語られる言葉の河へ

2010年1月29日開設
大岡昇平、佐藤優、読書

【佐藤優】クリミアで衝突する二大「帝国主義」 ~戦争の可能性~

2014年03月14日 | ●佐藤優
 (1)あたかも第二次世界大戦前夜の様相だ。
 クリミア半島は、住民の6割がロシア系だ。1954年(ソ連時代)にロシア共和国からウクライナ共和国に帰属替えされた経緯もあるうえ、ロシアにとっては黒海艦隊が拠点を置く戦略上の重要拠点だ。
 しかし、2月に「親欧米」政権が誕生した。
 クリミア半島を死守したいプーチン大統領は、ロシア軍を派遣して掌握に乗り出した。

 (2)冷戦の機器が囁かれるほど、米露関係は悪化している。
 行方は見えないが、冷戦時代に逆戻りはしない。冷戦は、基本的には共産主義と反共主義というイデオロギー対立がベースにあった。現在はイデオロギーはない。
 では、今回の対立をどう見るべきか。
 帝国主義的な対立だ。それが露骨に出てきているのだ。
 ソ連はかつて、制限主権論を唱えて侵略を正当化してきた。社会主義共同体の利益が脅かされる場合、個別国家の主権は制限されることがある、という理屈だ。今回は、ロシアの利益が脅かされる場合、近隣国家の主権は制限されることがある、という論理で、ウクライナに軍隊を展開している。
 ちなみに、米国も制限主権論を使っている。アフガニスタンやイラクに対しては、米国型の価値観になじまない国は、世界の利益を侵害するから、主権は制限されても構わない、としている。これも帝国主義国の論理だ。
 ロシアは地政学、米国は「自由と民主主義」の旗印の下に、それぞれ帝国主義化している。

 (3)わが日本の安倍晋三・首相は、「全当事者が自制と責任を」と話すなど、米国に代表される西側の動きとは一線を画しているように見える。
 幸い日本はバランスが取れている。G7との協調姿勢は取りつつも、日露交渉はきちんとやっていく。米国と距離を置いて、どちらかというとドイツに近い姿勢を採っている。今回のウクライナ新政権にも冷ややか。米国との関係がある以上、この姿勢をどこまで続けられるかがポイントだ。

 (4)米国はヒートアップし続けている。ケリー国務長官は、追放の可能性に言及した。「この状態が続けばロシアはG8に残れないだろう」
 事実、米国などG8主要4か国はソチで6月に開催予定のG8首脳会議に向けた準備会合への参加を見合わせる方針を早々と決定した。態度を明確にするのが遅れた日本、ドイツ、イタリアとは温度差がある。

 (5)(4)の構造は、第二次世界大戦前の状況に似ている。当時、ソ連があった。「英米仏」は同盟関係を構築し、別の同盟を結んだ「日独伊」と激しく対立した。
 現状も、連合国vs.枢軸国という対立構造と見えなくもない。
 この図式は潜在的にある。第二次世界大戦後の秩序を作ったグループと従わされたグループだから。だから、G8で利害調整することは重要だ。G7になれば、日本だって国連の常任理事国ではないから、ロシアに影響力を行使できないし、慰安婦問題などを抱えていることで、民主主義の度合いが低いと非難される可能性がある。G7ではもたない。ロシアを外に出すと、中国とロシアの提携も現実味を帯びる。これは最悪のシナリオだ。利害が調整できなくなれば、戦争を誘発する危険性すらある。各国が帝国主義的になる中、いかなる対立も起こり得るようになる。現在が大きな分水嶺にあることを、ウクライナ問題は浮き立たせた。

□岩田智博(編集部)「クリミア 佐藤優氏が読む戦争の可能性 衝突する2大「帝国主義」」(「AERA」2014年3月17日号)
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 【参考】
【佐藤優】「動乱の半島」クリミアの三つ巴の対立 ~セルゲイ・アクショーノフ~
【佐藤優】ウクライナにおける対立の核心 ~ユリア・ティモシェンコ~
【ウクライナ】とEU間の、難航する協定締結に尽力するリトアニア
【佐藤優】ロシアとEUに引き裂かれる国 ~ウクライナ~


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