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■第35回記念美工展 (4月20日で終了)

2008年05月14日 23時33分07秒 | 展覧会の紹介-工芸、クラフト
 北海道美術工芸協会が主催する、道内では唯一の、工芸だけの公募展(道展と全道展には工芸部門がある)。
 ことしは35回記念展ということで、事務局からカラーの図録をいただきました。ありがとうございます。

 そこに載った年表によると、同会は1973年に発足し、翌74年からしばらくの間、丸井今井札幌本店で「北海道手工芸美術協会」として展覧会を開きます。84年に現名称に変更し、89年には「美工展」という略称を定めて札幌市民ギャラリーを会場とする公募展としてスタートしています。

 せっかくの記念展でしたが、ことしも昨年に続き、最高賞にあたる協会賞の該当作はありませんでした。
 昨年皆無だった会員推挙は、染色の篠木正幸さん(江別)、陶芸の藤井由記子さん(札幌)の2人がえらばれています。
 篠木さんは奨励賞も受けています。
 藤井さんの「壺 鉄線」は、力強い線刻が目を引きました。

 篠木さん「坩堝」は、渋谷とおぼしきマチの風景が茶色で表現され、下部に大きな緑の穴が描かれた、斬新なデザインです。
 たぶん道都大出身だと思いますが、道都勢の若々しさがこの公募展に欠かせない存在であることを、彼や、会友の藤井映莉さんの作品がよく示していると思います。

 分野別にみると、ことしは、陶芸と染色がともに13点で、最多でした。
 筆者の記憶では、染色がトップになったことは、近年ではありません。

 陶芸では、佐久間弘子さん(札幌)「象嵌 彩氷の旅」、山谷智子さん(同)「大地 息吹き」などが目を引きました。
 山谷さんは、黄緑の混じった釉薬の使い方に、北国らしい抒情を感じます。
 一般では、前川康子さん(同)「とう(一対のランプ)」が、お地蔵さんのようなほのぼのとした造形。
 また、きくち好惠さん(岩見沢)「やわらかくてかたい」も、曲線を生かしたかたちがかわいらしいです。
 きくちさんは、グループ展「生まれいづる土塊」や、江別市セラミックアートセンターの展覧会にも出品しており、すでに陶芸家として活動しているだけに、「新人賞」というのは意外な感じもあります。

 染色は、藍染めが多いです。
 一方で、前木みのりさん(札幌)「のどか」が、田舎の景色を、友禅でみごとに表現していました。
 一般の阿部拡(ひろむ)さん(北広島)も道都勢でしょうか。「夜の空遊便」は、夜空に、色とりどりの鳥や葉が舞っているようなデザインで、落ち着いた感じながらポップさを持ち合わせています。

 つぎに多かったのが押花の8点。
 多比良桂子さん(砂川)の出品がありません。
 雑賀赫子さん(釧路)「悠久の時」は、西洋の街の広場にたつ大きな木の紅葉を、やや下から見上げた角度で、魚眼レンズでとらえたかのように堂々と描写しています。まとまった作品です。
 一般では、篠原節子さん(空知管内新十津川町)「やすらぎのひとときに」が、黒塗りのついたて仕立ての作品で、豪華で渋い感じがしました。

 4位は、組紐の7点。
 会友の安保悦子さん(札幌)「キング&クイーン」は、トランプにヒントを得たおもしろいデザインです。

 つづいて、金工、人形、木工がいずれも6点。

 金工は平面の力作がそろいました。
 井上和子さん(苫小牧)「memory 融合 memory 共生」は、電子回路を取り入れ、幅の太い自然の木の額におさめた、異色の壁掛け型2点組み。
 丸山恭子さん(函館)「heart-to-heart」は、しわをつけて着彩した和紙を支持体とし、その上に、空をわたる鳥や星、街並みなどを配置したメルヘン調の作品です。
 加藤瑞子さん(札幌)「明日を視つめて(エゾフクロウ)」は、ベテランらしい作品です。
 一般でも、佐々木真理さん(同)「永・遠・に」が、フクロウをモティーフにしています。こちらは枝の表現がリアルです。

 木工は、一般の鈴木俊幸さん(岩見沢)と長門石覚さん(日高管内浦河町)が佳作賞を受賞しました。
 会員では、美しいあかりなどを作ってきた事務局長の羽賀隆さん(札幌)が「森のドレッサー」を出品。すっきりしたデザインの、とても実用的な作品です。

 人形では、橋本紀比古さん(札幌)「花火」が、素焼きで、禅画のような素朴な味わいを見せています。

 このほか、10年間にわたって事務局長を務めながら病気で昨年出品をやすんだ、皮革の高木晶子さん(同)が「08作品A」を出品しました。以前にくらべサイズこそかなり小さくなっていますが、迫力は減じていません。
 皮革では、一般の土倉龍子さん(苫小牧)「静と動」が、立体で、大海原のような力強さを感じました。

 ガラスは5点とも一般。千葉時代さん(札幌)は、暖色のあかりスタンド「バラの花」と、エングレービング技法で十二単の女性を表現した「春の夜に…」と、まったく傾向の異なる2点。
 漆芸は、会員の山崎友典さん(石川県輪島市)「雷鳥蒔絵棗」1点だけですが、さすが伝統の重みを感じさせます。


08年4月16日(水)-20日(日)10:00-18:00(最終日-16:00)
札幌市民ギャラリー(中央区南2東6)

□美工展 http://www.geocities.jp/bikouten/index.html

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4 コメント

コメント日が  古い順  |   新しい順
レスおくれてすいません (ねむいヤナイ@北海道美術ネット)
2008-05-19 22:51:37
ご丁寧に恐縮です。
わけのわかっていないまま書いていることも多いと思いますので、よろしくご教示ください。
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こちらこそ (北海道美術工芸協会 羽賀 隆)
2008-05-17 22:04:41
こちらこそ今後ともよろしくお願いいたします。
あらゆるアートシーンを踏破(看破?観破?)し、膨大な書きこみを続ける梁井さんに心から敬意を表します。
返信する
たいへん失礼しました (ねむいヤナイ@北海道美術ネット)
2008-05-17 21:28:20

アップが遅れた上に間違ったことを書いてしまってまことに申し訳ございません。

土屋さんの退会は残念に思います。

団体を維持していくのはいろいろなご苦労があると思いますが、美工展の良さをこれからも維持していってください。
今後ともよろしくお願いいたします。
返信する
ご講評ありがとうございます (北海道美術工芸協会 羽賀 隆)
2008-05-17 21:16:28
梁井さんご指摘のとおり、道都大芸術学部の皆さんの出品は当協会に大きな刺激となっています。草分けは漆芸の会員の山崎友典さんで、同大を卒業後、本格的に勉強するべく輪島市が運営する漆芸専門学校で2年を終了し、大地震にもめげずにそのまま修行を続けています。
私の作品も取り上げていただきありがとうございます。恐縮ですが「美しいあかりなどを作ってきた」のは、土屋秀樹さんのことではないかと思います。土屋さんはお父さんが亡くなられ、代わって家業に専念するため(彼のあかりもその一部ですが)残念ながら昨年退会しました。
長文になり申しわけありません。
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