通でがんす

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(旧ブログタイトル:通じゃのう)

特撮美術監督 井上泰幸展

2022年04月22日 | まんが・テレビ・映画
特撮美術監督の
井上泰幸(いのうえ やすゆき)さんの
生誕100年を記念した回顧展
「生誕100年 特撮美術監督 井上泰幸展」
が、東京都現代美術館で開催中。
会期は6月19日まで。


↓「生誕100年 特撮美術監督 井上泰幸展」については、こちら↓

「展覧会 井上泰幸展」東京都現代美術館



今日は、
特撮美術監督・井上泰幸さん
についての話でがんす。



井上泰幸さんは、
1922(大正11)年、福岡県生まれ。

太平洋戦争中は海軍で
潜水艦を探知する業務に従事するも、
米軍機の機銃掃射を受け
左ひざから下を失う。

戦後、日本大学芸術学部で学び、
在学中から映画会社・新東宝の撮影所で
アルバイトとして働く。
1954年、東宝へ出向、
『ゴジラ』を手伝ったことが縁で、
特撮の神様・
円谷英二(つぶらや えいじ)さんの下で
働くことに。
ミニチュアセットや怪獣、
メカニックをデザインし、
イメージボードや絵コンテを手がけ、
東宝特撮映画黄金期を支えた。

円谷さんが亡くなった後の
1971年に東宝を退社、
アルファ企画を設立する。
東宝退社後も、
『日本沈没』(1973)、
『連合艦隊』(1981)や、
平成ウルトラマンやガメラ、
スーパー戦隊シリーズにも関わった。
また、映画やテレビだけでなく、
コマーシャルやテーマパークの美術
なども手がける。

2012年2月19日、
89歳で亡くなる。



東京都現代美術館で開催中の
「生誕100年 特撮美術監督 井上泰幸展」。

今回の展示の中でぜひ見てみたいのが、
『空の大怪獣ラドン』を再現された
ミニチュアセット。
(ぜひ見てみたい、といいながら、
わざわざ東京まで見に行く予定は
なかったりするんじゃが…)

井上さんの愛弟子で、特撮研究所の
三池敏夫(みいけ としお)さんが、
『空の大怪獣ラドン』(1956)で知られる
西鉄福岡駅周辺のミニチュアセットを
会場内に再現しておられます。

そのミニチュアセットの
背景画を描いておられるのが、
長年、特撮映画の背景を描かれている
島倉 二千六(しまくら ふちむ)さん。


(『特撮の空 島倉二千六、背景画の世界』株式会社ホビージャパン 2021年)


↓西鉄福岡駅周辺のミニチュアセットについては、こちら↓

「【開幕】日本の映像文化支える ミニチュアに込められた妥協なき美学 「生誕100年 特撮美術監督 井上泰幸展」東京都現代美術館で6月19日まで」美術展ナビ


はぁ………。
何度見ても、ため息が出てしまう。
この記事を読むたびに、今回の展覧会を
見に行かんにゃいけんよのう、
と思うてしまうんじゃの。



わしが井上泰幸さんの名前を知ったのは、
映画『惑星大戦争』(1977年)。

1977年について
少しだけ話をすると…。

この年の8月に
『劇場版 宇宙戦艦ヤマト』が
公開され大ヒット、
アニメブームが起こる。
それまで「まんが映画」と
呼ばれていたのが、
これを機に「アニメ映画」と
呼ばれるようになったんじゃの。

海の向こうのアメリカでは
『スター・ウォーズ
エピソード4/新たなる希望』が公開され、
こちらも大ヒット。
日本での公開は、
1年後の1978年7月と決まった。
「全世界同時上映」が当たり前の今では
信じられんかもしれんが、
このころはそれが普通じゃった。

『スター・ウォーズ』が公開される前に、
宇宙もの・SFもので当てようと、
東宝は『惑星大戦争』を、
東映は『宇宙からのメッセージ』を、
そして円谷プロはテレビシリーズ
『スターウルフ』をそれぞれ製作した。

ヤマトのデザインをしたのが、
松本零士(まつもと れいじ)さんで、
『宇宙からのメッセージ』は
石森 章太郎
(いしもり しょうたろう)さんだった。


(『ロマンアルバム・エクセレント54 宇宙戦艦ヤマト PERFECT MANUAL 2』徳間書店 1983年 110ページ)


(石森章太郎『宇宙からのメッセージ』小学館 1978年)


『惑星大戦争』は誰じゃろ?
と調べてみたら、
井上泰幸、アルファ企画
とあった。
ネット社会の今では
簡単に探すことができるが、
当時は調べる手段がほとんどなく、
井上泰幸って誰?
アルファ企画ってどんな会社?
という状態じゃった。


…前置きが長くなってしもうた。

映画『惑星大戦争』に出てくる
メカニックのデザインを手がけたのが
井上さんじゃった。



(『東宝特撮映画DVDコレクション 34 惑星大戦争』デアゴスティーニ 2011年 10ページ)

メカニックのデザイン画。
上ふたつが宇宙防衛艦
轟天(ごうてん)。
右下は異星人が操る宇宙戦艦
大魔艦(だいまかん)で、
左下が大魔艦に搭載されたUFO型戦闘艇
ヘル・ファイター。


(大魔艦の)デザイン原案は井上泰幸で、帆船のイメージだったものを、鯨井実がローマ船のイメージで仕上げた。船体側面にあるオール状のビーム砲は、特技監督の中野昭慶が子供時代に観た海賊映画に登場するガレー船の櫂がモデルになっている。

(ヘル・ファイターは)その形状から、スタッフから「お釜ファイター」と呼ばれた。

(「惑星大戦争」ウィキペディア)



わしが知る、
井上さんの手による大魔艦のデザイン
(帆船のイメージ)に近いのは、
下の記事に掲載されとるガレー船かの。
このガレー船から
帆を小さく、数を増やして、
船体側面のオールを無くしたのが
それだと想像してみてください。


↓大魔艦のデザインについては、こちら↓

「『ゴジラ』特撮美術監督のアトリエ 解体前に「展示会」実施」タウンニュース 神奈川県全域・東京多摩地域の地域情報紙



(同上 11ページ)

大魔艦の前線基地となった金星。
かなり広いセットが
組まれているのがわかる。
この映画の背景を描かれているが、
先に紹介した島倉 二千六さん。



以下、余談。


今回の展示で、
『ラドン』の西鉄福岡駅周辺の
セットを再現、と紹介した。

その『空の大怪獣ラドン
4Kデジタルリマスター版』が、
午前十時の映画祭12で今年末、
上映予定じゃそうな。


↓『空の大怪獣ラドン 4Kデジタルリマスター版』については、こちら↓

「「空の大怪獣ラドン 4Kデジタルリマスター版」上映作品詳細」午前十時の映画祭12 デジタルで甦る永遠の名作



以下、さらに余談。


映画『惑星大戦争』の
轟天について話をした以上、
ヘタレ轟天について
触れないわけにはいかない。

…ヘタレ轟天とはなにか?

ヘタレ轟天とは、これじゃ!



(『映画手帳』1977年12月号 裏表紙の裏)


…なにかが、おかしい。



(『惑星大戦争』サウンドトラック 東宝レコード)


2つのイラストを見比べてみると…。
『映画手帳』の広告(上)は、
映画会社から支給されたイラスト(下)
ではなく、
描き直したものであることが分かる。
轟天号は斜め45度で飛び立つから
カッコいいのであって、
30度くらいで飛んでも迫力不足じゃ。
しかも、丁寧な描き直しでなく、
細部がいい加減に仕上げてある。

以下、
この絵が描かれたことについての
わしの勝手な妄想でがんす。


「社長、この広告なんですがの。
小さくて横長の画面に
宇宙船やなんやらが
ゴチャゴチャと入っとったら、
見づらいですよ」

「そんな、お前。いらんもんは
ちょちょいと消してしもうたら
それでええじゃないか」

「いやー、
それでも見づらい思いますよ」

「うーん…。
ほいじゃ、どうすりゃええかいの?」

「この写真を元にして、
出入りの絵描きにささっと描いてもらや
ええと思うんですがの」

「分かった。
ほんならそれでやってもらおうか」



事の真相はともかく…。
この轟天号にお目にかかれたのは、
この雑誌を目にした
広島県民だけじゃろか?
それとも、全国的に
出回ったものなんじゃろか?



今日は、
特撮美術監督・井上泰幸さん
について話をさせてもろうたでがんす。


ほいじゃあ、またの。
コメント
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