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■SEVEN DADA’S BABY 再考ー7人のアヴァンギャルド (2024年5月11日~6月30日、小樽)

2024年06月29日 08時44分25秒 | 展覧会の紹介-現代美術
 詩人・美術評論家の柴橋伴夫さん(札幌)が1982年にギャラリーユリイカ(2008年に閉廊)で企画して開いた「SEVEN DADA 's BABY」展を機縁に、道内の前衛美術を振り返ろうという展覧会。小樽美術館が主催し、柴橋さんが監修に名を連ねています(しつこいようですが、なぜ「BABY」と単数形なのだろう)。

 同館が所蔵する代表的な作家で、50年代の日本の版画界に彗星のように現れた一原有徳さんと、阿部典英、荒井善則、岡倉佐由美、佐渡富士夫、楢原武正、千葉豪の6氏が出品しています。ただし、この6人イコール「SEVEN」展の出品者ということではないようです(柴橋氏が図録に寄せた巻頭言によれば、出品者は、阿部、山内孝夫、藤原瞬、荒井、藤木正則、一原、重吉克隆の7氏)。佐渡、千葉の両氏と一原さんは小樽を拠点にしていたこともあって、こういう人選になったのかもしれません(佐渡氏は故人)。
 なお、阿部典英さんは札幌出身・拠点でしたが、近年になって小樽にアトリエを構えました。残る岡倉、楢原両氏は札幌。荒井さんは長く旭川で活躍し、現在は長野県との2拠点生活になっているようです。
 
 この展覧会は非常に意義のあるものだと筆者は考えます。
 1968~70年ごろは、フランス五月革命やベトナム反戦運動をはじめ世界的に学生叛乱はんらんの嵐が吹き荒れた時代でした。それに刺戟し げきされ、アートや音楽、演劇などの世界でもさまざまな試みが展開された、激動の時代だったのです。
 当然、国内外の美術館では2018年以降、あの時代から半世紀を記念した企画が数多く開かれました。
 しかし道内では、道立旭川美術館が、1970年代以降の旭川を中心とした現代アートシーンを資料や作品で回顧する小規模な展覧会を開いたぐらいで、そのような企画はほとんど皆無でした。
 
 早いとこ資料を集めて歴史を振り返らないと、資料は散逸するは、関係者は高齢化するはで、大変なことになると思うのですが、道内の美術館関係者は、そのような危機感は、もっていないか、あるいは抱いていたとしても予算も人員も不足していて、手が出せないのでしょうか。
 道立近代美術館などは、1920~30年代の絵画展を開館当初からよく開いているという印象があります。開館当時は、半世紀前の回顧だったわけで、2020年代の現在、1970年代以降はノータッチのままでいいのかよ、と率直に思わざるを得ません。

 ひるがえって今回の展覧会は、そうした情けない状況にあらがうように、往時の北海道の現代美術にもおもしろい作家と作品があったということを提示しています。
 図録を刊行したことも、評価したいです(出して当たり前といわれそうですが、近年の道内各館の予算不足は深刻なものがあり図録を出さない展覧会も多いのです)が、たとえば、「SEVENー」展の続編である「帰ってきたダダっ子」展が1992年だったのか、「帰ってきたダダッ子」展が1996年だったのかといった基本的な情報の記述さえ、中で齟齬そごをきたしています。各作家の紹介テキストも、書式も書かれた年もばらばらで、どこまで記述を信頼していいものかとうたぐってしまいます(おまえ、人のこと言えるのかよ、と言われそうですが…)。
 この展覧会は、あくまで当時の一つの断面を提示したものであり、北海道の美術史全体に作家たちを位置付けたものではありませんし、1982年の道内アートシーン全体を俯瞰 ふ かんして見せたものでもないわけで、それらの作業はこれからの課題だといえそうです。

 長くなりました。個々の作家と作品には簡単に触れるにとどめます。
 阿部典英さんは、会期中におなじ建物の階下で開かれたグループ展「WAVE」で新作を出していたことに驚嘆しました。今展の「Tie-up」は1973年で、現在85歳ですから、その活動歴の息の長さは驚きです。
 岡倉佐由美さんは1980~90年代に盛んに発表していました。21世紀に入ってからは発表が減り、2017年に「イメージのロゴス」展の企画をしたのが目立ちます。彼女の特徴は「レディメイド」で、自ら絵筆を執ることはせず、既製品のオブジェや他人の制作物を組み合わせることで作品にしています。

 佐渡富士夫さんは筆者は生前会ったことがなく、あまり確たることはいえませんが、作品から「私性」をはぎとり、偶然性に委ねようとしていたように見受けられます。その姿勢はユニークだと思いますが、行為は偶然かつランダムでも、作品という物体は必然的に残ってしまうわけで、そのあたりをどう考えていたのか、聞いてみたかった気がします。
 千葉豪さんは1932年(昭和7年)生まれ。家紋を主題にした絵画を手掛け、小樽市展や道展などを舞台に活動してきました。個人的には、彼の家業が、中野重治の名短編「萩のもんかきや」に登場するあれなのか! と、ちょっと感動しました。
 残る荒井、一原、楢原の各氏は、このブログで何度も登場しているので、今回は省略させていただきます。


 そもそもアヴァンギャルドとかダダとは何か、という話は、いつの日か別稿に譲れたらと思います。
 

2024年5月11日(土)~6月30日(日)午前9時半~午後5時、月曜休み
市立小樽美術館(小樽市色内1)

【告知】の記事はこちら

過去の関連記事へのリンク
イメージのロゴス それぞれと諧調 (2017)※岡倉さん企画・出品
祭り・FEST展パートⅡ(2003)=岡倉さん出品
「北海道・現代写真家たちの眼'03 彩(いろどり)」 七人の写真家による彩の流星群 (2003)=岡倉さん出品
THE LIBRARY 2002 -Exhibition of the book object-=岡倉さん出品
※以上画像なし
岡倉佐由美・福士千香子展 (2001)

佐渡富士夫「海への指標」 ハルカヤマ藝術要塞(2011)
【告知】かなた art circulation vol.2(2011年5~6月)
かなた Art Circuration (2010年) ※佐渡さんが中心になって企画した小樽のグループ展。千葉さんも出品




・JR小樽駅から約720メートル、徒歩9分

・都市間高速バス「高速おたる号」などを「市役所通」で降車、約680メートル、徒歩9分


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