語られる言葉の河へ

2010年1月29日開設
大岡昇平、佐藤優、読書

【土建国家】規制改革派の登場、“オプチノミクス”再来

2014年07月22日 | 社会
 (17)1998年の節目を考えるとき、重要なのは
  (a)財政再建が叫ばれる一方、
  (b)土建国家のロジックにとらわれて成長も追求する、
というアクロバティックな難題を抱え込んだこと。
 第二次臨時行政調査会(1981年、土光臨調)のあと、鈴木善幸内閣は「増税なき財政再建」路線を打ち出すようになる。これが1990年代の流れをつくっていった。
 その後、バブル経済で税収が劇的に増えて、財政再建の問題は解消したかのような形になる。これは長期的に見れば、日本国民にとって不幸なことだった。増税によるサービスの道を閉ざしたからだ。
 そうしたなかで竹中平蔵を始めとする「改革派」のロジックが登場する。政府を小さくすれば成長する、という主張だ。

 (18)市場原理に基づいた改革が、ある種の正当性を持って出てきた面はたしかにある。でも、同時にこの種のロジックが何かを隠蔽してしまったのも事実だ。
 規制改革が本格的に始まるのは細川政権時代だ。当時は円高対策の名目もあったが、その後、橋本政権が5大改革、6大改革を言い出して、産・官・学の改革グループが形成されていく。
 <例>宮内義彦・オリックス元会長も1990年代半ば頃から改革グループに入ってくる。宮内は、公共投資で成り立っているような地域はおかしい、と言っている。経済のルールから外れた、閉鎖的なところにメスを入れるべきだ、と主張する。

 (19)規制緩和が行われた背景は、米国からの圧力もあったし、汚職による行政不信、都市中間層の要求など、複合的なものだ。
 ただ、土建国家の付き詰まりを背景に規制緩和が支持されたというのは、とても重要な点だ。
 分配する利益がなくなって、借金もこれ以上はできない。新たな生活保障を国民は求めるが、それを実現できない政府が、「奥の手」として自らを切り刻む。つまり規制緩和によって国民の歓心を買う。
 規制緩和は、国家が担ってきた領域を民間に譲り渡すことでビジネスチャンスを作った。しかし、原則論だが、国家の領域とは、儲からないけれども、必要なものをみんなが税で負担し合うというところにあるはずだ。

 (20)宮内義彦には、新しい社会を構想する大きな構えがない。あるのはビジネスの論理だけだ。
 最初はタクシーの参入規制とか、経済規制の話から始まった規制改革論議だが、緩和メニューが出尽くしてくると、深い議論もないままに、医療とか教育などの社会規制に関わる分野を対象にするようになる。
  (a)規制の問題を論じることと、
  (b)社会のあり方を論じること
の間に境目がない。
 公共部門には市場原理を持ち込めない、との理解が共有されていない。
 規制緩和をすれば成長する・・・・わけではない。
 <例>タクシーの規制緩和は弊害のほうが大きい。
 具体的な事例でその効果を検証し直すことが重要だ。
 米国は民営化、規制緩和の象徴のように語られるが、州際規則を見ると米国は日本よりも厳格な規制をもっている、ともいえる。本当に規制緩和が“国際基準”なのか、根本的な問題もある。
 
 (21)市場の領域だけでは処理できない別の価値観があるんだ、と打ち出すことが必要になっている。
 <例>宇沢弘文は、社会的共通資本という概念を提唱した。
 抽象的で遠回りのように見えたとしても、やはりそういう価値観とか理念がなければ、社会のありようは議論できない。人間は環境に適応するばかりでなく、自分自身の意志をもっている。

 (22)1998年、小渕政権は大型公共投資を再開し、国債発行残高が300兆円台に跳ね上がった。
 オプチノミクスの反動としてすさまじい財政再建プレッシャーが生まれ、その後の政治を規定していった。
 いまアベノミクスで公共投資が復活し、日銀も「異次元緩和」で大量に国債を買い入れている。遠くない将来、大きな反動が起こるのではないか。

 (23)安部総理は小渕総理と同じことをやろうとしている。小渕は、景気をよくしたいと、空前の減税と、大規模な公共投資を行った。土建国家の最後のあだ花だった。
 このときの財政出動も、都市的な利益にはまったく結びつかない。その反発が小泉政治へとつながっていった。
 都市的な利害を無視した政治は破綻する。

 (24)財政出動と金融緩和という点では、アベノミクスは典型的なケインズ政策を行っている。
 だが、成長戦略では、例えば国家戦略特区は「企業が世界一ビジネスをしやすい環境」をつくる、と謳っている。
 ケインズ政策と新自由主義的成長戦略の組み合わせは詐欺ではないか。
 「改革派」は、企業の成長こそいちばん大事との前提で、さまざまな制度設計をしてきて、いまもその過程にある。高度成長期とは違った形ではあるが、「企業が主人公である」点は同じ。またもや法人減税の話が出てきている。

 (25)小泉政権下で非正規雇用問題が大きく注目されたが、いま、あらたな解雇規制の緩和や労働市場改革が浮上している。ビジネス至上主義の極まりという印象だが、こうした動きを支えているのが経済学者とエコノミストだ。
 彼らが影響力を持ち始めたのも、小淵政権からだ。このときの経済戦略会議で竹中が公式デビューを果たすが、中谷厳や伊藤元重など、その種の会議を歴任する人たちも出てきた。
 いまの産業競争力会議、国家戦略特区諮問会議は、ともに首相がメンバーに含まれていて、省庁の利害を超えた強大な権限をもつ。
 国家戦略特区諮問会議は、事実上竹中がつくったようなもの。設立の根拠となる国家戦略特区法には、この諮問会議の議員になる要件が定められているが、それによると構造改革派しか民間議員になれない。多様な立場からの意見を受け付けない仕組みをつくった。
 どれだけ国家を解体しても、これで十分、という基準があるわけではない。改革派は、まだ規制緩和が足りない、とひたすら底へ向かって競争をする気でいる。

□井出英策×佐々木実「「土建国家」と規制改革の果てから」(「世界」2014年8月号)
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 【参考】
【土建国家】日本版「働かざるもの食うべからず」、二つ目の分岐点
【土建国家】の定義、一つめの分岐点 ~戦後史の見直し~

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