語られる言葉の河へ

2010年1月29日開設
大岡昇平、佐藤優、読書

【佐藤優】ウクライナにおける対立の核心 ~ユリア・ティモシェンコ~

2014年03月06日 | ●佐藤優
 (1)ウクライナ情勢が緊迫している。
 2月22日、ウクライナ議会は所在不明のヤヌコビッチ大統領を解任し、翌23日、トゥルチノフ議会議長を大統領代行に指名した。トゥルチノフは反ヤヌコビッチの政党「祖国」に属する。ただし、カリスマ性はない。
 22日には、ヤヌコビッチの政敵のユリア・ティモシェンコ・前首相(「祖国」)が釈放された。車いすに乗って集会に参加し、前倒し大統領選挙に出馬する意向を表明した。

 (2)日本や欧米の報道だけ読んでいると、ティモシェンコは親欧米的で民主的な政治家にして、政争に巻き込まれて冤罪で投獄された、という印象を受ける。しかし、実態は大きく異なる。
 ティモシェンコが政争に巻き込まれたのは事実だが、彼女を含め、ウクライナの政治エリートは例外なく不正蓄財に手を染めている。利権抗争をめぐってマフィアの手を借りている。ウクライナの政治エリートは、法規を厳格に適用すれば、誰もが刑事訴追される状態にある。

 (3)いまウクライナで進行している事態は、革命だ。
 特に、地方でのロシア語の公用語化を認める法律を廃止したことが重要だ。この決定は、革命政権がロシアと距離を置き、欧米に接近する路線を選択したことを意味するからだ。

 (4)今回の革命の背景には、歴史的、文化的に根深い対立構造がある。反政権側は、西ウクライナ(ガリツィア地方)に基盤を置く民族主義勢力だ。
  (a)帝政ロシア時代、ウクライナは小ロシアと呼ばれていた。いまもウクライナ人で、自分は広義のロシア人という自己意識を持っている人も、東部、南部には少なからずいる。
  (b)これに対して、西部のガリツィア地方は、歴史的にハプスブルク帝国の版図で、同帝国解体後はポーランドに属していた。ガリツィア地方がソ連領ウクライナと統合されるのは、第二次世界大戦後のことだ。
  (c)ガリツィア地方のウクライナ人は、日常的にウクライナ語を話す。これに対して、東部、南部、中央部のウクライナ人は日常的にロシア語を話す。
  (d)ウクライナ人の大多数は正教徒だが、ガリツィア地方のウクライナ人はカトリック教徒が多数派だ。
  (e)ガリツィア地方のウクライナ人はロシアを嫌い、EUとの統合を強く望んでいる。
  (f)東部を基盤とする軍産複合体、宇宙産業、ロシア人との複合アイデンティティを持つウクライナ人は、ウクライナが北大西洋条約機構(NATO)に飲み込まれるのではないか、という強い危機感を抱いている。

 (5)2月23日にソチ冬季五輪が閉幕するまでは、国際世論に対する配慮から、ロシアはウクライナに対する露骨な干渉は行わなかった。
 しかし、今後は干渉を強める。ウクライナに親米政権が樹立されて、NATOに加入するような事態になれば、ロシアの軍事、宇宙産業に関する機密情報がすべて米国に流れてしまうからだ。

 (6)ウクライナ情勢の緊迫化は、日本外交にも影響を及ぼす。
 米国は日本にも対露索制に加わることを求めてくるだろう。
 日本が米国に歩調を合わせると、プーチン大統領は日本に対する不信感を持つようになる。その結果、プーチン大統領と安倍晋三首相との信頼関係を強化する中で北方領土問題を解決する、というシナリオに翳りが生じ得る。

□佐藤優「まだ続く「革命」 対立の核心を読み解く ~佐藤勝の人間観察 第59回~」(「週刊現代」2014年3月15日号)
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 【参考】
【ウクライナ】とEU間の、難航する協定締結に尽力するリトアニア
【佐藤優】ロシアとEUに引き裂かれる国 ~ウクライナ~


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