(1)国際的に大きな問題は、外事小組、あるいは党中央の採鉱期間である政治局の常務委員(「トップセブン」)が決定する。
外交部は、国務院の1組織で、政策執行機関にすぎず、独自に判断できるのは毎年の恒例の行事など、日常的な外交案件だけだ。外交部の会見は、中国語で行われ、国内向けの意味合いが含まれる。
(2)トップセブンは、党の論理のみならず、国益を判断し、国内世論の動向を見ながら決める傾向がある。
国内世論は、(a)「経済重視派」と(b)「保守派」に大別される。
(a)は経済発展のために周辺諸国と協調外交を展開すべきだ、とし、(b)は経済発展より富を分配して国内の弱者を救うべきだ、としてナショナリズムに基づく強硬路線を主張する傾向がある。
この20年間、日中外交は(a)と(b)との間を行ったり来たりした。
1990年代から2000年代初頭までは周辺諸国に対して一貫して(a)を維持してきた。
しかし、経済発展が続き、(b)の声が強くなってきた。温家宝・首相(2003年3月~2013年3月)は(a)だった。
胡錦濤・総書記(2002年11月~2012年11月)の頃から(b)の発言力が(a)より強くなった。この時期から中国は経済を外交の武器として使うようになった。<例>昨年のフィリピンからのバナナ輸入禁止措置。
こうした周辺諸国との軋轢を生み続けた結果、米国が東アジア安定のため「アジア回帰」を唱えて米軍の配置を移し始めた。中国としては、非常に厄介な事態になった、と感じているはずだ。
(3)今後、中国外交はどのように変わっていくか。
米国が介入し始めたからといって、一気に協調外交に転じるのは難しい。国内では格差問題が広がる一方だから。保守派の意見がまだ強い。
それに、習近平・総書記(2012年11月~)には保守派の意見を無視できない事情がある。保守派の支持を得て国家主席に就任した(2013年3月)からだ。
2010年10月、中央軍事委員会副主席に就いて胡錦濤の後継者となってから今年3月に国家主席に就くまで、習近平は一貫して対日カードを使ってきた。共産党人事(昨年11月)には反日デモ、政府人事(今年3月)には中国船の領海侵犯をぶつけることで、保守派からの批判をかわしてきた。今になって対話路線に転じる可能性はない。
(4)格差が広がった中国には、さらなる経済発展を求める人が大勢いる。外交によって経済発展が阻害されたままであは、国内問題を解決できない。格差、高齢化、環境汚染・・・・これらの問題を解決するには社会保障制度を整備しなければならず、そのためには6~7%の経済成長を維持しなくてはならない。この観点からすれば、日本との経済協力が不可欠だ。
ただ、現体制のトップセブンは習近平より先輩が多い。保守派に配慮しながらの外交になるだろう。習近平が独自色を出していくのは2期目からだ。2014年後半ないし2015年頃、習近平がどのような外交を志向するかが明らかにあるだろう。
格差や高齢化などの国内問題を温家宝や胡錦濤は解決できなかった。高まる政治への批判を抑えつつ経済発展を続けるという綱渡りを習近平は強いられている。かかる状況下で日本に対する外交は敏感にならざるを得ないし、一歩間違えば世論の反発をくらう。
経済分野については、中国は少しずつ歩み寄りを見せている。<例>金融部門の外資参入規制緩和の表明(昨年末)、日中韓FTA交渉の継続の姿勢。
友好関係を念頭においたシグナルだが、これが続くか否かは日本の反応次第だ。安部首相靖国神社参拝など、中国国内の反発が高まれば、また強硬姿勢に転じる。融和と強硬路線のジグザグがしばらく続くだろう。
(5)2008年から2009年にかけて、日中外交が転換した。
2008年、中国に対するODAが終了した。ODAがが対中外交に果たした役割は大きかった。野中広務を始め、旧橋本派の中国との太いパイプ、曾慶紅・政治局常務委員と親密な関係を築いた背景にはODAがあった。1980年代、歴史認識の問題が起きても、円借款の数字を上げることで中国は沈黙した。2008年以降、日本は外交上の武器を失った。
さらに、2009年、中国共産党とパイプのない民主党政権が誕生した。日本は丸腰になった。加えて、2008年頃から中国では保守化が進んでいた。
そんな状況下、尖閣諸島沖で漁船衝突事件が起きた。日中関係はかつてないほど悪化した。民主党政権が中国とのパイプが切れたことに対して、もう少し慎重に対処していれば、違った展開があったかもしれない。
日台漁業協定締結(4月10日)は、非常に効果的な外交だった。「このまま関係悪化が続くと日台が親密になるかもしれない」と中国を焦らせた。各地の日本大使館や領事館が台湾の代表をパーティに招いている。日本の外交当局は、巧みに中国を揺さぶっている。
民間レベルでは、グローバル展開する製品の製造拠点を東南アジアへ移す傾向がある。中国国内には中国市場向け製品に特化する日本企業が増えている。こうした財界の動きも、中国の経済重視派を刺激し、日中友好への呼び水になっている。
(6)今後、不必要な刺激を中国に与えないこと。
もう一つ、正式のルートと平行して、多元的に対中外交を展開すること。鉄道・石炭など巨大な利益集団とのパイプを財界が築くこと。民間にも有力企業が増えているのだから。
そして、共産党の一党独裁の終焉(可能性)も踏まえて、民主化運動家やネットで影響力のある研究者、経済界など多様なパイプを築いたり、支援すること。
□語り手:川島真(東京大学准教授)/聞き手:江上剛「外交 ポスト共産党政権に“保険”をかけろ ~中国 知られざる異形の帝国~」(「文藝春秋」、2013年6月号)
【参考】
「【中国】改善されない環境問題 ~大気汚染・水質汚染・食品汚染~」
「【中国】恐るべき階級社会 ~農村戸籍と都市戸籍~」
「【中国】5大リスク ~不衛生・格差・バブル崩壊・少子高齢化・軍の暴走~」
「【食】中国産鶏肉の危険(2) ~有機塩素・残留ホルモン~」
「【食】日本マクドナルドが輸入する中国産鶏肉の危険 ~抗生物質~」
「【食】中国産食材は大丈夫か? 日本の外食産業は?」
「【食】【TPP】原産地表示の抜け道 ~食のグローバル化~」
「【食】中国食品の有害物質混入、表示偽装 ~黒心食品~」
「【食】中国産薬漬け・病気鶏肉を輸入する日本マクドナルド・その後」
「【食】中国産薬漬け・病気鶏肉を輸入する日本マクドナルド」
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外交部は、国務院の1組織で、政策執行機関にすぎず、独自に判断できるのは毎年の恒例の行事など、日常的な外交案件だけだ。外交部の会見は、中国語で行われ、国内向けの意味合いが含まれる。
(2)トップセブンは、党の論理のみならず、国益を判断し、国内世論の動向を見ながら決める傾向がある。
国内世論は、(a)「経済重視派」と(b)「保守派」に大別される。
(a)は経済発展のために周辺諸国と協調外交を展開すべきだ、とし、(b)は経済発展より富を分配して国内の弱者を救うべきだ、としてナショナリズムに基づく強硬路線を主張する傾向がある。
この20年間、日中外交は(a)と(b)との間を行ったり来たりした。
1990年代から2000年代初頭までは周辺諸国に対して一貫して(a)を維持してきた。
しかし、経済発展が続き、(b)の声が強くなってきた。温家宝・首相(2003年3月~2013年3月)は(a)だった。
胡錦濤・総書記(2002年11月~2012年11月)の頃から(b)の発言力が(a)より強くなった。この時期から中国は経済を外交の武器として使うようになった。<例>昨年のフィリピンからのバナナ輸入禁止措置。
こうした周辺諸国との軋轢を生み続けた結果、米国が東アジア安定のため「アジア回帰」を唱えて米軍の配置を移し始めた。中国としては、非常に厄介な事態になった、と感じているはずだ。
(3)今後、中国外交はどのように変わっていくか。
米国が介入し始めたからといって、一気に協調外交に転じるのは難しい。国内では格差問題が広がる一方だから。保守派の意見がまだ強い。
それに、習近平・総書記(2012年11月~)には保守派の意見を無視できない事情がある。保守派の支持を得て国家主席に就任した(2013年3月)からだ。
2010年10月、中央軍事委員会副主席に就いて胡錦濤の後継者となってから今年3月に国家主席に就くまで、習近平は一貫して対日カードを使ってきた。共産党人事(昨年11月)には反日デモ、政府人事(今年3月)には中国船の領海侵犯をぶつけることで、保守派からの批判をかわしてきた。今になって対話路線に転じる可能性はない。
(4)格差が広がった中国には、さらなる経済発展を求める人が大勢いる。外交によって経済発展が阻害されたままであは、国内問題を解決できない。格差、高齢化、環境汚染・・・・これらの問題を解決するには社会保障制度を整備しなければならず、そのためには6~7%の経済成長を維持しなくてはならない。この観点からすれば、日本との経済協力が不可欠だ。
ただ、現体制のトップセブンは習近平より先輩が多い。保守派に配慮しながらの外交になるだろう。習近平が独自色を出していくのは2期目からだ。2014年後半ないし2015年頃、習近平がどのような外交を志向するかが明らかにあるだろう。
格差や高齢化などの国内問題を温家宝や胡錦濤は解決できなかった。高まる政治への批判を抑えつつ経済発展を続けるという綱渡りを習近平は強いられている。かかる状況下で日本に対する外交は敏感にならざるを得ないし、一歩間違えば世論の反発をくらう。
経済分野については、中国は少しずつ歩み寄りを見せている。<例>金融部門の外資参入規制緩和の表明(昨年末)、日中韓FTA交渉の継続の姿勢。
友好関係を念頭においたシグナルだが、これが続くか否かは日本の反応次第だ。安部首相靖国神社参拝など、中国国内の反発が高まれば、また強硬姿勢に転じる。融和と強硬路線のジグザグがしばらく続くだろう。
(5)2008年から2009年にかけて、日中外交が転換した。
2008年、中国に対するODAが終了した。ODAがが対中外交に果たした役割は大きかった。野中広務を始め、旧橋本派の中国との太いパイプ、曾慶紅・政治局常務委員と親密な関係を築いた背景にはODAがあった。1980年代、歴史認識の問題が起きても、円借款の数字を上げることで中国は沈黙した。2008年以降、日本は外交上の武器を失った。
さらに、2009年、中国共産党とパイプのない民主党政権が誕生した。日本は丸腰になった。加えて、2008年頃から中国では保守化が進んでいた。
そんな状況下、尖閣諸島沖で漁船衝突事件が起きた。日中関係はかつてないほど悪化した。民主党政権が中国とのパイプが切れたことに対して、もう少し慎重に対処していれば、違った展開があったかもしれない。
日台漁業協定締結(4月10日)は、非常に効果的な外交だった。「このまま関係悪化が続くと日台が親密になるかもしれない」と中国を焦らせた。各地の日本大使館や領事館が台湾の代表をパーティに招いている。日本の外交当局は、巧みに中国を揺さぶっている。
民間レベルでは、グローバル展開する製品の製造拠点を東南アジアへ移す傾向がある。中国国内には中国市場向け製品に特化する日本企業が増えている。こうした財界の動きも、中国の経済重視派を刺激し、日中友好への呼び水になっている。
(6)今後、不必要な刺激を中国に与えないこと。
もう一つ、正式のルートと平行して、多元的に対中外交を展開すること。鉄道・石炭など巨大な利益集団とのパイプを財界が築くこと。民間にも有力企業が増えているのだから。
そして、共産党の一党独裁の終焉(可能性)も踏まえて、民主化運動家やネットで影響力のある研究者、経済界など多様なパイプを築いたり、支援すること。
□語り手:川島真(東京大学准教授)/聞き手:江上剛「外交 ポスト共産党政権に“保険”をかけろ ~中国 知られざる異形の帝国~」(「文藝春秋」、2013年6月号)
【参考】
「【中国】改善されない環境問題 ~大気汚染・水質汚染・食品汚染~」
「【中国】恐るべき階級社会 ~農村戸籍と都市戸籍~」
「【中国】5大リスク ~不衛生・格差・バブル崩壊・少子高齢化・軍の暴走~」
「【食】中国産鶏肉の危険(2) ~有機塩素・残留ホルモン~」
「【食】日本マクドナルドが輸入する中国産鶏肉の危険 ~抗生物質~」
「【食】中国産食材は大丈夫か? 日本の外食産業は?」
「【食】【TPP】原産地表示の抜け道 ~食のグローバル化~」
「【食】中国食品の有害物質混入、表示偽装 ~黒心食品~」
「【食】中国産薬漬け・病気鶏肉を輸入する日本マクドナルド・その後」
「【食】中国産薬漬け・病気鶏肉を輸入する日本マクドナルド」
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