或る「享楽的日記」伝

ごく普通の中年サラリーマンが、起業に向けた資格受験や、音楽、絵画などの趣味の日々を淡々と綴ります。

7区 リール通り

2009-07-10 06:42:15 | 830 パリ紀行
もう何年になるだろう、精神科医であり心理学者でもあるジャック・ラカンに興味を持ち始めてから。自分にとってとてもショッキングな出来事があって、それを人から伝え聞いた時から彼が自分の頭の片隅に歴然と存在するようになったのは確か。それからというもの、機会がある毎に関連する書籍を読むようにしているのだけど、いまだに彼の思想をほとんど理解できていない。

その書籍というのは巷で分かり易く書かれていると評判のものばかり。代表的なのが斉藤環の「生き延びるためのラカン」(2006年)、それと新宮一成の「ラカンの精神分析」(1995年)や福原泰平の「ラカン-鏡像段階-」(1998年)。どれもよく分からなくて。だけどラカン自身が書いた「エクリ」等はさらに難解で、和訳されたものだけを読むと誤解を招くため、フランス語の原著とつきあわせて読むのが王道とされている。でもね、和製の入門書で戸惑っているようじゃとうてい読めないよなあ。

1901年のパリ生まれ。精神科医として医療に携わりながら、フロイトの精神分析に影響を受け、1964年にはパリ・フロイト派を自ら立ち上げ指導的立場を取る。その彼が1941年から開いていたのがセーヌ川左岸にある診療所。7区のリール通り(Rue de Lille)5番地にあるアパートで、上の画像はその玄関。オルセー美術館の裏手にあり、ルーヴル美術館からだとカルーゼル橋を渡りヴォルテール河岸から通りに入ってすぐのところ。実際に行ってみると、パリ市街の中心部なのにやけにひっそりとしていたのが印象的だった。

ラカンは精神分析に数学を導入するし、現実界・象徴界・想像界、シェーマL、ファルス、ボロメオの輪等々、様々な妖しい概念を発表するしで、その思想は多方面に多大な影響を与えている。日本にもラカ二アンと呼ばれる信者がゴロゴロいるし、ある意味で教祖的存在。だけどこれが超難解なので、世の凡人は断片的、短絡的に彼の言葉をテキトーに引用しているだけ。

自分もそのひとりで、女性との会話のネタとして重宝していて。例えば「性的な関係は存在しない」、「我思わぬ故に我あり」、「欲望とは他者の欲望を欲望することである」等々。そうそう、だいぶ前に放映された綾瀬はるか主演のTVドラマ「ホタルノヒカリ」の冒頭で、相手役の藤木直人のセリフに「この世に女というものは存在しない。...」が出てきた時は笑えたっけ。

リール通りカルーゼル橋
ヴォルテール河岸アパート外観


           斉藤環 「生き延びるためのラカン」斉藤環 「生き延びるためのラカン」

新宮一成 「ラカンの精神分析」新宮一成 「ラカンの精神分析」 福原泰平 「ラカン-鏡像段階-」福原泰平 「ラカン-鏡像段階-」