は2009年から8倍に膨れ上がり、3月末現在、8兆2,000億元(130兆円)に達した。 
 最近では競争が激しくなり、2桁台の利回りを標榜して実態が不明朗なプロジェクトに投資するものが増えている。投資先が倒産するなどして投資家に資金が戻らないケースが数件報じられている(実際にはもっと多く発生)。

 (4)(3)-①の決算期は6月末に集中する。投資家に戻す資金が大量に必要になる。
 銀行もノンバンクも資金を得ようとコール市場で調達したが、ふだんの資金需要が多い時期と異なり、人民銀行が資金を放出しなかった。そこでSHIBORが過去最高に急騰してしまった。中国人民銀行が資金を供給しなかったのは、今まで黙認してきた①を減らすためとみられる。
 (1)-(b)が発動されたのだ。
 SHIBOR急騰のショックは、たちまち上海株を暴落させ、余波は世界に拡散した。
 不安覚めやらぬ7月5日、香港証券取引所に上場する「中国溶盛重工集団」は資金繰りが悪化して政府・銀行に支援を求めていることを発表した。
 しかし、国務院は同日、次のような内容の「指導意見」を発表した。
 <盲目的な投資が生産能力の過剰を悪化させることを防止するため、生産能力過剰が深刻な業種、規則に反する建設プロジェクトに対し、いかなる形式でも新規信用供与または直接融資することを厳禁する>
 中国政府は、鉄鋼、非鉄金属、セメント、自動車、平板ガラス、造船、風力発電、太陽光パネルなどを「過剰業種」に指定している。
 政府は、「中国溶盛重工集団」を始めとする造船会社を過剰業種に指定し、これまでも銀行融資を厳しく制限してきた。世界的な需要減に直面する中、何らかの手段で資金を得ていたはずだ。(3)-①か②かは不明だが、シャドーバンキングを使って資金調達していた可能性がある。(3)-①の解約が増えたことで資金繰りが悪化したのかもしれない。

 (5)シャドーバンキングの総額がどれぐらいの規模になるか、不明だ。欧米金融各社は35兆元(560兆円)前後の数字をあげている。
 中国の銀行融資の半分ぐらいはシャドーバンキングに頼っている(推定)。本当に全部つぶすと、企業や地方政府が使える資金は半分しか残らず、企業が大量破綻しかねない。

 (6)(5)の懸念があるさなかの7月19日、人民銀行は銀行貸出金利を自由化する、と電撃発表した。
 銀行間競争が激化し、リスクが高い企業に融資を振り向け、シャドーバンキングの拡大を抑える狙いがある、と目される。
 むろん、造船・鉄鋼などの「生産過剰深刻業種」には融資できない。
 一時の痛みを乗り越えられれば、中国は途上国的体質を払拭し、日本より筋肉質な経済大国に生まれ変われる。
 けれども、企業倒産が相次いで失業者が増大すれば、社会不安を招く可能性がある。
 高度成長期の日本、1980年代の韓国や台湾では、大規模な反政府デモが起き、政治体制の変革を強いられた。 
 経済の減速に目をつぶってでも構造改革をする、というのは、これまでの中国にほとんどなかった。北京(党中央)の長老は、失業者が増え、天安門事件のような大規模民衆デモが起きいることを恐れていたからだ。しかし、李首相のシャドーバンキングつぶしは本気らしい。対処に失敗すれば、経済特区の広東省深圳辺りでデモが始まるかも。当局の対応次第で全土に広まり、大混乱する恐れがある。

 (7)日本にどんな影響が及ぶか。
 少々の景気減速で収まった場合、日本にとってはさほど影響はないどころか、プラスの影響もあり得る。
 しかし、中央政府が経済構造をトップダウンで変革しようとすると、たいてい失敗した(過去の経験)。あまり急進的な政策を推し進め、金融が大混乱に陥れば、アベノミクスによる株高や景気回復も消し飛ぶ。1997年には消費増税とアジア通貨危機が重なり、その影響で翌年の成長率がマイナスになった。
 日本のGDPに占める輸出の割合は14%、うち対中輸出は18%。つまりGDP2%少々を対中輸出で稼いでいる。
 懸念されるのは、リーマン・ショック後に円高が進み、中国進出熱とともに生産拠点を移した日本企業だ。昨年から今年にかけてようやく工場が完成し、これから元を取る、という会社が少なくない。その今、タイミング悪く中国経済がおかしくなったら、連鎖破綻が日本企業に及ぶ。大企業では、工作機械の数値制御装置で世界大手のファナック(中国の売上高比率が高い)、建設機械のコマツや日立建機といいった業種は巻き添えをくらう。
 経済不安が政府批判に直結すれば、中国は「反日カード」を切るだろう。
 アベノミクスは震駭する。

□谷道健太(ジャーナリスト)「「アベノミクス」を襲う中国影の銀行」(「サンデー毎日」2013年8月4日号)
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 【参考】
【中国】凄まじい貧富の格差
【中国】政経一体システム ~今後どうビジネスを展開するか~
【中国】政府から独立している軍隊 ~尖閣をめぐる軍事的問題~
【中国】外交と国内問題との関係 ~今後の展望~
【中国】改善されない環境問題 ~大気汚染・水質汚染・食品汚染~
【中国】恐るべき階級社会 ~農村戸籍と都市戸籍~
【中国】5大リスク ~不衛生・格差・バブル崩壊・少子高齢化・軍の暴走~
【食】中国産鶏肉の危険(2) ~有機塩素・残留ホルモン~
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